LIFE DESIGN(ライフデザイン)――スタンフォード式 最高の人生設計

2017年9月に初版が発行された本。

著者のビル・バーネット氏とデイヴ・エヴァンス氏はそれぞれスタンフォード大学デザイン・プログラムのエグゼクティブ・ディレクターと講師であり、ライフデザイン・ラボの共同創設者でもある。

本書は著者がスタンフォード大学で開講した「Designing Your Life」プログラムをベースに執筆されたもので、現在の人生からより多くのものを引き出し、また、現在の人生を調整して理想へと近づけることを目的とした「ライフデザイン」について書かれている。

ページ数はあとがき等含め314ページ。
主なトピックは仕事とキャリアだが、テーマは人生そのものなので、あらゆる年代に対応した本と言えるだろう。

デザイン思考をもつ

多くの人は固定観念(本書では「行きづまり思考」と呼ぶ)のせいで望みどおりの人生設計ができずにいる。
例えば

  • 取得した学位でキャリアが決まる
  • 成功すれば幸せになれる
  • いまからじゃ手遅れだ

といった具合である。

しかし、こういったライフデザインの問題は「デザイン思考」によって解決できる。

デザイン思考に必要なマインドセットは次の5つ

  • 興味を持つこと(好奇心)
  • やってみること(行動主義)
  • 問題を別の視点でとらえなおすこと(視点の転換)
  • 人生はプロセスだと理解すること(認識)
  • 助けを借りること(過激なコラボレーション)

5つの中で特に重要なのが、5番目、助けを借りることである。

あらゆるデザインと同じく、ライフデザインもチーム競技。
1人でやるよりも、他の人の力を借りたほうが遥かに良い仕上がりとなる。

また、誤解されがちだが、情熱を注ぎ込める対象を見つけておく必要はない。
ほとんどの人にとって情熱とは、何かを試してみて、それが好きだと気づき、上達したあとで生まれるものだからである。

現在地を知る

ライフデザインの第一歩は、自分の本当の問題を知ることである。
デザイン思考では、問題解決と同じくらい問題発見も重視する。

最初に躓きがちなポイントだが、ライフデザインでは、対処不可能な問題は扱わない。
「重力があって困っている!」といったような対処不可能な問題は、問題というより、状況であり、環境であり、現実である。

大事なのは、成功する見込みが限りなく低い物事にいつまでもこだわらないこと。
心を広げて現実を受け入れることからデザイン思考はスタートする。

大前提を受け入れたら、次は自分の今の状況を評価する。

仕事のデザインの仕方を理解するには、仕事が人生の残りの要素とどう噛み合っているかを理解しなければならない。
そのために「健康」「仕事」「遊び」「愛」の4つの観点から自分の現状を評価してみる。

方法は、4分野について現状を短い文章にまとめた後、下のような図(本書では「ダッシュボード」と呼んでいる)を描き、自分が現状だと思うラインまで塗りつぶす。

ライフデザインのダッシュボード

注意点としては、

  • 健康は心(感情)、体(肉体)、精神(メンタル)の健康すべてを含む
  • 仕事は有償・無償問わず人間社会への貢献すべてを指す
  • 遊びは楽しむことが第一目的であるものに限る
  • 愛は対象は問わないが、「つながっている」という感覚が含まれるもの

ダッシュボードを描き終わったら、自分が対処したいデザインの問題について考え、それが対処不可能な問題でないかをチェックする。

コンパスをつくる

自分の現在地を理解することができたら、次は正しい方向へと歩みだすためのコンパスをつくる。

方法は次のとおり

  1. 自分の仕事観についてざっと書き出す(30分間、A4用紙1枚以内)
  2. 自分の人生観についてざっと書き出す(30分間、A4用紙1枚以内)
  3. 書き出した仕事観と人生観を読み、次の質問にひとつずつ答える
    ・両者はどの部分で補い合っているか
    ・両者はどの部分で食い違っているか
    ・両者に因果関係はあるか、あるとすればどんな

仕事観、人生観を書き出す際には次のようなことを自問すると良い。

仕事観 人生観
なぜ仕事をするのか? 自分はなぜここにいるのか?
仕事は何のためにあるのか? 人生の意味や目的は?
自分にとっての仕事の意味は? 自分と他者の関係は?
仕事と自分、他者、社会との関係は? 自分と家族、国、世界の関係は?
良い仕事や価値ある仕事とは? 善や悪とは何か?
お金と仕事の関係は? 人間より上位の存在(神など)の有無と自分の人生に与える影響は?
経験、成長、充足感と仕事の関係は? 喜び、悲しみ、公正、不公正、愛、平和、対立は人生にどう関わっているか?

