たった5分でわかる『課長2.0 -リモートワーク時代の新しいマネージャーの思考法-』

2021年9月に初版が発行された本。

著者の前田鎌利氏は、年間200社を超える企業に対して、プレゼン研修、資料作成、中間管理職向けのコンサルティングなどを行ってきた人物。かつて在籍していたソフトバンクモバイル株式会社(元ソフトバンク株式会社)時代には、孫正義社長に対して直接プレゼンを行い、数多くの事業提案を承認されたこともあるほか、社内外の複数の事業マネジメントを務めた経歴を持つ。

本書は、リモートワークが日常となった時代において、中間管理職としてどのように振る舞えばチームが成長し、実績を残せるのか、また、自分自身も成長できるのか、解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて約340ページ。マネージャー側の思考法が網羅的に解説された、ボリューム感のある1冊となっている。

本記事では重要な部分を抽出してまとめている。

リモートワークの時代

コロナ禍によって、ホワイトカラーの職場を中心にリモートワークはすっかり一般化した。コロナが収束したとしても一部または全部の業務をテレワークで行う習慣は定着していくだろう。

リモートワークを導入できた会社は競争優位に立ちやすい。社員が望む労働環境を提供できた方が優秀な人材が集まりやすいし、移動の経費や時間の削減、オフィス面積の削減によって支出を減らすこともできる。

ただし、課長をはじめとする管理職にとっては、部下の労働実態が掴みにくくなった分、高度なマネジメント能力が必要となった。中には過剰な監視や報告を求めて威圧感を与えてしまったり(いわゆる「リモハラ」)、逆にリモハラを恐れて放任状態になってしまったケースもあるだろう。

これからの管理職には、リモート環境でチームメンバーの状況を把握し、意思疎通し、チームを動かして目標達成に導く能力が必要となる。そして、この「リモート・マネジメント」の能力を身に着けたとき、管理職自身がオフィスへの縛り付けから解放され、人脈を開拓し、自らの価値を高められる。

管理職の仕事

管理職の仕事とはズバリ「良い状態を保つ」こと。
管理職の管理対象はモノではなくヒト。モノの管理のように、画一的な規準から外れないように監視するのではなく、状況に応じて適切な策を講じることが必要になる。

「良い状態」とは、組織目標の達成に対して各メンバーが強い意欲を持ち、チームワークを発揮しながら自走する状態。モチベーションは外部から強制して生まれるものではないことを忘れてはならない。

信頼関係の構築

「良い状態」を保つために必要なインフラ、それは管理職と各メンバーの「信頼関係」である。この後紹介するあらゆる「働きかけ」は、信頼関係が構築されていなければ効果がない。「この管理職の言うことには耳を傾けよう」と思ってもらうことが、管理職としての第一歩。短期的な目標や目先の売上を差し置いても、まずは信頼関係の構築を優先させるべき。

まずは管理職自身がメンバーを「信頼する」と決断すること。メンバーを守り抜き、正しく導いて成長させる覚悟を決める必要がある。

気軽な会話

自発的なホウレンソウ(報告・連絡・相談)のためには、管理職が「話しかけやすい存在」とメンバーに認識してもらわなければならない。日常的なコミュニケーションでその下地を作っておく。

例えば、メンバーがメールやチャットで話しかけてくれたときに、すぐに返事を返すことで「いつでも話しかけていい」と思ってもらえるようにする。文末に「!」を入れたり、絵文字を使って気持ちを表現する(無機質で無愛想な印象を持たれないようにする)ことも有効。そして、話しかけられた際には「歓迎」する気持ちを伝えるようにする。

また、管理職もメンバー全員に対して別け隔てなく関心を持ち、気さくに話しかけるようにする。かしこまって話しかけると警戒されてしまうので、あくまでも「気さくに」話しかける。

雑談の機会

リモートワークの弊害の一つに「雑談の機会が失われること」がある。

緩和策として、週に1~2回、2~3時間にわたって、メンバー全員がWeb会議ツールに繋いだ状態でそれぞれの仕事を進める、擬似的な「全員出社」状態を作るという方法がある。ただし、目的は監視ではないので、管理職はちょっとした雑談をはさみながらリラックスした状態で働ける環境作りに努める。

オンラインランチも有効。全員で会議ツールに接続して、一緒にランチを取るようにする。オンライン飲み会は子育て中のメンバーやお酒が飲めないメンバーには負担になることがあるし、「終電だから」と言って抜けられないというデメリットもあるが、時間が決まっているオンラインランチはそういった問題を解決してくれる。

より簡単な方法としては、定例会議の5分前にはWeb会議ツールに接続するルールにし、雑談タイムを設けるのも良い。

言語化

メンバーに仕事を頼むときには、いつまでに、どれくらいの精度のアウトプットが欲しいのか、言語化して伝える必要がある。それをせずにイライラした様子で「あれどうなってる?」と聞くのはNG。その言葉を発したくなったときにまず考えるべきは、「自分は依頼の内容をちゃんと言語化していたか」ということ。

