たった5分でわかる『短期間で社員が育つ「行動の教科書」-現場で使える行動科学マネジメントの実践テキスト』

2018年2月に初版が発行された本。

著者の石田淳氏は、株式会社ウィルPMインターナショナル代表取締役社長兼最高経営責任者。社団法人行動科学マネジメント研究所所長や社団法人組織行動セーフティマネジメント協会代表理事などの経歴も持つ。

本書は、会社の中で大多数を占める「普通の社員」の教育について、上司が気をつけるべき事項を解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて230ページ弱。一部、専門用語が登場するものの解説や具体例が付いているため、誰にでもわかりやすい本となっている。

本記事では重要な部分を抽出してまとめている。

会社の8割は普通以下の人

「2:6:2の法則」というものが存在する。

会社の中で2割が「できる人」、6割が「普通の人」、2割が「できない人」であるという内容で、この割合は会社や人の入れ替わりによって変わるものではない。例えば、8割の「普通以下の人」を辞めさせても、2割の「できる人」の中から、「普通の人」と「できない人」が生まれるだけである。

そもそも「できる人」は、特に注力しなくても自走して勝手に成長するし、逆に手をかけたとしてもヘッドハンティングなどであっさり転職していくリスクもある。人材不足のこの時代、注力すべきは8割を占める「普通以下の人」であり、全体のレベルを引き上げることで、2:6:2の割合は変わらずとも、会社全体のパフォーマンスを引き上げられる。

具体的な行動へのフォーカス

2割のハイパフォーマーは、バツグンのセンスを持っているため、なんとなくの感覚で高い成果を上げられるが、8割の人はそのようなことができない。

8割の人に対しては、「真剣にやる」「視野を広げる」といった抽象的な指示は意味を持たない。スローガンが意味を持つのは、その内容を理解し、成果を出せるハイパフォーマーに対してのみであり、普通以下の人に対しては、具体的な行動を上司が提示することが必須となる。

具体的な指示は、以下の内容を網羅していることが必要。頭文字を取って「MORS(モアーズ)の法則」と呼ぶ。

  • Measurable(計測できる)
  • Observable(観察できる)
  • Reliable(信頼できる)
  • Specific(明確化されている)

特に重要なのは「計測できる」こと。日時や期限、回数、金額などをできる限り数値化することによって、指示を受けた人によって基準がブレることなく、評価も確実かつ公平に行える。例えば、「積極的に電話をかけて」ではなく、「今日の正午までにアポとりの電話を3本かけて」という指示を行う。

具体的な指示を行うコツは、行動を細かい要素に分解すること。プログラミングで作業を細分化して指示を出すように、目標達成までのプロセスをできるだけ小さな行動に分解して指示を出す。それによって、目的達成までの道筋が明らかになる。

誰が見ても同じ行動ができる教科書の作成

普通以下の人が、難解で分厚いマニュアルをいきなり渡されたとする。果たして理解ができるだろうか。答えはもちろん否である。それどころか、読む気すら起こらない人がほとんどだろう。読まれないマニュアルほど無意味なものはない。

教科書の作成におけるポイントは、小学5年生が理解できる範囲の言葉を使うこと。大げさに聞こえるかもしれないが、万人が理解できるレベルのマニュアルとはそういうものである。

ボリュームもできる限り少なくする。とにかく「これだけやればいい」という、具体的かつ最小限の行動を示すことで、全体の水準を引き上げ、最大の効果を上げることを目指す。

マニュアルを作る側は業務としてやっているので、ついつい網羅的な分厚いマニュアルを作成してしまいがちだが、それは逆効果。本当に重要なのは、家電製品の「スタートアップ用簡易マニュアル」のような、ペラ1枚で済むマニュアルが理想。

行動の教科書の作り方

行動の教科書全般の注意事項はこれまでに示したとおり。

当然のことながら会社によって業務や体制は異なるので、会社に合った教科書を作る必要がある。
作り方は以下の7ステップとなる(6と7は使い方に近い)

  1. できる社員の行動を観察しインタビューする
  2. できる人の「5つの思考プロセス」をフレームワーク化
  3. できる人のピンポイント行動を抽出する
  4. できる人の行動と思考を組み合わせ、言語化する
  5. できる人の行動と思考を脚本家する
  6. 結果に直結しない行動をとる原因を特定、環境を変化させる
  7. 望ましい行動をゲームをするように繰り返し、定着・習慣化

できる社員の行動を観察しインタビューする

対象は3~5名のハイパフォーマー。先述の「MORSの法則」に従い、営業成績や売上など、明確な基準で対象者を選定する。ただし、営業エリアが良かった、上司が良かった、といった環境要素もあるので、一概に数字のみで判断するのは危険。

対象者を選んだら、仕事内容に応じた聞き取りシートを準備して、1日中観察する。営業先について行けるなら、挨拶のしかた、声の大きさ、話す速度、資料の渡し方、クロージングの言葉なども細かに観察する。観察できない部分については、インタビューで探る。

ハイパフォーマーは感覚で仕事ができてしまっているケースが多いため、インタビューの際には、相手の言葉を鵜呑みにするのではなく、数値化できる要素までインタビュアーが掘り下げることが重要。また、営業職の場合は他の社員がライバルであるケースもあるので、手の内を明かしてもらうために、少しでも気分よく話をしてもらう工夫も大切。

