2011年4月に初版が発行された本。
著者の山﨑康司氏は、隗コンサルティングオフィス株式会社代表。豊富なコンサルティング経験をもとに企業向け教育・研修の実施や、複数の本の執筆をしている。
本書は、分かりやすいレポート・ライティングの書き方のコツを、日本語特有の問題に配慮しながらまとめたものである。
ページ数は付録まで含めて170ページ弱。初心者向けに書かれた本のため、専門用語は特に登場しない。また、豊富な具体例が掲載されているので、非常に読みやすい本である。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
日本人のレポート・ライティングが下手な原因
日本人の多くがレポート・ライティングを苦手としている。それは学校で習う機会がほとんどないためである。それどころか、小中学校の国語の時間で習うことは、レポート・ライティングにおいてはむしろ弊害となっている。
- あなたが書きたいことを書きなさい
- 起承転結で書きなさい
上記は、国語では通用することだが、レポート・ライティングの世界では役に立たない。レポート・ライティングでは、上記は以下のとおりとなる。
- 読み手が知りたいことを書きなさい
- 結論から書きなさい
まずは上記の誤解を解くことから上達は始まる。
OPQ分析
報告書等を書く際にまず始めるべきは、「どのようなメッセージを伝えようとしているのか」「なぜそう言えるのか」を整理することである。書く前に考えをまとめ、構成を決めることが大切。
読み手が知りたいこと(=疑問)に答えるためのシンプルな方法が「OPQ分析」
- O:Objective(望ましい状況)
- P:Problem(問題、ギャップ)
- Q:Question(読み手の疑問)
- A:Answer(答え)
OPQ分析とは、読み手にとっての望ましい状況と現状のギャップを考えたときに、自然に抱くであろう疑問に対して答えを示す手法である。ここで大事なのは、Qへの忠実なAを示すこと。読み手を理解し、読み手が主役であるという意識を常に持つ。
ピラミッド構造
OPQ分析で導き出したA(読み手の疑問に対する答え)が、文章の主メッセージとなる。
主メッセージを示すと、読み手は「なぜそう言えるのだ」という疑問を抱く。この新たな”Q”に答えるため、主メッセージの下に、その裏付けとなる複数のメッセージを付け、さらにその下に詳細を付けてピラミッドの構造を作る。
ピラミッド構造を作る際の注意点は、ひとつのグループ(上図の根拠1~3や詳細1~3など)を構成する要素は5個までに絞るということ。人間の短期記憶の限界は5~9個の要素なので、下限を超えないようにするのがライティングの世界のセオリー。
また、以下の点も確認する。
- 主メッセージはただひとつか(2つ以上になっていないか)
- メッセージが抽象的な一般論になっていないか
- 根拠のあるグループを作る
文章化
続いて、作成したピラミッド構造を文章化する作業に入る。この際の注意点は4つ。
- 名詞表現、体言止めは使用禁止
- 「あいまい言葉」は使用禁止
- メッセージはただ1つの文章で表現する
- 「しりてが」接続詞は使用禁止
「あいまい言葉」とは、「見直し」「再構築」「問題」「適切な」といった「ごまかし言葉」
最終的な文書において、意図的にこれらの言葉を使用するのは問題ないが、ピラミッド内のメッセージにおいては、「増大させる」「◯◯に変更する」など、明確な表現を用いる。
「しりてが」とは、「~し、」「~であり、」「~して、」「~だが、」「~せず、」「~なく、」といった、英語では「and」で示される意味の接続詞。日本語の特性上、これらをひとつも使わないのは困難だが、できる限りロジカル接続詞(時間、対照・対比、原因・結果、目的、条件を表す接続詞)に書き換える。
ロジックの展開
説得力とわかりやすさを併せ持つ文章を作成するコツは、シンプルなロジックを用いること。具体的には、帰納法または演繹法を用いる。
帰納法
「私の言いたいことは、・・・です。理由は3つあります。第一に・・・、第二に・・・、第三に・・・」という手法で、ビジネスロジックの7~8割を占める。
帰納法は、複数の特定事象(前提)から要約(結論)を導くロジックのため、結論は常に推論となる(100%正しいとは言い切れない)
各要素は並列のため、ピラミッド化した場合には、上図のように下から上へと単純に駆け上がる形となる。
演繹法
演繹法は、絶対的に正しいこと、一般的に正しいと判断されることから、妥当と思われる結論を導く手法。帰納法と異なり、前提が正しければ、結論も100%正しくなるのが特徴。
もっとも、ビジネスの世界では絶対的に正しい前提というのはあまりないため、帰納法のほうが多用される。演繹法が使われるのは「正しい法則」や「妥当な仮定」をもとに将来を予測する場合が多い。
演繹法のピラミッドは、上図のように、まず右、そして次に上へと駆け上がる形になる。
文書への落とし込み
最後に、文章で作成したピラミッドを、文書に落とし込む作業を行う。
最も良い文書は、一見しただけでピラミッド構造が思い浮かぶ文書。
注意点は以下
- メッセージごとの固まりがわかるように見出し、段落、箇条書きを活用する
- 固まりの冒頭にメッセージ文を配置する
- ピラミッド内のメッセージをそのまま形にする(構成を変えない)
- 段落間は「改行+大きめの行間」とする
- 段落の文頭は引き下げても下げなくともよい(引き下げなしの方が一般的)
- ロジカル接続詞を使う
- OPQ分析を用いて読み手の興味を引く導入部を作る
- 提案書の結びでは、「この提案にご同意いただけるならば、早急に・・・に取りかかります」と行った表現で、読み手の確認・行動を促す
- 結びを付ける場合には、「★」マークを等間隔に行内に3つ配置した「サンセット」を結びの前に置いたり、通常より大きめの行間を結びの前に設ける
メールのコツ
メールは数が多いという点で、文書よりも「簡潔にわかりやすく」が求められる。
具体的なコツは「感謝の言葉にPDF」
感謝の言葉
いきなり本題に入らず、まずは1,2行で感謝の言葉を述べる。それによって好ましくない内容のメールの場合でも相手が気分を害するのを防止できると同時に、自分自身も時間のなさに気を取られてついつい失礼なメールを書いてしまうのを防止できる。
P:Purpose Statement(主メッセージ)
「しりてが」なしの短文で主メッセージを書く。補足があれば別の文章で続ける。
D:Detail(詳細)
主メッセージの理由や判断根拠、内容説明、具体案を記載する。PとDがピラミッド構造になるようにする。箇条書きがおすすめ。
F:Follow-Through(今後のアクション)
提案書の結びに相当する部分。読み手に求めるアクションまたは自分のアクションあるいはその両方を具体的に(・・・日までに・・・してください、等)記載する。
まとめ
文法構造、学校教育の影響で、日本人が苦手とするレポート・ライティングについて、上達のために実践すべきことがわかりやすく解説された1冊だった。文書作成のみならず、さらに利用頻度が高いメールの作成法についても解説されている点も有用である。
本記事では割愛しているが、書籍内では具体例を用いて、改善すべきポイントが詳細に解説されている。そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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