メンバー(特に若いメンバー)と管理職との間には、経験や意識に大きなギャップがあるが、管理職はそれに鈍感であることが多い。「なるはや(ASAP)」などという指示をすると、指示を出した側と出された側で期間の認識に大きなズレが生じがちなので、指示は必ず具体的に行う。

  • 期限
  • 仕事の精度
  • 中間報告のタイミング

上記3点は、最低でも明確に伝えなければならない。もちろん、メンバーが抱えている仕事の状況を確認した上で、必要に応じて調整する。

トラブル対処

他のあらゆる手段を徹底していても、トラブルの際に対処を間違えると、メンバーとの関係は一瞬にして崩壊する。

絶対にやってはならないのが「メンバーを感情的に責め立てたり、自己保身を図ったりする」こと。これを一度でもやってしまうと、それまでに構築した信頼関係は完全に失われる。

まず、トラブルは一刻も早い発見と対処が重要。そのためには、問題が小さいうちに報告してもらえる関係性を築いておくようにする。意味もなく叱咤して、報告しにくい環境を作り出すなどもってのほか。

また、担当している部署の問題の最終責任は、すべて管理職にあるのだから、上層部に報告する際にもそのスタンスを徹底する。

自走力の醸成

管理職の仕事」で述べたとおり、自分が逐一介入しなくても、メンバーが自走してくれる状態が理想的。

1on1ミーティング

1on1ミーティング(個人面談)で定期的なコミュニケーションを取ることは、リモート・マネジメントには不可欠。もちろん、ただ開催すればいいわけではなく、メンバーが心の中で考えている思いを話してもらうのが目的。緊張を解きほぐすために管理職は工夫をこらす必要がある。

「何か悩みない?」などとメンバーに聞いて答えてくれると思うのは甘え。普段から雑談などで各メンバーのことを知る努力をする。共通点を見つけたり、相手の好きなものを尋ねるのも良い。好きなことをテンション高く話した後には、そのテンションのまま仕事も頑張ってくれたりするもの。

とにかく、相手の心を無理にこじ開けようとするのではなく、相手が話してくれるようになるまで辛抱強く待つことが重要。

困りごとを言いやすい状態

心を開いた1on1ができるようになったら、少しずつ仕事に関する話題に踏み込む。ただし、繰り返しになるが、無理に心を開かせようとするのではなく、待つことが大切。

困りごとを行く際のコツは、直接的な質問をしないこと。
「○○の仕事、楽しい?」というような聞き方は、警戒心を抱かれない質問の仕方として有効。その答えが「楽しくない」だったり、表情が曇っていたりしたら何か問題があるということなので、具体的な話を振って反応をうかがう。できるだけ自然な形で悩みを聞き出すのがポイント。

適性

次の段階として、中長期的なキャリアにつながるような適性に関する話をできるようにする。
とはいえ、自らの適性に気づいていない人は多い。気づくチャンスを与えるのも管理職の仕事。適性に関係する仕事を振ってみたり、それに関するコミュニケーションを1on1で行って、気づかせていくようにする。

そして、適性を把握したら、それを最大限に発揮する機会を提供し、成功体験を得られるように全力でサポートする。

報告の先

メンバーから積極的にホウレンソウしてもらえる状態を作ることは大切だが、その内容も重要。

例えば報告。一般的には、状況や結果といった事実を伝えれば報告は完了だが、その報告内容を受けて「これからどうするのか」を併せて言ってもらえるようにすると、メンバー自身に考える力がつき、自走する人材が育つ。事実のみの報告に対しては「どうするのか」という問いを返すように心がける。

ただし、経験がほとんどない若手は、考える材料を持ち合わせていないため、管理職がすぐに指示を出して、経験を積んでもらったほうが良い。

モチベーション向上

モチベーションは「上げなさい」と言われて上がるものではない。「集団に貢献することによって存在価値を認めたもらいたい」という、承認欲求に上手くアプローチする。

管理職がメンバーのことをよく知ろうとすれば、その人固有の「価値」が見つかる。そして、「価値」を改めてメンバー自身に認識してもらい、その「価値」でチームに貢献してほしいと依頼する。

会議

メンバーの「自走力」を最大化するには、管理職が的確な意思決定をすることが必要。その場が「会議」である。管理職による会議のデザイン・運営・意思決定次第で、チームの自走力には雲泥の差が生じる。

事業提案は多数決NG

庶務的なルールに関することは多数決でも良いが、事業提案に類するような場合には、管理職が自らの責任において意思決定する。このような場合に多数決で物事を決定するのは管理職の責任逃れにほかならない。

勝率7割を最速で決定

「管理職が自らの責任で」と言うと、プレッシャーから決定を先延ばしにしてしまいがちだが、これもダメ。決定が遅いということは、メンバーの具体的なアクションを遅らせるということであり、生産性の低さに直結する。それだけではない。決断をしない管理職に対する信頼の失墜も招く。

一方で、速さを意識しすぎるあまり、闇雲な意思決定を行うことは賢明ではない。目安としては「勝率7割の意思決定を最速で行う」のが良い。「7割」は管理職自身の経験と知識に基づく判断なので、当然間違えることもあるが、その際も決してメンバーのせいにはせず、その失敗から学習していくことが重要。