できる人の「5つの思考プロセス」をフレームワーク化

「5つの思考プロセス」のフレームワーク化とは以下のことを指す。

  1. 最終ゴールとそこに至る複数の小さなゴールの想定
  2. 小さなゴールに至る日々の行動の聞き取り
  3. 行動の意図を読み解く
  4. 意図を実現するために無意識に行っていることと考えていることを想定
  5. 再現性の検証

ハイパフォーマーが無意識のうちに考え、実行しているプロセスをいかにして言語化、一般化し、教科書に落とし込み、8割の人たちにも身に着けてもらうかが重要。ハイパフォーマー自身、意識して行動しているわけではないため、表現を変えてインタビューしたり、日を改めるなど、根気よく掘り下げることが必要。

できる人のピンポイント行動を抽出する

ステップ1で探り出した行動の中から、業績に直結するピンポイント行動を抽出する。ハイパフォーマーといえど、無駄な行動が一切ないわけではないし、8割の人がハイパフォーマーの行動を隅々まで完コピするのは不可能。そこでピンポイント行動のみを厳選して伝えていくのが効果的。

ピンポイント行動の可能性があるのは、ハイパフォーマーは必ずやっているのに、そうでない人たちに抜けている行動。

できる人の行動と思考を組み合わせ、言語化する

ピンポイント行動と思考プロセスがわかってきたら、徹底した言語化を行う。

ピンポイント行動や、その行動を決定づけた前後の思考を大きなの付箋などに書き出し、時間の流れに沿って並べ替えていく。その際、抽象的にならないよう、具体的な行動かつ小学5年生でもわかる簡単な言葉で言語化するように気をつける。

できる人の行動と思考を脚本家する

ピンポイント行動だけ繋げても、実際の業務の流れに沿った脚本はできないので、ステップ4で並べ替えた行動の間を、ピンポイントではないが普通にやるべき行動で埋めていく。その際も小学5年生にわかる言葉かつ1行、12字~15字に収めることを意識する。

さらに、行動の欄外に、補足を付け加える。例えば、「持っていく資料を揃える」の補足として、具体的な資料を書き加える。ピンポイント行動については、ハイパフォーマーから具体的なセリフを聞き出し、明示する。

脚本を作る際、「◯◯の場合、✕✕する」というような分岐は作ってはならない。8割の人は、分岐が出た時点で読むのをやめてしまう。「うまくいくたったひとつのシンプルなパターン」を作成する。

結果に直結しない行動をとる原因を特定、環境を変化させる

教科書の内容を実行する=新しい習慣を身につける際に、周囲の環境が邪魔をすることがある。例えば、精神論を振りかざす人たちや職場のギスギスした雰囲気、その他気を散らす環境要因など。

足を引っ張る「ライバル行動」が発生する要因がないか吟味し、その環境要因を断つ。

また、部下が自己効力感(「自分はできる」という思い)を持てるように自己の成功体験や代理的体験(他者がその行動をうまくやっているのを見ること)を積ませることが重要。

望ましい行動をゲームをするように繰り返し、定着・習慣化

とにかく3ヶ月続けさせること。3ヶ月続ければ、それは習慣となり、やらされ感もなくなる。歯を磨くのが当たり前であるのと同じように、教科書に書いてあることを実行するのが当たり前として定着する。

教科書の使い方

行動の教科書を用いることによって、上司は明確な基準に沿ったフィードバックを行うだけで良くなるので、上司の個人的な好みに影響されない、部下への偏りのない接触が可能となる。よりはっきり言えば、ハイパフォーマーであることが多い管理職とそりが合わないことが多い「普通以下の人」との接触が多くなる。接触回数が増えれば、教科書に沿った仕事方法の指導も多く行えるようになる。

多くの人は「自分はできる」と勘違いしている。実際にはできていないのだが、できると思いこんでいるがゆえに、なかなか自分のやり方を変えようとはしない。彼らの自尊心を傷つけずに負担感を減らして、新しい行動を取ってもらうためにはコツがいる。

プライドが高い人に対しては無理に行動を強制するのではなく、「そういうもの(教科書)があるらしい」というアプローチから始める。あるいは、その人の後輩などに教科書の内容を実践させ、成果が上がっていることに気づかせる。それによって、本人も徐々に興味を示し、手に取ってくれるようになる。

望ましい行動を繰り返し取ってもらうためには、社員が望ましい行動を繰り返したくなる「強化刺激」が必要。
次の要素を入れ込んだフィードバックを行うことが効果的である。

  • 達成感が発生する
  • 承認欲求が満たされる
  • 貢献度がわかる
  • 成長度が見える
  • 自己肯定感が高まる

効果的なフィードバック方法

フィードバックでは、以下の点がポイント。

  • スモールゴールをたくさん設定してこまめに達成感を得させる
  • 失敗体験を積ませるのは大半の人には効果がない
  • 短時間でいいので早いフィードバックをする
  • 具体的な行動に対して理由を添えて即座に褒める
  • 積上型のグラフをつけて成長を実感させる
  • 「ありがとう」を言う
  • 言外の態度にも気をつける(話を遮ったり、部下の方を見ずに話していないか)
  • 「なんで、◯◯なの?」は「お前が無能だからだよ」という心の声が伝わるので使わない
  • 「前にも言ったよね?」は完全に無意味

まとめ

部下を育てるために上司が心がけるべき事項について、理由を添えて詳しく解説された1冊だった。誰もが理解できるようにとにかく「具体的に指示をする」という部分の重要性を強く感じた。部下や指導すべき後輩を持つすべての人におすすめできる書籍と言えよう。

本記事では割愛しているが、書籍内ではケーススタディによって、よりわかりやすい解説がされている。そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。

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