たった5分でわかる『伝え方が9割②』

2015年4月に初版が発行された本。

著者の佐々木圭一氏は、博報堂勤務後、株式会社ウゴカスを設立。コピーライターや作詞家として活躍する一方で、多数のメディア出演や連載などもこなす、伝達のスペシャリスト。

本書は、「同じ内容をいかに効果的に相手に伝えるか」ということに焦点を絞った、伝え方の専門書である。
ページ数はあとがき等まで含めて260ページあまり。前作『伝え方が9割』の内容をカバーしつつ、新たな要素も加えた、比較的ボリュームのある1冊だが、内容がわかりやすいように具体例を豊富に盛り込むなどの工夫がなされている。

本記事では、重要な部分を抽出してまとめている。

「ノー」を「イエス」に変える技術

人は平均22回/日のお願いをしており、そのたびに「イエス」か「ノー」かの返答が発生している。その中で「ノー」という返事をすべて「イエス」に変えられればベストだが、それははっきり言って不可能である。
だが、同じ内容でも、伝え方を工夫すれば、「ノー」の中の2~3割を「イエス」に変えることは不可能ではない。

実は、「ノー」を「イエス」に変えるために必要なステップはたった3つしかない。

  1. 自分の思考をそのまま言語化しない
  2. 相手の思考を想像する
  3. 自分にも相手にもメリットになるお願いをつくる

自分のお願いをただぶつけても、相手には何のメリットもないのだから従ってくれるはずがない。だったら、相手がメリットを感じられるようにお願いを言い換えれば良いというわけである。

1については、自分が思いとどまるだけで達成できる。3についても、相手のメリットさえわかれば文章を構成するだけ。では、2についてはどのような手法があるのか。

著者によれば、アプローチは7通りある。

相手の好きなこと(もの)を提示する

単純だが、相手の好きなことやものは、それ自体が既にメリット。好感を持たせつつ、自分の希望を通すことができる。

言い換え前 言い換え後
現品限りです 人気で、最後の一着なんです
山田サツマ(サツマイモ品種の仮称) 生キャラメルいも(山田サツマのニックネーム)
高価格のハイスペックモデルをつくりませんか? フラッグシップモデルをつくりませんか?

嫌いなことを回避させる

これは「やるとデメリットがある(=やらないことがメリットになる)」と伝える手法。押しつけがましい印象を与えてしまうことがあるので、連発すべきではないが、強烈な効果がある。

言い換え前 言い換え後
展示物に触らないで 薬品が塗ってあるので、触らないで
トイレのふたを閉めて トイレのふたを閉めないと金運が下がるよ
お子様を着席させてください 熱々の料理を運んでおり、危険ですので着席させてください
万引は犯罪です 万引き犯を捕まえることができました。ご協力ありがとうございます

どちらを選んでも自分が得をする選択肢をつくる

相手に選択を委ねることで、「やらされている感」を消す手法。ポイントは、相手がどちらを選んでも、自分にとって得になるように選択肢を設定すること。

例えば、レストランでデザートを注文してもらいたいとき、「デザートはいかがですか?」と聞くと、「いる/いらない」の2択になってしまうが、「デザートはマンゴープリンと抹茶アイスのどちらがよろしいでしょうか?」などと聞けば、「マンゴープリン/抹茶アイス」の2択に持ち込むことができる。しかも、選んでいるのは相手なので不満も出にくい。

承認欲求をくすぐる

夫婦間でも、上司部下でも、親子でも、「認められたい」という欲求は誰もが持っている。それを上手く刺激してやるようなお願いを組み立てる。

言い換え前 言い換え後
窓拭いてくれない? 背が高いあなたに拭いてもらうと高いところもピカピカになるんだけど、お願いできない?
それくらい自分でできなくてどうするの? 大丈夫、絶対できるよ。○○さんがやってくれることをお客様も望んでるよ
(横断歩道で子供に)危ないから手をつないで 私ひとりだと不安だから、手をつないで一緒に渡ってくれない?

