2019年8月に初版が発行された本。
著者の外山滋比古氏は、文学博士、評論家、エッセイストとしてマルチに活躍している。
専門は英文学だが、思考、日本語論など様々な分野で仕事を続け、多数の著作を持つ。
本書は、筆者のこれまでの著作の中から、「柔軟にものごとを見るヒント」となるような箇所を抜粋してまとめたものである。
文量は全体で180ページ。
抜粋集という特性上、1ページあたりの平均文字数は少なく、非常に短時間で読むことができるだろう。
各小テーマの中から、印象的だったものを取り上げる。
余裕のあるアタマをつくる
忘れる才能
悪い出来事、失敗したことにいつまでもこだわっているのは愚かなこと。
新しいことに夢中になり、悪いことをすぐに忘れるのもひとつの才能である。
目的思考と自由思考
思考には2種類ある。
ひとつは目的思考で、これは特定の何かについて考える際の思考。
もうひとつは自由思考で、課題や問題にしばられず、完全に自由に頭を働かせる際の思考。
子供がそうであるように、自由思考に適する頭を持っていると、しばしば天才的な発想が得られる。
単なる記憶は役に立たない
忘却は悪いことと決められがちだが、コンピューターが出現した現代において、機械的記憶力に強い意味はあまりない。
むしろ、物事を判断したり、選択的忘却をすること、考えることが人間に求められる力である。
知っただけで満足しない
知識そのものは新しいものを生み出さない。
忘却によって洗い、流され、削られ、加工されたものから、創造は生まれる。
田舎の学問より京の昼寝
地方で学問に打ち込む人より、都でのんびり昼寝している人のほうが、立派な学問をするという意味。
本ばかり読むのではなく、忙しさの合間を縫って、昼寝をする。
そうすることにより、自然に頭が整理され、成果を上げられる。
使える記憶だけを残す
1回で覚えるのは人間には不可能。
繰り返しインプットされることによって、記憶は中層記憶に達し、やがてさらに深化して定着する。
常識から自由になる
その声は本当に多数派の意見か?
大体のことにおいて、声をあげるのは、どちらかと言えば例外的な人、少数派である。
それをわきまえておかないと、例外的なものを多数派だと思い込むことになってしまう。
知識で物事を判断しない
経験が不足していると、知識でものを判断しがち。
しかし、人間社会はなんでも知識でサラッと解決できるようにはできていないので、それをあらかじめ肝に銘じておく必要がある。
同じ言葉でも千差万別
ひとつの言葉にはひとつの意味だけが結びついているわけではないし、使う人間や価値観によってニュアンスは変わってくる。
新しいものは嫌われる
人間は自分の好みに合わせてものを選びたがる保守的な生き物である。
例えば優れていても新しいものというのは嫌忌されやすい。
押してダメなら引いてみよ
敵と張り合っているときに、常識的な方法では、敵の欠点を突いて攻撃をする。
しかし、逆手をとって、相手をホメちぎって、手も足も出させないようにするという高等戦術もある。
流れる水は腐らない
人間も水と同じで、動くことをやめると、腐る、つまり活力を失ってしまう。
わからないことは放っておけ
謎と疑問は放っておく
放っておくと、偶然、その答えを暗示する状況が現れ、ひらめきが訪れることがある。
わからないから心に刻まれる
わからないことは心にひっかかるのでいつまでも忘れない。
反芻しているうちに、だんだん心の深部に達するようになり、長期記憶として刻まれる。
知識は時間をかけて知恵になる
知識というものはいつも変化しながら流れている、いわば流行のようなものである。
それは、インプットしたそばから忘れていくものであるが、その中でごく一部が自らの深部に達し、知恵に形を変えて自らのものとなる。
みんなでつつくと見えるものもある
これは完全に「三人寄れば文殊の知恵」だが、各々が考え方の個性やクセを持っていたりして、思わぬ発見があることもある。
考え方のバリエーション
未知の世界というのは、物や場所や知識に限ったものではない。
むしろ「新しい思考」こそ、最も多彩な未知の世界である。
完全な理解などあり得ない
外国語学習は、暗号解読みたいなもの。
そういったものをすぐに完全理解することはできない。
絶えず解読に取り組むことによって、次第に発信者の意企するところを察することができるようになっていく。
わからない面白さを味わう
外国の文学などを勉強してみると、第四人称の立場から自分なりの解釈ができる。
読む作業を通じて大きな自己表現ができるから面白い。
ひらめきを生む習慣
点をつなげて、線で見る
点、つまり省略の多い、解釈の余地の大きい表現を線にする(解釈する)のは一種の言語的創造を伴う面白い作業である。
他人の手を借りる
添削や推敲はどちらも表現をより客観的にする加工である。
しかし、推敲は添削ほど上手くいかない。
自分で行うがゆえ、対象表現との距離が小さすぎて、甘くなってしまうためである。
