強いチームはオフィスを捨てる -37シグナルズが考える「働き方革命」-

『強いチームはオフィスを捨てる』の表紙画像 読書

2014年1月に初版が発行された本。

著者のジェイソン・フリード氏とデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏はオープンソースのウェブ開発フレームワーク「Ruby on Rails」の開発元として有名なソフトウェア開発会社「37シグナルズ」の共同経営者。

本書は、昔ながらの働き方に縛られた人々の考え方をアップデートするため、著者やその会社での実例を元にリモートワークという働き方を深く公平に検討した本である。

ページ数は270ページだが、サイズが小さめ(小B6判)な上に具体例が多いので、実際のボリュームはそれほどでもなく、あまり時間をかけずに読むことができるだろう。

リモートワークのメリット

仕事に集中できる

昼間のオフィスは邪魔に満ちている。
例えば、全然緊急でない「緊急」電話が来たり、隣の席の人が雑談で話しかけてきたり、しょうもない打ち合わせに参加させられたりする。

そういった「雑音」から逃れられるのがリモートワークである。
もちろん家やカフェにも仕事の邪魔をする要因がないわけではないが、これらは「自分でコントロールできる」という点で、会社のノイズとは決定的に異なる。

通勤をしなくて済む

わざわざ起床を早めたり、帰宅を遅めたりして、見知らぬ人と一緒に混雑した電車やバスに乗らなければならない通勤が体に悪いのは直感的に明らかだが、科学的にも悪影響は示されている。

通勤時間の長い人は太りやすく、ストレスが多く、不眠や肩こり、高血圧などのストレス性の病気を引き起こしやすい。
さらに心臓発作やうつ病のリスクが高まったり、離婚率まで上がるという調査結果もある。

リモートワークで通勤をなくせば、平日に寝顔以外の子供の顔を見ることができ、溜まった家事をこなすのに土日を潰してしまうこともなくなる。

時間がフレキシブルになる

リモートワークによって、働く場所だけでなく、働く時間も自由に選べるようになる。
時差のある地域に住む人とビジネスをするのが容易になるし、朝型の人や夜型の人が、自らの生活リズムに応じて一番効率のいい時間に働けるようになる。
もちろん日中に子供を保育園に迎えに行ったりすることも可能になる。

都心に住まなくても良くなる

オフィスが都心にあるせいで、多くの労働者は近くの狭い家に住み、排気ガスたっぷりの汚い空気を吸い、ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗っている。

しかし会社に通わなくて良いとすれば、上記のことを我慢してまで都心に住む必要はない。
どこにいようがインターネットを通じて大抵の娯楽が楽しめる時代なのだから、広い土地や新鮮な空気を求めて田舎に移住するという選択肢も生まれる。
海辺でのサーフィン三昧、雪山でのスキー三昧の生活をするために定年後まで待つ必要はもうない。

会社と社員の両方にメリットがある

リモートワークの本質は、社員の生活の質を向上させるということ。
会社側としても、場所を気にせず優秀な人材を雇うことができるようになるので、社員の質が上がって生産性がアップする。

印象よりも仕事そのものが評価基準になる

1日中見張っている環境では、「時間ぴったりに席についているか」とか「休憩が多すぎないか」とか、そういった「仕事とは本質的には関係がないこと」が評価基準になりやすいが、リモートワークなら「どんな仕事をしたか」だけが基準になる。
勤務態度のみで点数を稼ぎ、業務には全然貢献していない人が浮き彫りになる。
謙虚で仕事ができるタイプの人は、もう悔しい思いをしなくて済む。

コスト削減になる

会社はオフィスのコストを節約できるし、社員は通勤のコストを節約できる。
例えば、ヒューレット・パッカード社の「テレワーク・カルキュレーター」によれば、SUV車で往復1時間の通勤をしている人の場合、トータルで年間1万ドルの節約効果が期待できると試算されている。
ついでに、地球環境に対するコスト(二酸化炭素排出量)も大きく減らすことができる。

ひとつの場所に依存せずに済む

この場合の「ひとつの場所」とはもちろんオフィスのことだが、オフィスでしか仕事ができない状況だと、ネット環境やエアコンが壊れたり、自然災害が発生して通勤できなくなるだけで業務が停止してしまう。
普段からリモートワークをしていれば、そういったリスクを防ぐことができる。

リモートワークに対する反対意見について

本書では、リモートワークに反対する人々に対して、その主張への反論も掲載されている。

ひらめきは会議室で生まれる

会議でひらめきが生まれることもあるだろうが、会議「室」である必要はない。
音声がつながっていて、画面が共有できれば会議は行えるのだから、そこでひらめけばいい。

そもそも、ほとんどの仕事の本質は、すでにあるアイデアを形にし、より使いやすく磨き上げていくことにある。
また、新しいアイデアを出すということは、前回の素晴らしいアイデアを捨てるということでもある。

