2012年10月に初版が発行された本。
著者の木山泰嗣氏は、税務訴訟及び税務に関する法律問題を専門にする法学者・弁護士。
青山学院大学法科大学院での客員教授や上智大学法科大学院での講師経験も持つ。
本書は、主に仕事で使うような大量の資料を素早くさばくための手法について、筆者が実践していることを解説したものである。
ページ数は、あとがきまで含めて約220ページ。
作業の順番に沿って記載されており、読者が各自で必要な部分のみをピックアップして読むことができるような構成となっている。
心構え
まずは、大量の資料を渡されたときに、どういったメンタルでそれに臨むかということについて。
大前提として、「与えられた資料は全部読まなければならない」という考えは捨てるべき。
なぜその資料を読むのかという目的、自分はどういう役割を求められてその資料を読むのかという意識を持ちながら、それに対応した資料のみを短時間で集中して読むことがコツ。
概要をまとめた資料を先に読んでしまうことも、スムーズな理解の助けとなるだろう。
時間を設定し、集中力が発揮できる環境をつくって、自分のペースを保つことが非常に大切。
情報収集の技術
情報の正確性や専門性を重視し、基本的にはインターネットではなく、紙の書籍(専門書)や論文等で情報収集を行う。
手順は次のとおり
- 関連情報が含まれると思われる書籍を大量に調達する
- 本の後ろについている「事項索引」で関連キーワードを片っ端から調べる
- 関連書籍を図書館で探し、必要箇所を奥付と合わせてコピーし、セットで保管する
- 脚注に掲載されている論文をすべて入手し、マニアックで有益な情報をキャッチする
- 疑問点をピックアップし、調べたり、詳しい人に聞いたりする
- 著者・書籍(論文)・出版社名をまとめた「文献リスト」と、それに加えて重要箇所を引用した「重要文献メモ」を作成する
わからない用語の意味を知りたいときは、インターネットで検索し、実用例を大量に見て把握するのもひとつの手。
ただし、正確な意味を調べるには事項検索を使ったほうが良い。
情報の整理
大量に紙媒体資料を集めた後の整理について。
手順は次のとおり
- 全体を見渡して、何がどこにあるのか把握する
- ファイルの背表紙に、内容を示したタイトルをつけたラベルを貼る
- そのファイルに、どのような順序で何が書かれているのかをまとめたメモやふせんを作成する
- 目的を確認し、必要な資料と不要な資料を分別する
- 資料を集めた人に聞くなどして、最初に読むべき資料(コアとなる概要資料)を見つける
- 登場人物や取引関係は関係図、動かない事実は時系列(年表)にまとめる
- 主たる調査事項と、もっとも重要なポイントをまとめたメモを作成する
資料の分別までは特に短時間でやることを意識する。
また、資料を読んでいて生じた疑問はメモし、それを解決する意識を持って読んでいく。
情報の分析
情報の整理ができたら、続いてそれを分析する。
手順は次のとおり
- とじられている資料の分類や、順番についておおざっぱなパターンを見つける
- 今までの経験や、先輩・上司などに聞いて得られた「特定の視点(主観的な判断基準)」で資料を見る
- 客観的な資料とそうでない資料(担当者のメモなど)を分けて、集中して読むべき資料を選別する
- 正式文書(完成版)とそうでないものを分ける
- 箇条書きでA4用紙1枚程度にまとめる
担当者のメモや、決定までのプロセス資料は、大して重要ではないので、基本的には読み飛ばす。
資料の読み込みを行う中で、「もっとも重要な情報」が書かれた1枚ないし複数枚を見つけることができれば、理解の大きな助けとなる。
素早く読む技術
情報の収集、整理、分析について見てきたが、そもそも大量の資料の中から必要な情報だけを素早く読めなくてはスムーズな仕事処理は厳しい。
コツは次のとおり
- 目的意識を持って最小限の事項だけ読む
- 重要度に応じて読むスピードに緩急をつける
- タイトルだけ読んで概要をつかむ
- 特定のキーワードだけを目で追って、その周辺のみを読む
- 疑問点や目的に関連する箇所だけを読む
キーワードや疑問点、目的は複数あることが多いが、すべてをいっぺんに追うと見逃しが発生するため、ひとつに絞ってパラパラとページをめくる方が良い。
内容を理解する思考
大量の資料を素早く読み込み、その内容をどうやって頭に入れるかについて。