比べてみると見えてくる
旅行者が未知の土地について、優れた観察や発見をすることが少なくないのは、その土地の人と違って、他との比較が可能だからである。
ムダを目の敵にしない
ムダはいけないものではない。
芸術はムダの中から生まれる贅沢な花である。
ムダは文化である。
雑談は発見のタネ
親しい者同士が集まった際の雑談でも、本当に頭を働かせた話をすれば、思いがけない着想を得ることができる。
発見、発明などは、きっかけを話し言葉にもっていることが少なくない。
時にはアウトサイダーたれ
アウトサイダーはインサイダーの真似事をするのではなく、アウトサイダーでなくてはできないことを考え、実行すべきである。
日本語をしなやかに使う
日本語は豆腐のようなもの
日本語は言葉を切りやすくできてはいるが、積み重ねてしっかりとしたパラグラフを成立させることはむずかしい。
ヨーロッパの言語とは真逆である。
出しゃばりは嫌われる
日本では、出しゃばる人は、無用の摩擦を起こす存在として煙たがられる。
だから日本語も、第一人称をあまり重視しないものになったのだろう。
「言葉」が変われば「論理」も変わる
言語と論理は密接な関係にある。
外国語に限らず、同じ日本語でも関東と関西では言葉が違うのだから、論理も異なる。
まず聞かせて、のち見せよ
日本人の頭脳は視覚的言語能力によって発達してきた。
その反面、聴覚的言語能力によって磨かれる頭脳、思考力に欠けるところがあり、欧米人の思考に及ばないところがあるとすれば、それが原因である。
独白、詠嘆による表現
最終的な形の思考を、独白又は詠嘆によって表現するのが日本的発想である。
言葉で間合いをはかる
何かを言うとき、その内容ではなく、雰囲気や情緒が重視される。
これは言語的洗練が進んでいると見ることができる一方で、論理に弱いと見ることもできる。
アウトプットもやわらかく
耳心地のよい文はつまらない
耳心地のよい文は実は読者の心には引っかからない。
読者を惹きつけるには、「おや?」と感じるような論理の飛躍がある文書を作ったほうがいい。
まず読み手を想像する
どういうことを、どういうふうに、どれくらいの長さで、だれを対象にして書くものかという感覚を自然に持つようにする。
文章を考える順序
単語→文→パラグラフの順序ではなく、パラグラフ→文→単語の感覚で身につけるのが良い。
タイトルはひとひねり
内容を伝えたい際には同調的なタイトル、芸術的効果を狙う際には不同調的なタイトルをつける。
ともあれ毎日書く
上達したいのなら、毎日書くことである。
毎日の積み重ねから、オリジナルのスタイルがおのずと生まれ、上達する。
人の話は最後まで聞く
言論を大事にするのなら、たとえ意見が違ったとしても、相手の話をじっと最後まで聞く度量がなくてはならない。
外国語学習の思わぬメリット
外国学習の目的は第一義的には外国人との意思の疎通等の実学的目的だが、外国語であるからこそ可能になる新しい思考を身につけるというのも立派な目的となりうる。
自由自在に生きるコツ
人生は長い目で見る
人生はマラソンのようなもので、スタートで躓いたとしても悲観することはない。
実力がものを言うようになるのは、折り返し地点あたりまで来た段階である。
苦しい経験が判断力を育む
判断力が鍛えられるのは、苦難や危険に出会い、必死で考えたときである。
風のように本を読む
同じ本を何度も読み返すのはあまり得策ではない。
限られた時間の中でたくさんの本を読み、自分の波長に合ったメッセージに出会うことにより、人間は進化する。
自慢したい気持ちはためておく
ゴシップのような話をついついしてしまうものだが、それをぐっと我慢すれば、おのずから精神力は充実し、新しいことに立ち向かう活力を生む。
無から生もうとするから途方にくれる
新しいものを考え出すには何らかのタネが必要。
既存の知識に自分ならではの経験を加えることで、オリジナルな思考が生まれる。
ここぞというときに使えるもの
喜楽を抑えるよりも怒哀を抑える方がよっぽど難しい。
それだけに、成し遂げるには相当な自己鍛錬が必要。
鍛錬をしていれば、心中の内圧はおのずから高まり、ここぞというときに爆発的に働いて困難を乗り越えることができる。
まとめ
そもそも本書自体が著者の他の作品からの抜粋集である上、文学的タッチで執筆されているため、非常に抽象的であった。
そっくりそのまま役立てるというよりは、格言的な位置づけとして、心理的なエネルギーに換えるのが良さそうである。
今回は個人的に印象に残ったもののみを紹介したが、人によって琴線に触れるフレーズは異なっていることだろう。
実際には本記事で紹介した分量の数倍の内容があるため、目を通してみることで、自分に合ったフレーズが見つかるかもしれない。
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