そもそも100%の成功が保証された意思決定など、ビジネスの世界にはない。

時間

会議自体は1円の利益も生み出さない。だから、会議の時間は短くして、高品質なものとするべき。

人間の集中力は15分周期と言われているので、定例会議は15分×2=30分がおすすめ。前半15分は情報共有、後半15分は意思決定に使う。30分で結論が出なかったとしても原則延長はしない。時間内に意思決定できない主な理由は、提案内容の完成度が低いこと。であれば、その日出た意見を踏まえて、提案内容を再検討してもらった方がいい。

多少そっけなくてもスピード感を重視する姿勢をメンバーに印象付けることも大切。それによって、提案内容のブラッシュアップが重要だとメンバーに認識してもらう。

少人数

定例会議にかける議題は重要性の高い案件のみに絞り、その他の議題は少人数のミーティングで行う。

管理職は、メンバーからのミーティングの求めには最優先で対応する。必要なときにすぐにミーティングで意思決定をすることが、メンバーからの信頼の獲得につながる。仕掛りの仕事がある場合でも「○分からでいい?」という反応は即座に行う。

ただし、管理職にはミーティング以外の仕事もたくさんある。1日中のスケジュールをミーティングで埋められてしまうと、他の仕事が回らない。
その対策として、自分のスケジュールをチーム内に公開し、毎週、一定の時間(例:月曜日の13:00~15:00など)をメンバーからの相談に応じるための時間として事前にアナウンスしておくという方法がある。

提案書の型の統一

会議における提案のコツは、以下の2つ。

  1. プレゼンが3分以内に終わるように整理されていること
  2. 意思決定に必要な要素が過不足なく盛り込まれていること

これを徹底するために、ひと目で提案内容を把握できるような提案書のフォーマットがをチーム内で共有しておく。以下はフォーマットの型(内容はすべて箇条書きにする)

タイトル

課題  
原因  
解決策  
効果  
  A案 B案
解決策    
効果    
スケジュール    
メリット    
デメリット    

課題→原因:なぜ?
原因→解決策:だから、どうする?
解決策→効果:すると、どうなる?
と、自問すると、サマリーフォーマットは作りやすい。

ルール

オンライン会議はリアル会議と比べて、表情や仕草などの情報が少ない。場の空気など非言語的情報が加わった方が、より質の高い意思決定を行えるので、定例会議はリアルの方が望ましいが、リモート環境下で毎回リアル会議をやるわけにはいかない。そこで、以下のルールをおすすめする。

  1. マイクは話すときだけON
  2. カメラはON
  3. 話すときはカメラレンズを見て、2割増の音量でゆっくり話す(Webカメラ・イヤホンマイク・照明があると良い)
  4. ゴールを明確にする
  5. 発言者はファシリテーターが指名する
  6. 発言が終わったら「以上です」と言う
  7. 発言時間に制限を設ける
  8. 質問はチャットに記入する
  9. マルチタスクはしない
  10. 落ちたときの対応を決める(Zoomが落ちたときに備えてTeamsも登録しておく、など)

意思決定のポイント

意思決定をするにあたって絶対に押さえるべきポイントが3つある。

  1. 財務的視点(本当に利益を生み出すのか)
  2. 実現可能性(本当に現場でうまく回せるのか)
  3. 企業理念との整合性(会社の理念と合っているのか)

課題→原因→解決策→効果、のロジックを上記のポイントと照らし合わせることで、スピーディな意思決定を行う。

後任の育成

後任を育成することも管理職の仕事。後任が育てば、自分は現場介入しなくて済むようになるので、新たなプロジェクトやチャンスを手にする余裕が生まれるし、そもそも課長以上の昇格基準には、実績だけでなく、後継者を育成できているかどうかが含まれている。

「後任候補」のメンバーには、どんどん自分の仕事を手渡していくようにし、自分は後方支援に回る。もちろん、大前提として、手渡す相手が「後任候補」であることを、本人はもとより周囲に認知されていなければならない。

チームとしてポジティブな評価が得られる局面は、部下のプロモーションをするチャンス。貢献した担当者の名前を「さりげなく」伝えるようにする。白々しくならないように、1回1回はさりげなく、それをことあるごとに繰り返すのがポイント。

上層部との会議に同行させるのも有効。上層部へのプロモーションになると同時に、部下の育成にもなる。最初は同行のみにし、徐々に資料準備→質疑対応→プレゼンとステップを踏ませる。最初は失敗することもあるだろうが、そこで精神的な深手を負わないようにするため、成長を具体的に褒めたりして、フォローすることを心がける。

まとめ

リモートワーク時代に、管理職としてどう振る舞っていくべきかが網羅的に解説された1冊だった。

あらゆるテクニックは部下との信頼関係が構築できていることが大前提にあるという主張には非常に賛同できる。また、その他のポイントのいくつかについても、私の周囲で部下からの人望が厚い人々が実際に実践していることも含まれており、説得力のある内容だった。

本記事では割愛したが、書籍内では、著者の実体験を交えた解説が数多く盛り込まれているので、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。

 

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