これは資料読解に限らず、普段の思考においても有用である。
動かない事実だけで事案を分析する
対立するもの同士の主張において、食い違っている部分は削ぎ落とし、争いのない(動かない)事実のみで考えることにより、考えるテーマの素材をできる限り少なくすることができるため、頭に入れやすくなる。
二項対立
「二項対立」とは、対立する大きな2つの考え方のこと。
(例:賛成派と反対派、必要説と不要説、形式的と実質的など)
複数の考え方がある場合に、大きな対立点を分析し、2つの考え方に分類して検討したり、それぞれの立場の視点を使って物事の分析を行ったりするのに役立てることができる。
あるはずの事実や資料に着目
資料を読み込む中で、普通に考えれば「あるはずの事実」や、「あるはずの資料」について推理したり、探したりする。
その後、推理の裏付けや資料の探索を行い、もし想定と異なった場合には、その理由まで考える。
この方法は、不足している情報を見つけるのに役立つだけでなく、一般的な事例との対比を自分の頭の中で構築し、事案を正確に把握することにも役立つ。
同種・類似事案との比較検討
目の前の事案を、これまでの経験から蓄積された同種・類似のパターンと比較して、共通点や相違点を探る。
ほかの類型もみることにより、物事の本質をつかみやすくなる。
変化に着目
感覚を研ぎ澄ませ、今読んでいる資料の中にある、ちょっとした変化や違いに敏感に気付けるようにする。
この意識を持つだけで、実際に変化や差異を見つけやすくなる。
変化を見つけたら、その理由を考え、合理的な理由があるか否かで、一貫性や信頼度の判断に役立てる。
当事者の立場で考える
当事者の立場になって考え、最終的に当事者の真意を読み取ることを目指す。
ひとつの行動だけで真意を読み取るのは困難だが、行動を時系列で追っていけば、ある程度確度が高い推理に到達することは可能。
現象の裏には人の行動があり、人の行動の裏には人の心理がある。
より深い理解をするためには、その段階まで到達できることが大事。
普段からよく観察し、想像する習慣をつけておくのがおすすめ。
信用判定要素
互いに食い違う、複数の主観的な供述については、「信用判定要素」を用いて信用性を判断する。
信用判定要素には次のようなものがある。
- 客観的な証拠との整合性があるか
- 供述に一貫性があるか
- 供述に変遷がある場合には、合理的な理由があるか
- 供述内容が具体的かつ詳細か
- 供述をする人に利害関係がないか
- 供述内容は自然か
中でも、客観証拠との整合性はもっとも重要な要素である。
根拠をつきとめる
仕事として情報収集をしている以上、それをまとめて成果物として出すことはほぼ必須。
その際には、報告と合わせてその根拠の提示が必要となる。
資料を読み込む中で、その資料が何を立証できるのか考えると同時に、根拠となりうるのか判断しなければならない。
判断のコツは次のとおり
単体で証明力を持つ資料か
一般的に、公的な資料や契約書などは信用力が高いとされる。
具体的には、署名や記名押印があるもの、就業規則、内規、取締役会議事録、稟議書、不動産登記簿謄本、商業登記簿謄本、印鑑登録証明書、戸籍謄本、住民票、営業許可証などが、客観的で強力な根拠資料となる。
押印
契約書や議事録等の正式書類は基本的には押印があるので、その有無で正式書類かどうか判断する。
作成者名
資料の作成者名には注目すべき。
作成者の肩書きによって、どの程度の権限があるものによる文書なのか(どの程度の証明力となるのか)が判断できる。
作成年月日
公文書や契約書類などの重要書類では、作成年月日を入れることは必須。
逆に言えば、作成年月日の有無は、その資料の信用力に大きな影響を及ぼす。
奥付
文献や論文などの場合は、奥付があり、そこにはタイトルはもちろん版数、著者、発行年月日、増刷情報などの有益情報が詰め込まれている。
発送日、受領日
メールや郵送物の場合、発送や受領の年月日は各種期限との関係で非常に重要な要素となる。
また、時系列を把握する際にも有用。
まとめ
大量の資料の読み込みについて、その方法を具体的に示した一冊だった。
弁護士としての業務を主軸に話が展開されているが、多くの資料をさばかなければならない仕事に共通する部分は多いので、そういった職種の方は参考にしてみると良いと思う。
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