いつ訪れるかも分からないひらめきの瞬間を期待して、過剰な回数の会議を重ねていると、みんな疲れ果て、仕事は停滞してしまう。

顔を合わせる会議は開催回数を減らしてこそ価値が高まり、特別な時間となるのである。

上司が見張っていないと仕事をサボる

会社に来ているからといって、サボっていない保証などどこにもない。
実際、多くの人が会社でゲームやネットサーフィンをしているという調査結果はたくさんある。

そもそも、部下のことを常に見張っていないと不安なら、それはマネジメントができていない証拠にほかならないし、もっと言えば人材採用の時点で失敗している。
リモートワークすらまかせられない人間に、会社の業務をまかせるというのだろうか。

家には邪魔が多すぎる

たしかに家は会社に比べて誘惑が多い。
だが、それに対しては仕事専用の部屋を作る、静かなカフェや図書館に行く、といった解決策があるのだから、家に誘惑が多くあることは会社に行く理由にはならない。

そして、誘惑は、仕事が面白くないことを示すシグナルでもある。
面白い仕事をやっているなら、それ自体が誘惑なのだから、わざわざ言われなくてもやりたいと思うもの。

常に誘惑に負けそうになっているなら、仕事の内容を見直すか、転職を考えたほうがいい。

セキュリティを守るにはオフィスが必要

大体そういう人に限って暗号化されていないノートパソコンに機密情報をたっぷりつめこんで持ち歩いていたりする。

セキュリティはとても重要な問題だが、ちゃんと対策がなされている。
でなければ、誰もオンラインの銀行振込をしたり、ネットショッピングでクレジットカード情報を入力したりしないだろう。

暗号化通信を使う、自動ログインを使わない、長くて複雑なパスワードをかける、といった対策を取ればいいだけの話である。

顧客対応ができなくなる

勤務時間がバラバラになると顧客対応ができなくなるという主張だが、だったらミーティングを特定の時間帯にセッティングしてもらうよう、あらかじめお願いしておけばいい。

カスタマーサービスのような部署であれば、人によって少しずつ時間をずらすことによって顧客対応が行えるだろう。
もちろん、小さな会社で、カスタマーサポートの担当者が少人数なら通常のビジネスアワーに合わせて勤務してもらう方がいいだろうが、だからといって他の部署含めた全社員がその時間に合わせる必要はない。

正当な理由もなく「公平」にこだわって、不便なやり方で統一したらみんなが損をするだけである。

大企業はそんなことやってない

(そもそも2020年現在ではコロナ禍でそういうわけでもなくなってきたが)中小企業の管理職などが口にしそうなこと。

しかし、大企業がやってない=正しいというわけではない。
大企業は既得権益という武器があるからこそ、驚くほど古くて非効率なやり方のまま何年も生き残っているだけ。
大企業に対抗する中小企業こそ、率先してイノベーションを起こすべきだし、大企業なら、ほかと違うことをいち早くやることで業界の中で抜きんでることができる。

社内に不公平が生まれる

不公平が生まれるから、みんな公平に横並びで、不便かつ非生産的なやり方に甘んじなさいという主張。
しかし不公平だというなら、みんな出社させるのではなく、みんなでテレワークをすればいい。

そもそも人によって仕事の内容が違うのだから、リモートワークの有無で不公平などということ自体がナンセンス。

大事なのは、全員を決まった席に決まった時間だけ縛り付けておくことではない。
全員が上手く成果を出せるようにすることだろう。
だったら好きなやり方で働いてもらい、場所と時間ではなく、仕事の内容で社員を評価すればいい。

いますぐ質問できないと困る

その質問は、本当に緊急なのだろうか。
おそらく大半の質問はそこまで急を要しない。

相手の都合にはおかまいなく、好き勝手に要件を言ってくる人がいるが、緊急でもない案件のために、誰かの貴重な時間を無理やり奪うなど、失礼極まりない行為である。

緊急度に応じてメールやチャットなどを柔軟に使い分け、本当に急を要する緊急事態にのみ、電話をかけて作業を中断させればいい。
それに、メールやチャットならやりとりの履歴を後から確認できるというメリットもある。

ボスの存在意義がなくなる

もちろん口には出さないが、リモートワークに反対する上司がひそかに心配していること。
そういう上司は、常に部下を手元に置き、指示を出して一斉に動かす、そういう軍隊のような行動にアイデンティティを見出しているので、部下が目の前にいないと不安で仕方がない。

そういう人に論理的な説得を試みてもあまり意味がない。
この場合は、少しずつリモートワークに慣れさせて、部下が目の前にいなくても問題が起こらないことを実感させた方が良い。