仕事観や人生観は常に変わっていくものなので、しばらく使えるコンパスが見つかればそれでいいという気持ちで気楽に書くことがポイント。

道を探す

コンパスが手に入ったら、続いて道を探す段階となる。

道を探す助けとなるのが「熱中」と「エネルギー」の2つ。
仕事が楽しいと感じられるのは、自分の強みを発揮し、仕事に心から熱中し、エネルギーに満ちているときだからである。

毎日の活動(公私問わず)の中で熱中している瞬間やエネルギーに満ちているときを知るために、日誌(本書では「グッドタイム日誌」と呼んでいる)をつける。

方法は次のとおり

  1. 毎日の活動の中で「熱中しているタイミング」「エネルギーに満ちあふれているタイミング」「そのとき何をしていたか」「熱中とエネルギーの度合い」について日誌をつける
  2. 日誌を3週間継続する
  3. 毎週末、考察を書き出し、熱中している活動やエネルギーが湧いてくる活動と、そうでない活動を見分ける
  4. 考察で意外な発見はあったか
  5. 3の活動を具体的に掘り下げる
  6. 必要に応じてAEIOUメソッドを使って考察する

AEIOUメソッドとは、活動(activity)、環境(Environment)、やりとり(Interaction)、モノ(Object)、ひと(User)の頭文字を取ったもので、これらの観点からズームインすることにより、具体的な考察ができる。

日誌の付け方はわかりにくいため、本書より具体例を転載しておく。

グッドタイム日誌

マインドマッピング

続いては、なるべく多くの選択肢を生み出し、たくさん実験やプロトタイプづくりを行う段階になるが、その準備として、まずは「マインドマッピング」をおすすめする。

誰もが人生の何かで行きづまっているが、そんなときに必要なのが、アイデアの創造、つまり大胆なアイデアやクレイジーなアイデアをたくさん生み出すことである。

マインドマッピングはアイデア創造のためのツールのひとつである。

方法は次のとおり

  1. グッドタイム日誌を読み直し、「熱中した活動」「エネルギーが湧いてきた活動」「フロー状態(ハイ、ゾーンに入っている状態)に達したときの活動」の3つの活動に着目する
  2. それらについてひとつずつマインドマップを描く
  3. マップの一番外側の項目の中から、目に飛び込んできたものを3つピックアップし、それを組み合わせた仕事の説明を書く
  4. それぞれの仕事について、自分の役割を簡単にスケッチする

マインドマップの描き方は様々な説明があるが、本書では、テーマの周りに、関連する5,6個の概念を書き出して線で繋げ、さらにその言葉から浮かんだ言葉をさらに外側に書き出して繋げるという作業を3~4巡繰り返す方法で描く。

仕事を書く際には、自分にとって楽しくて面白く、他人の役に立つものである必要があるが、現実的である必要はない。
また、3つの仕事が似たり寄ったりにならないように注意する。

人生プランを描く

いよいよ3通りの人生プランを描き出す段階だが、その前に注意したいのは、「正解の人生はひとつしかない」という考え方は正しくないということだ。
誰にでも、何通りもの人生を送るだけのエネルギー、才能、興味があり、どの人生がベストかと問うのは愚問である。
だから本書では、3通りの人生を描くこととしているし、その3つに優劣はない。

3つのイメージとしては

  • 現状抱いているアイデア
  • それが突然ダメになった場合のプラン
  • お金や世間体を無視するとした場合の仕事や人生

となる。

具体的な方法としては下図のようなシートを作ると良い。

ライフプラン

方法は次のとおり

  1. 5年間のプランを3通り記入する。このときにはプライベートな出来事や仕事以外の出来事も盛り込む。
  2. 各プランに短いタイトルをつけ、思い浮かぶ疑問を3つずつ書き出す。
  3. 資源、興奮度、自信、一貫性に関するゲージを書き込み、各プランを評価する。
  4. 完成したプランを他者(2~5人程度)に発表する。発表時にどれくらいワクワクしたかを覚えておく。

なお、4の際には、批判、評価、アドバイスではなく、的確な質問をしてくれるようにお願いしておく。
発表を聞いてくれる人が見つからない場合には、発表する自分自身を動画に撮り、それを第三者になったつもりで見返して、自分自身への意見や感想を書き留めると良い。

プロトタイプをつくる

3つのプランが決まったら、今度はそれぞれのプランについてプロトタイプをつくる。

プロトタイプをつくる目的は以下のとおり

  • 的確な疑問を掲げる
  • 実体験する
  • 自分自身の思い込みを暴く
  • 早めに失敗し、失敗を前進の糧にする
  • 未来にそっと近づいてみる
  • 自分自身や他者への共感を築く

手順は次のとおり

  1. 3通りのプランとそれぞれに関する疑問点を見直す
  2. 疑問解決に役立ちそうなライフデザイン・インタビューのリストをつくる
  3. 疑問解決に役立ちそうなプロトタイプ体験のリストをつくる
  4. 行きづまったら、協力者を集めてブレインストーミングを行うか、自分でマインドマッピングを試す
  5. インタビューや実体験の機会を積極的に探し、プロトタイプをつくる

インタビューでは、次のようなことを聞くと良い。

  • どういう経緯でその仕事をすることになったのか?
  • どうやってその専門知識を手に入れたのか?
  • 実際のところどういう仕事なのか?
  • その仕事の好きな点と嫌いな点は?
  • 一日はどういう感じで進むのか?

