2019年9月に初版が発行された本。
著者の庄子利男氏は、出版社、編集制作会社を経て、1992年に編集制作会社・株式会社プレスメディア社を設立し、代表となった。
近年は、映像作家として日本の美しい四季をテーマに作品づくりに取り組んでいるほか、写真教室などで講師も務めている。
本書は、旅行先でスマホを使って撮る写真をよりきれいなものとするため、筆者が持つ知識やコツを記したものである。
ページ数は全体で100ページ弱。
写真の掲載が多いため、ちょっとした空き時間にでもすぐに読むことができるボリューム感の本となっている。
スマホカメラの基本機能
ピント調整
スマホカメラにはオートフォーカス機能(自動でピントを合わせる機能)がついているが、画面上で対象物をタップすることで、その物にピントを合わせることができる。
また、この際には明るさも自動調整してくれる。
明るさ調整
ピントと同じく、明るさも自動調整してくれる機能が備わっているが、こちらも手動で調整することが可能。
ピントを合わせたい部分をタップすると、黄色い枠と同時に太陽マーク(Androidは±)が現れるので、それをスライドすることによって明るさを調整できる。
ズーム
2本指でスマホの画面を広げるようにすると、ズーム機能(デジタルズーム)を使うことができる。
ただし、この機能は画像の一部をトリミングして拡大しているのと同じなので、画質が劣化してしまう。
自らが被写体に近づける場合には、ズーム機能は使わない方がいい。
グリッド線
iPhoneの場合、設定→カメラ→「グリッド」をオン、でグリッド線を表示させることができる。
水平・垂直の目安になるだけでなく、構図(後述)を決める際にも役に立つ。
AE/AFロック
ピントを合わせるために画面をタップした際、そのまま長押ししていると「AE/AFロック」という文字が表示され、明るさやピントがそのときの調整で固定される。
同じ被写体を何枚も連続して撮る場合には便利。
知っておくと便利なスマホカメラ機能
Live Photos
iPhoneの「Live Photos」を使うと、シャッターボタンを押した瞬間の静止画と、前後1.5秒ずつの動画を記録できる。
再生画面の「編集」から「キー写真に設定」を選ぶと、任意の再生点を静止画として取り出すことができるし、エフェクトからループ、バウンス、長時間露光などを選択できる。
「長時間露光」は特に有用で、滝のように連続的に動くものを滑らかに写したり、風景に写り込んでしまった人を消したりできる。
ポートレートモード
メインの被写体以外をボケさせると、被写体が際立ち、全体的に柔らかい雰囲気の写真を撮ることができる。
一部の機種では「ポートレートモード」を使うことによって簡単にボケさせることができるが、それ以外の機種でも被写体にできる限り近づき、被写体と背景の間の距離を十分に取ることができれば、ボケさせることが可能。
パノラマ
フレームに収まりきらない風景などは、「パノラマ」機能を使うのがおすすめ。
シャッターボタンを押してから数秒かけてゆっくりとカメラを動かすことで横長の風景を1枚で撮影できる。
また、応用として、スマホを横向きに持ち、上下にゆっくりと動かすことによって、タワーや高層ビルなどの縦長のものも撮影できる。
HDR機能
明暗差のある状況では、「HDR機能」を使うと、通常の写真では白飛びしてしまうような明るい部分などを、肉眼で見るのと同じようにくっきり写すことができる。
光の向き
被写体に向かってカメラを構えたとき、被写体の奥から光が差している状態が「逆光」、横から差している場合が「サイド光」、カメラの後ろから差している場合が「順光」、「逆光」と「サイド光」の中間が「半逆光」、「サイド光」と「順光」の中間が「前斜光」と定義される。
風景写真をきれいに取るなら「順光」が基本だが、対象や演出したい印象次第では他の向きの光も使用する。
逆光
- ドラマチックな演出がしたいときやシルエット写真を撮りたいときに使う
- 夕暮れの野原や、海辺でのシルエット、透けた花びら、水面の反射などで特に有用
- 画面全体が暗くなりがちなので、被写体の最も暗い部分をタップして明るさ調整をする必要がある
半逆光
- 被写体に自然な影をつけて、メリハリのある写真を撮りたいときに使う
- 山や城、建物などの立体感や質感を表現したいときに特に有用
- 全体的に暗い印象になりがちなので、暗くなっている部分をタップして明るさ調整をする必要がある
構図パターン
被写体を画面中央に収めて正面から撮るとワンパターンになりがち。
構図を工夫することによって、被写体の魅力を十分に引き出せるようになる。
ハイアングル
- 写真に広がりを持たせ、風景の壮大さと奥行きを強調できる
- 都市の壮大さや花畑の広大さを伝えたい際などに有用
- 頭上にカメラを掲げる際には、水平を保つように注意する
ローアングル
- 被写体の高さを強調し、写真に迫力や動きを出すことができる