せっかくのオフィスがもったいない

「サンクコスト(埋没費用)」という言葉がある。
既に払ってしまって戻ってこないお金のことだ。
オフィスの購入や家賃に支払ったお金もサンクコストである。

使っても使わなくても状況が同じなら、考えるべき点はオフィスで働いた方が成果が上がるかどうかだけである(もちろん上がらないが)。

うちの会社には向いてない

ちゃんと検討していないだけ。

実際は様々な規模・業種で数多くの企業がリモートワークを取り入れており、アメリカでは、政府系機関(特許商標庁、NASA、環境保護庁など)でさえ、リモートワークを広く取り入れている。

リモートワークを上手く実行するためのノウハウ

共通のコアタイムを決める

リアルタイムのやり取りを円滑にするために、1日のうち4時間程度は同じ時間帯に働くことが推奨されている。
毎日4時間であれば、その時間にコミュニケーションを行い、それ以外の時間は自分の作業に集中できるし、勤務地に時差があってもコアタイムを合わせやすい。
ただし、(そもそもそ推奨されていないが)単に人件費を抑えたいという理由で遠隔地の人を雇うのなら、4時間のコアタイムすら合わせにくい地球の真裏の人を雇うのはやめたほうがいい。

画面共有を利用する

画面共有ができるツールは世の中に溢れていて、それを利用すれば、遠隔地の人と同じ画面を見ながら作業を行うことができる。
ひと目見ればわかるようなことを電話越しに何分もかけて説明する必要はもうない。

情報はオープンにする

必要な資料や情報は、ひとつの場所で集中管理し、関係者がいつでもアクセスできるようにしておく。

バーチャルな雑談の場を作る

あまりに長時間仕事をしていると、誰だって疲れてしまうし、効率は逆に落ちてしまう。
そんなとき、チームの仲間と雑談ができれば、いい息抜きになる。

「キャンプファイア」や「IRC」などのチャットツールを使用し、1日中開いているチャットルームを用意しておく。
そうすれば、各自が息抜きをしたくなったときにいつでも立ち寄ることができる。

進捗状況の共有

リモートワークをしていると、ちょっとした立ち話やランチでの雑談がないので、周りの情報が入ってきにくく、孤立感をいだきやすい。
それをふせぐために週に1度くらい、各自がやったことを書き込むような場を設定すると良い。

ただし、あくまでも「みんなで一緒に進んでいる」という感覚を維持するための場なので、正確に書き込んだり、その場で作業の調整をしたりする必要はない。

ミーティングを減らす

ミーティングは役に立つものだが、それは濃いコミュニケーションが実現できた場合の話。

やることがないマネジャーが、仕事している感を出すためだけに開く定例ミーティングや無駄に多すぎる進捗確認には意味がないどころか、仕事の妨げになる。

もっとも、リモートワークでは、すべての「邪魔」が記録に残るので、マネジャーが増やす無駄な仕事は自然と減少するだろう。

他人とのつながりを持つ

人は社会的な生き物であり、完全な孤独は人を狂わせる。

つながりを持つために頻繁に出社する必要はまったくないが、恋人や配偶者、子供、友人、近所の人たちとのつながりを持ち、孤独にならないように意識する必要はある。

自宅を快適な環境に整える

人間工学的な視点を取り入れて、ちょうどいい高さの机、座り心地のいい椅子、大画面の高解像度ディスプレイなどに投資すべき。

運動する

通勤しているオフィスワーカー以上にリモートワーカーは運動不足になりやすい。
ランチは近くのお店まで歩いて行ったり、犬の散歩を毎日したり、仕事の合間にちょっと走るなど、積極的に運動する機会を作ったほうがいい。

採用では人柄も重視

採用においては、実力や文章力はもちろん重視すべきだが、人柄も重視したほうがいい。

直接会うことが少ないなら、社員の社会性はあまり見なくてもいいと思うかも知れないが、実際は逆である。
文字だけのやりとりが多くなると、ちょっとしたすれ違いが大きなトラブルを招きやすい。

そうならないように、なるべく前向きな人間を雇い、良質なコミュニケーションをする必要がある。

リモートワークを支援するツール

最後に、37シグナルズで使っているツールの一例が紹介されている(URLは最新のものに修正した)

ツール名 用途 備考
ベースキャンプ プロジェクト管理 https://basecamp.com/
WebEx オンラインミーティング https://www.webex.com/ja/index.html
スカイプ インターネット通話 https://www.skype.com
インスタントメッセージ 短文のやりとり iChat、iMessage、Jabberなど
キャンプファイア グループチャット https://basecamp.com/に統合
グーグルハングアウト ビデオ会議 https://hangouts.google.com/
ドロップボックス オンラインストレージ https://www.dropbox.com/
グーグルドキュメント オフィスソフト https://drive.google.com/

まとめ

リモートワークのメリットや、反対意見に対する反論、円滑に進めるための注意点などが的確にまとめられた1冊だった。
特に反対意見の項目では、非常に現実的な例が載せられており、実用的であると感じる。
リモートワークに反対されている人はもちろん、反対している人にもぜひ読んでいただきたい。

 

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