その際、最も注意すべき点は「就職面接ではない」ということ。
自分ばかりが質問に答えたり、自分の話ばかりになってきたら会話の流れを変えるように心がける。

仕事探しの落とし穴とコツ

ここから(本書では第7章以降)は少し話の毛色が変わる。
まずは就職活動についての記載がある。
アメリカを前提としているが、日本にも当てはまる部分があると感じるので書き留めておく。

現代の一般的な就職活動と言えば、ネット等で求人情報を探し、職務記述書を読み、自分にぴったりな仕事だと感じたら、履歴書等を送り、人事担当者からの連絡を待つ、といったような流れだろう。

だが、自分にぴったりな仕事がどこかで自分を待っているという前提が誤解である。

そもそも夢の仕事と言われるような最高の仕事はまず公開募集されない。
事実、アメリカでは全仕事の20%しかネットなどに公開されない。

加えて、普通、ウェブサイトなどに公開されている職務記述書は、人事責任者や、実際の仕事についてきちんと理解している人が書いているわけではない。
だから、職務記述書を読んだだけでは、採用に必要な条件はまずわからない。

とはいえ、ネット就活をしないわけにもいかないだろうから、より効果的にするコツがまとめられている。

  1. 求人募集で使われているのと全く同じ言葉を使って履歴書を書き直す
    膨大な量の履歴書の中から自分のものをキーワード検索で発見してもらえる可能性が高くなるため。
  2. 必須スキルについても、求人募集に書かれたとおりに履歴書に記載する
    理由は1と同じ。
  3. 履歴書を記載されている職務に一致させる
    検索ヒットの確率が増すし、会社のニーズに応えられるというアピールになる。

その他の注意点としては「スーパーヒーロー求人」や「幽霊求人」がある。

「スーパーヒーロー求人」とは、会社が要求しているスキルに対して提示されている報酬が釣り合っていない求人である。
これは、その求人情報の掲載期間を確かめることで回避可能。
まともな雇用市場なら、求人情報が4~6週間以上残っていることはまずない。

「幽霊求人」とは、そもそも内定者が決定している会社が、形の上では公募をしたということにするために、内定者とぴったり一致する条件で出した求人である。
幽霊求人を見破るひとつのコツは、企業のウェブサイトで職務記述書が入れ替わるスピードを確かめるというもの。
1~2週間ごとに取っ替え引っ替えするようなら、幽霊求人の可能性がある。

また、人気企業に応募するときにも注意点がある。

人気企業には募集人数を遥かに超える数の応募者が殺到し、その中には「スーパーヒーロー」でさえも現実に存在してしまう。
一方、人気企業側は有能な人材を採用することよりも、無能な人材を採用しないことに神経をとがらせている。
つまり、無能な人材を採用しないために優秀な人材を見逃すこともかなり大目に見るのである。

したがって、人気企業においては、優秀な人材が確たる理由もなく却下されることもしばしばある。
こればかりはどうしようもないので、採用されないからといって落胆する必要はない。

それでも、少しでも確率を上げたいのであれば、先述のライフデザイン・インタビューを用いて、社内の人々と関係を築くのが良い。
その際に役立つのがリンクトインなどのインターネット・ツール。
これらは職探しではなく、人探しにこそ使うべきものである。

そして、インタビューに応じてくれる時点で、相手は「人助けモード」になっているので、ポストに空きがあれば情報をくれる可能性がある。
もしそういった話がなければ「この組織に入ろうと思ったら、どういうステップが必要なのでしょうか?」という趣旨の質問をする。
「求人はありませんか?」といったようなイエスorノーの質問をしてはならない。

心構え

マインドセットの部分で触れたが、初めての就職であれ、転職の検討であれ、第二のキャリア選択であれ、大事なのは心からの好奇心を持つことである。
人が一番興味を持つ相手は、自分に興味を持ってくれている人だということを忘れてはならない。

不要なものを断ち切る心も必要である。
ライフデザインは、選択肢を集めて生み出し、絞り込み、選ぶことの繰り返しである。
その際、選ばなかった選択肢についていつまでも悩んだりせず、断ち切って前に進まなければ幸せは手に入らない。

失敗に対する免疫をつけることも大切である。
失敗は成長の糧であると心に刻み、失敗の記録をつけ、失敗を分類し、成長の機会と分類されるものについてはヒントを見つけ出す。

ライフデザイナーは何が起きても前進の道をデザインし、大きな力に変える。
不正解の選択はないし、後悔もない。
あるのは、プロトタイプだけである。

5つのマインドセットを常に生き方の指針にし、年1回程度のコンパスの点検と、自己鍛錬を怠らないことが理想の人生を生きる上で大切である。

まとめ

人生という壮大なテーマについて、必要な心構えや行動を教えてくれる本だった。

あらゆる人に画一的なアドバイスをしがちな自己啓発本と異なり、具体的な方法を伝授して、読者ごとにオリジナルの人生をデザインできるような内容になっているところも評価できる。

これから就職しようとしている人、転職しようとしている人、第二のキャリアを描こうとしている人など、社会と関わるすべての人に役立つ本だと言えるだろう。

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