特別感を出す

「あなただけは特別です」という感じを出すと、特別扱いされて優越感に浸りたいという欲求から、誘いに乗りやすくなる。「○○さんだけは」「○○さんにこそ」というフレーズと相性が良い。

チームワーク化

あなたと私は同じ側、同じチームですというスタンスでお願いをする。仲間意識が生まれるので、頼みが通りやすい。身近なところでは、女性同士の「一緒にトイレ行かない?」や男性同士の「一緒にコンビニ行かない?」がこれにあたる。

先手で感謝する

例えば、「この机、移動して。ありがとうね!」と言われたら、なんとなく移動しないと落ち着かない気分になるだろう。これは、好意に対して好意を返したいという心理的メカニズム(好意の返報性)が我々に備わっているためである。感謝された時点で、ほのかな信頼関係が生まれるので、相手はお願いを断りにくくなる。

「強いコトバ」をつくる技術

歴史上の人物や有名人の言葉の中で、多くの人の心を動かし、後世に語り継がれているフレーズがある。「強いコトバ」には、発言者の影響力が不可欠だと思われがちだが、実際は「つくり方」さえ知っていれば、我々一般人にも印象的なフレーズを発することはできる。

「強いコトバ」を身につければ、メールやSNSで人の心を動かせるし、企画書に説得力が生まれるし、スピーチを感動的に演出することもできる。
以下では、そのための技術について解説する。

サプライズ法

驚きを示すフレーズを入れるだけ。簡単だが、効果的。「海賊王におれはなる!!!!」もサプライズ法を利用したフレーズである。

主なサプライズワードは以下のとおりなので、場面に応じて使い分けたい。

あ、 わっ、 そうだ、 びっくり、
げげげ! ほほー、 そうなんだ! おおっ、
え!? うわ、 驚いた ほんと!?
信じられない、 (語尾に)!    

ギャップ法

伝えたいことの前に、正反対の言葉を入れる手法で、多くの名言がギャップ法によってつくられてきた。例えば「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」「美女と野獣」

フレーズのつくり方は以下の3ステップ。

  1. 最も伝えたい言葉を決める
  2. 伝えたい言葉と正反対のワードを考え、前半に入れる
  3. 2と1がつながるように言葉を埋める

赤裸々法

自分の感覚を包み隠さずに赤裸々に言葉にする方法。例えば「超きもちいい!」

フレーズのつくり方は以下の3ステップ。

  1. 最も伝えたい言葉を決める
  2. 自分の体の反応(無言になる、鳥肌が立つ、息が止まる、など)をちょっと照れるくらい大げさに言語化する
  3. 2を1の前に入れる

リピート法

伝えたい言葉を繰り返すだけのお手軽な手法。「となりのトトロ トトロ♪トトロ トトロ♪」

クライマックス法

ここ一番のときに役立つ技術。大切なことを伝えるときや注目されたいときに使うと効果的。クライマックスワード→伝えたい内容の順で話をする。

クライマックスワードは以下のとおり(そのまま使えばOK)

内緒にしておいてください ここテストに出ます
これを聞いたあなた、ラッキーですよ ここだけの話ですが
ここから撮影禁止です いちどしか言いませんよ
ポイントは2つです 他では言わないのですが
あなただけには、話します 告白しますが

ナンバー法

数字を入れるというシンプルな手法。説得力が増す効果がある。
使う数字は、偶数よりも奇数のほうが強く印象に残る。また、文字として表現する場合は、目を引きやすいように、漢字ではなく算用数字を使う。

合体法

ブームとなった言葉の多くをつくり出してきた手法。例えば「妖怪ウォッチ」「ゆるキャラ」
この手法は、新商品のネーミングや流行させたい現象名をつけるのに有効。

手順は次のとおり。

  1. 軸となる言葉を選ぶ
  2. 別軸の言葉の言い換えをたくさん出す
  3. 1と2を組み合わせる

組み合わせた際に印象的なフレーズになるように、別軸言葉をできるだけたくさん試してみることがポイント。

頂上法

「一番が好き」という心理を利用して、何らかの範囲で「1位」というのをアピールする。
世界(東洋/日本/県内/市/地域/個人的)1位のように直接的に表現するパターンもあるし、「お菓子のホームラン王」のように、頂上を連想させるフレーズを入れるパターンもある。

まとめ

交渉事などに使える話し方や、広告やSNS等で目を引くフレーズのつくり方について、体系的に整理されたわかりやすい1冊だった。本記事では割愛しているが、書籍内ではフレーズを思いつくまでの思考過程や具体例が豊富に掲載されているので、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。

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