1997年1月に旧版、2010年4月に新版が出版された本。
著者の齋藤嘉則氏は、株式会社ビジネスコラボレーション代表。過去にはマッキンゼー・アンド・カンパニーの経営コンサルタント、米国大手家庭用品メーカーのゼネラル・ディレクター等の経歴も持つ。
本書は、多種多様な課題に対して、限られた時間で取組課題を設定し、具体的解決策を提示するための考え方と手法について解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて210ページあまり。事例や演習が多く含まれているため、コンサル分野に馴染みのない人でも読みやすい本となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
ゼロベース思考
問題解決にあたって、重要な思考となるのが「ゼロベース思考」と「仮説思考」の2つ。
「ゼロベース思考」とは、これまでの自分の経験や習慣に縛られない考え方のこと。規制の枠組みの中で物事を考えていたのでは、得られる結論には限界がある。
ゼロベース思考のポイントは2つ。
- 自分の狭い枠の中で否定に走らない
- 顧客にとっての価値を考える
大企業などは消費者の実態が決定権者に届きにくいために、規制のタガから抜けられない傾向が強い。顧客の生の声をビジネスに導入しなければ、成功することは難しい。
仮説思考
「仮説思考」とは、常にその時点での結論を持ってアクションを起こすということ。変化の速い現代では、結論→実行→検証のサイクルをいかに速く回せるかがカギになる。
仮説思考のポイントは3つ。
- アクションに結び付く結論を常に持つ
- 背後の理由やメカニズムを考える
- 「ベスト」を考えるよりも「ベター」を実行する
最初のステップは、当てずっぽうでもいいからとりあえず自分なりの結論を持つこと。その結論に対して「SO WHAT?(だから何?)」を繰り返していくと、何らかのアクションに結び付く結論が導き出される。とにかく具体性があることが大切。
続いて、導き出した結論の背後にある理由やメカニズムを考える。理由やメカニズムを導出する能力は、「SO WHAT?」を習慣づけていれば自然と身につく。結論→理由という思考の順番を常に意識しておく。
最後に「ベスト」を考えるより「ベター」を実行すること。これは、あれこれ考えるよりもスピード重視でとりあえず実行してみるということである。ビジネスの世界には絶対的正解はない。それゆえに、ベストな策を考えて手をこまねいている人よりも、ベターな策を次々と実行する人のほうが成功する。
MECE
思考を身に着けたところで、次は具体的な技術の習得に入る。ここでは、「MECE」と「ロジックツリー」の2つを扱う。
「MECE」とは、「Mutually Exclusive Collectively Exhaustive」の略で、端的に言えば「モレなしダブりなし」ということ。
以下のような例をあげるとわかりやすい。
テーマ | 案 | MECEかどうか |
資金調達手段 | 株式増資、銀行借入 | 社債などもあるので、モレあり |
営業先の病院 | 個人医院、一般病院、大学病院、公立病院 | 一般病院や大学病院にも公立病院があるので、ダブりあり |
食品の流通形態 | 常温、チルド、冷凍 | モレなしダブりなし |
MECEが大事なのは、モレやダブりがあると、限りある経営資源を効率的に使えないから。なお、『イシューからはじめよ』で触れられているが、たとえMECEだったとしても、ゆで卵を輪切りにしたような、個々の要素に大差がないような分解は意味がない。
MECEで物事を切り分けることができるようになったら、次は個々の要素に優先順位をつけるようにする。経営資源は限られているので、優先度が高いものにヒト・モノ・カネの配分を行う。
MECEの考え方に基づいて、いくつかの有名なフレームワークが考案されてきた。ただし、時代や環境によってMECEでなくなる可能性もあるので、常に新しい切り口はないかと考える習慣が大切。
【3C+1C】
顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3Cに、流通チャネル(Channel)を加えたもの、流通チャネルそのものの販売会社であれば、1Cは必要ない。
【ビジネス・システム】
製品・サービスの開発からそれが市場に出るまでの付加価値の流れを時間軸で整理したもの(例:研究→開発→調達→生産→広告・宣伝→流通→販売→保守・サービス)
【4P】
製品(Product)、価格(Price)、販売チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)という、マーケティングの4要素。
【事業ポートフォリオ】
相互に影響しない2要素をX軸とY軸に配置し、2×2の4象限のマトリックスを作る。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、主要課題の原因や解決策を、MECEでツリー状に整理したもので、原因の深掘りや解決策を具体化するのに役立つ。
ロジックツリーは次の3つの点で優れている。
- モレやダブりを未然にチェックできる
- 原因・解決策を具体的に落とし込める
- 各内容の因果関係を明らかにできる
これまでに紹介したフレームワークが適用できないときなどはロジックツリーを用いて原因の追求や解決策の具体化を行うといい。原因の追求では「WHY?(なぜ?)」、解決策の具体化では「SO HOW?(だからどうする?)」を繰り返して、ツリーの各要素を埋めていく。ツリーの右側が具体的な原因や解決策になっているか注意。
まとめ
ゼロベースで考える、結論から理由を考える、MECEで切り分けて優先順位を付けるということの大切さを説いた1冊だった。事例が多いため、ページ数の割に主張は少ないが、逆に言えば、これこそが問題解決の一丁目一番地となる、最も大切な考え方と言えるだろう。
本記事では割愛した、事例紹介や演習を読み込むことで、より理解が深まるので、課題解決のテーマにした本に馴染みがない方などには、手にとってみることをおすすめしたい。
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