- 建造物に力強い印象を持たせたり、空を背景にして開放感をプラスしたい際に有用
三分割構図
- 画面の縦と横をそれぞれ3等分し、3等分する際のライン上やその交点に被写体を置く構図
- バランスの良い写真を撮ることができ、様々な場面で有用
- グリッド線を利用すると撮りやすい
二分割構図
- 写真全体を、被写体の境界によって上下または左右に二分割する構図
- コントラストの美しい写真になるため、海と空や山と海、街並みと空などの風景撮影で有用
- グリッド線を参考に、傾かないように撮影する
三角構図
- フレームの中に三角形を意識して撮る構図
- 奥行きや高さが強調されるので、風景写真で特に有用
- 見る人の視線を下から上へと誘導する効果がある
- 全体で三角構図になっていればいいので、被写体が三角形(山など)でなくてもいい
逆三角構図
- フレームの中に逆三角形を意識して撮る構図(三角構図の逆)
- 緊張感や不安定さを感じさせる、インパクトのある写真が撮れるので、渓谷や滝などで有用
- 見る人の視線を上から下へと誘導する効果がある
日の丸構図
- 中央に被写体を配置する構図
- 被写体のみをアピールできるので、植物のアップや動物の顔、乗り物などで有用
- 風景の場合には、周りに空間ができ、見る人に開放感や安らぎを感じさせる効果がある
- 単調に見えてしまうリスクがあるので、無意識に多用しないように注意
対角線構図
- 対角線を意識して被写体を配置する構図
- 写真に奥行きを感じさせることができるので、橋や電車、家並み、並木などで有用
- 正面からでは全体が入りきらないような被写体にも適している
- 視線を斜めの方向へ誘導し、先端にある被写体の印象を強める効果がある
フレーム構図
- 被写体の手前にある窓枠や格子戸をフレームに見立てて撮る構図
- 背景の印象を強めたり、臨場感を演出したりする効果がある
- フレームを影にすることによって、視線をフレームから奥の景色へと誘導し、奥行きや遠近感を感じさせる効果がある
パターン構図
- 複数の被写体が多数、規則的に並んでいるように撮る構図
- 花畑や落ち葉、生き物の群れなどで有用
- わくわく感やリズム感を抱かせる効果がある
遠近構図
- 被写体に近づき、手前に大胆に入れ込む構図
- 被写体の迫力と、写真の奥行きを表現する効果がある
- 手前の被写体に暖色系の色合いを入れると手前への広がり感、背景に寒色系を入れると奥行き感が増す
季節ごとの撮り方
春
- 桜の並木道や全体像は順光、花びらは逆光で撮影する
- 一本桜は日の丸構図一辺倒ではなく、三分割構図も利用する
- 白っぽい花は暗く写ってしまうので明るさ調整
- 曇りの日は空を入れると暗くなるので、空が写らないようにする
夏
- 「涼」や「動」を感じさせる被写体(風鈴、日傘、入道雲、盆踊りなど)は夏らしさを演出できる
- 風鈴はあえてスマホを少し斜めに傾けてそよいでいる雰囲気を出す
- 盆踊りやまつりはフラッシュを使わずに、周辺の照明を利用すると雰囲気を出せる
秋
- 紅葉を色鮮やかに撮るなら順光、葉単体を近寄って撮るなら逆光
- 水面に写った紅葉を撮るなら二分割構図を使う
- 落ち葉はパターン構図を使う
冬
- 雪景色は、明るさ調整と立体感を意識して撮る
- 晴れた日は照り返しが強く、手動での明るさ調整が必要
- 寒さを強調したい場合には、フィルター加工で「ビビット」などの青系の加工をする
旅先での撮り方
- 撮りたい主題を絞り、余計なものは写さない
- ドラマチックな写真を撮りたいなら、日の出前と日の入り後の約30分間に少し暗めで撮影する
- 特徴的な雲(入道雲、巻雲など)を入れて季節感を演出する
- 夜景は真っ暗になる前の時間帯がおすすめ。明るさ調整とブレに注意
- 青い海は順光、海面のきらめきは逆光で撮る
- 雲海は木々や山並みで遠近感を表現する。白飛びに注意
- 窓越しに撮るときは反射を防ぐためにスマホを窓にぴったりくっつける
- 山の写真は人物を入れて奥行きや壮大さを表現する
- 神社仏閣は人物や周辺の景色を入れて大きさや厳粛さを表現する
- 社寺は晴れた日だと屋根の下に影ができてしまうので、薄曇りの日がおすすめ
- 料理は照明の真下で斜め45度からはみ出すくらいに撮る。器や配置重視なら真上から撮る
- 客室は垂直と水平のバランスに注意し、室内灯と自然光で部屋の隅から撮る
- 城は石垣と天守閣の二分割構図で撮る。春は桜が石垣を覆い隠すように撮る
まとめ
旅先でのシーンごと、季節ごとで具体的な撮影方法が解説された一冊だった。
直近で紹介した『たのしいカメラ学校の教科書』がスマホの機能に焦点を当てているとすれば、こちらは撮影の技術にフォーカスした書籍だと言えよう。
目的に応じた方を読むと役に立ちそうである。
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