海賊のジレンマ -ユースカルチャーがいかにして新しい資本主義をつくったか-

少し前に読んだ本の中で紹介されていた本。

たしかその本では、「今では当たり前となっている文化や技術が、いかにして覇権を握るに至ったか解説されている本」という趣旨の紹介がされていた気がする。

面白そうだと思って手を出してみた。

 

 

が、なかなかに辛い読書であったことは認めざるを得ない。

 

まず、400ページを軽く超える分量。

一般的なビジネス書などの2倍くらいはある。

文字も比較的小さい。

また、原書は英語で書かれているので、言い回しが英語的な部分があり、読みにくい。

そして何より、著者のマット・メイソン氏が元々DJだったこともあり、音楽の話題が非常に多い。

残念ながら僕は音楽の知識はかなり薄い方だ。
余談だが、知識だけではなくて能力も低く、ピアノはおろかリコーダーすらまともに扱えないので、学生時代の音楽の成績はいつも赤点スレスレだった。

で、そんなわけだから著者が意気揚々と書き綴っているであろうパンクやレゲエ、ヒップホップの話なんかはピンと来なかった。

もっとも、歴史だとか重要人物だとかが豊富に紹介されているので、そのあたりのジャンルに精通している人はかなり面白いと感じるのではなかろうか。

まあ、本を読む時間がない人に向けて内容を簡単に紹介するというのが当ブログの目的のひとつなので、その意味では良い選択であったと思う。

 

さて、本題に入る。

副題からも想像はつくが、本書の「海賊」とはジャック・スパロウやフック船長のことではなくて、いわゆる「海賊版」のことである。

海賊版によってもたらされた文化や技術や市場の発展について様々な具体例を挙げて詳細に解説されている。

本来、海賊行為は既存の利益を害するものなので法律によって規制される。

ところが、違法行為として始まったものが人気を博し、社会的に認められるようになると、それを軸としたビジネスが立ち上がる。
例えばヒップホップ、オープンソース・ソフトウェア、ファッションやアートも当初は海賊行為として忌み嫌われていた。

上記具体例が現代社会に定着していることからわかるように、既得権益を有し、かつて海賊行為を排除しようとしていた団体は、最終的にはかつての海賊行為を認め、取り入れ、そのフィールドで競争することを強いられる。

その意味で、訳者の八田氏が言うように、実際のところは「『海賊のジレンマ』よりも、『海賊”が”ジレンマ』というタイトルの方が内容に即している」と思われる。

なお、「海賊のジレンマ」はゲーム理論の「囚人のジレンマ」から発想を得ている。

とはいえ、後者が自分の利益確保のみを考えるのに対し、前者は社会全体の利益を考慮するという点が異なる。

そして、その点が重要だ。

そもそも世の中は需要と供給のバランスで成り立っており、それは海賊行為とて例外ではない。

たとえ海賊自身は自己の利益しか考えていないとしても、海賊行為が成立するためにはそこに需要がなくてはならない。
需要があるのは、それを享受する人が利益を受けるからだ。

つまり、需要が高い海賊行為は、多くの人に利益をもたらす行為であり、社会全体の利益を考慮しているということにほかならない。

当然、社会の価値を高める行為を、既存プレイヤーは無視することができず、社会からの圧力によって海賊行為と競争することを強いられるというわけだ。

 

では海賊行為によってもたらされた社会的利益とはどのようなものがあるのか。
ひとつ、例を挙げよう。

白熱電球や蓄音機の発明で知られるエジソンだが、彼は映画撮影の技術も発明している。

そして、その発明の後、彼の技術を使って映画をつくる人々にライセンス料を要求するようになった。

もうおわかりだろう。

そう、このライセンス料を払わない海賊集団が誕生した。

ウィリアムという名前の男を含む海賊たちである。

彼らはニューヨークを離れて当時未開の地であった西部へ逃れ、この地でエジソンの特許が切れるまで映画製作を続けた。
もちろんライセンスなしで。

彼らの海賊映画は大いなる成功を収め、時効で合法となった後も、映画を制作し続けた。

彼らが逃れ、定着した西部の街こそハリウッドであり、ウィリアムのラストネームはフォックス(FOX)である。

もし、ウィリアムらの海賊行為がなかったら、スターウォーズシリーズは生まれなかったし、プラダを着た悪魔は存在しないし、毎年クリスマスにホーム・アローンが放送されることもない。

 

 

さて、海賊行為とそれがもたらした社会の変革について豊富な例が挙げられている本書だが、私たち一般人が参考にするのは少し難しい。
現に規制されている行為なので、そのまま実践すれば捕まるのが関の山だ。

ただ、その中で、リミックスに関する記述については、一般的な事柄に適用しやすいので、最後に記載しておく。

リミックスとは、どんな発想でも魅力的な考えにする、クリエイティビティを引き出すための料理方法である。そしてリミックスをするには、以下の材料が必要だ。

  • すごいアイデア(自分で考えなくとも、他人のを拝借してもいい)
  • 現場(ダンスフロア)の人たちのアイデア
  • たくさんの他人のアイデア(細かく刻んでおく)
  • オリジナリティを少々
さらに親切なことに手順まで記載されている。

1.何でもいいから、まずは「自分がこれだと思うもの」を用意する。それが、これからリミックスする「主成分」となる。

2.素材を、構成する成分にまで解体する。次に表層をはがし、内容を分析して、素材のよい部分と悪い部分を見つける。

3.実際にそれを使う人について考える。彼らがどういった人間で、なにを欲しているのかを見極める。

4.ここでまた主成分に戻って考える。これによって、最初は思いつかなかったような新しい考えが浮かぶかもしれない。

5.現場に戻って、今まで考えなかったようなアイデアを探し集めてくる。そのアイデアの中で、最もいいと思う部分を入念に選んで、残りは捨てる。集めたものを精製して無駄のない状態にしてから、新しい材料をどう使うかを分析する。

6.自分の独創的なアイデアを加えることによって、他から取り入れたアイデアはいっそう輝いてくる。上手にリミックスすることで、新たな価値が加わる

筆者は音楽的な観点で上記のことを述べているが、このことは他の全ての創造的な活動にも結びついている。
他にもヒントとなりうる記載はいくつもあるので、特にクリエイティブな活動をしている人にはおすすめの一冊だ。

 

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