2019年1月に初版が発行された本。
著者の北野唯我氏は、博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画、取締役を務めている人物。
本書は、新しい挑戦をしようとしているときに、それを阻害する人間関係に関する悩みについて、そのメカニズムの解説と対処方法を綴った本である。
ページ数は全体で270ページあるが、本編は約210ページで、ストーリー形式となっており、実用的かつシンプルでわかりやすいように工夫されていて読みやすい。
本ブログの趣旨を踏まえ、以下ではエッセンスのみを抽出して解説する。
人の才能は3種類に分けられる
上の図は人の才能を3種類に大別し、それらの特徴(思考や行動の軸)と、互いに抱く感情について説明している。
天才 | 独創的な考えや着眼点を持ち、人々が思いつかないプロセスで物事を進められる人 |
秀才 | 論理的に物事を考え、システムや数字、秩序を大事にし、堅実に物事を進められる人 |
凡人 | 感情やその場の空気を敏感に読み、相手の反応を予測しながら動ける人 |
これらの才能に関しては、自分でコントロールできるものではない。
そして、人間が抱える悩みのほとんどは「自分のコントロールできないことを、無理やりコントロールしようとする」ために発生する。
ないものねだりをやめ、まずは自分の才能が3つのうちどれなのかを理解し、ためらわずに使ってみること、これが才能を活かすための第一歩となる。
才能同士をつなぐカギ
先述のとおり、3つの才能はそれぞれ異なる考えの軸を持っているため、物事に対する評価軸も根本的に異なる。
例えば、天才は「世界を良くするという意味で、創造的か」で評価するし、凡人は「その人や考えに、共感できるか」で評価する。
これらの評価軸は永遠に交わることはない。
しかし、現実として、たいていの組織は異なる才能が混在しているはずなのに、崩壊することなく成り立っている。
それは、異なる才能同士を結びつけるキーマンがいるためである。
冒頭で「才能は3種類に分けられる」と述べたが、例えば凡人は共感性しか持ち合わせておらず、創造性や再現性(論理性)はかけらも持っていないのかというとそうではない。
厳密に言えば、ほとんどの人は3つの軸(創造性・再現性・共感性)のいずれも持ち合わせており、どの軸が強く出ているかによって、3種類の才能のいずれかに分類される。
ただし、中には創造性:再現性:共感性=4:5:1のように、2種類の軸が同じくらい優れている人々がいる。
そして、この「2つの才能を掛け合わせた人物」こそ、異なる才能同士をつなぐキーマンである。
エリートスーパーマン | 天才×秀才。仕事ができまくるサイボーグ。 |
最強の実行者 | 秀才×凡人。社内のエースで人気者。 |
病める天才 | 天才×凡人。爆発的ヒットを生み出せるがムラが激しい。 |
コミュニケーションがうまくいかない相手がいる場合には、相手のタイプと自分のタイプを見極め、両者をつなぐキーマンを見つけることが必要となる。
しかし、「協力してくれ」と頼むだけで協力してくれる人が果たしてどれだけいるだろうか…?
キーマンに協力してもらう方法
才能(主語) | タイプ | 内容 |
凡人(人) | I | 自分 |
Y(You) | 相手 | |
W(We) | 家族や仲間 | |
秀才(組織) | K(Knowledge) | 知識 |
R(Right or Wrong) | 善悪 | |
天才(世界) | X(存在) | 世界は何でできているか |
Y(認識) | 人々は世界をどう認識するか |
上の表は、それぞれの才能が使う「主語」について示したものである。
同じ才能の中でもいくつかのパターンに細分化されるが、大まかには凡人は人、秀才は組織やルール、天才は世界や真理などを主語にして語ることが多い。
そして実はこの主語の違いこそが、才能間での軸の差異をもたらす根源的理由なのである。
さて、キーマンに協力を仰ぐ際には、自分の主語に固執するのをやめ、相手の主語で物事を語らないとうまくいかない。
例えば、組織や社会全体が見えている秀才タイプに対し、凡人タイプが人(特に自分)を主語にして協力を求めた場合、秀才から見た凡人の発言は、単なるいち個人の感想や意見にしか思えず、心の中で見下されてしまう。
これでは到底協力してもらうことはできない。
相手に合わせて主語を変えていくことが、スムーズに協力を得るための近道となる。
あなたならどうしますか?
凡人と秀才をつなぐ「最強の実行者」
凡人が「最強の実行者」を巻き込むキラークエスチョンがある。
それは「あなたならどうしますか?」という質問。
秀才タイプは再現性を大事にするため、体系化されたルールややり方を持ち合わせている。
それに加え、共感性も持っている「最強の実行者」は、できない人の気持ちも理解できるため、求められれば教えることを厭わない。
「あなたならどうしますか?」と教えを請い、その上で自分の想いを伝えると、「最強の実行者」はサポートをしてくれる。
ちなみに、「あなたならどうしますか?」は、凡人が天才タイプと話す際にも有効だが、天才タイプに対しては、問い自体が天才の好奇心を刺激するような魅力的なものでなければうまくいかないことに注意したい。
才能に応じた武器
才能 | 武器 |
創造性(天才) | アート、起業、エンジニアリング、文学、音楽、エンターテイメント |
再現性(秀才) | サイエンス、組織、ルール、マネジメント、数字、編集、書面、法律 |
共感性(凡人) | 言葉、マーケティング、SNS、写真、対話、地域 |
上の表は、それぞれの才能と相性が良い武器を示したものである。
適した武器を媒介にすることによって初めて、優れた才能が世の中に伝わっていく。
また、場面に応じた適切な武器を選ぶ(ex.創造性を発揮したいときは「アート」、再現性を発揮したいときは「数字」)ことも重要。
自分の天才性を発揮する
天才とは『自分に合った武器』を手にした上で『ストッパー』を外した人間のこと
先述のとおり、人の才能は3パターンのどれかひとつしかないわけではなく、程度の差こそあれ、ほとんどの人が3つの才能を持ち合わせている。
ということは、たいていの凡人も天才の特性を持ち合わせているということである。
その天才性を発揮できるか否かを分けるキーとなるのが、「武器」と「ストッパー」
「武器」については「才能に応じた武器」で説明したとおり、自分に合う武器を見つけて鍛えることが重要。
そして、もうひとつ重要なことが、「自分の中の天才を殺してしまうストッパー(秀才・凡人)を外す」ことである。
わかりやすく言い換えるなら、自分の中の天才が思いついたアイデアを、社会的な基準やロジックでダメだと判断する自分の中の秀才や、周りからの評価を気にして尻込みしてしまう自分の中の凡人を抑え込むということである。
凡人の最強の武器
凡人が力を発揮するための最強の武器がある。
それは「自らの言葉」
「自らの言葉」とは、自分の本能的な気持ちが先にあって、それをラベル化するために後からついてきた言葉のこと。
これは、会社や組織、国家が作り出した「他人がつくった言葉(便利な言葉)」とは明らかに異質なものである。
例えば「利益」「会社」「マーケティング」といったような便利な言葉は、論理的な言論を展開する秀才にとっては武器となりえるが、共感性が重要な凡人の話には役に立たない。
わかりやすい基準を挙げるなら、「その言葉は小学生でも使うだろうか」と考えると良い。
他人の言葉を排除し、自らのありのままを白状する。
凡人の話は人の心を動かすものでなくてはならない。
まとめ
人が持つ才能を3種類に分け、それらの特徴と、異なるタイプの才能とうまく付き合うためのテクニック、さらに、自分の才能を効果的に発揮するための手段について解説された一冊だった。
「職場の人間関係に悩む、すべての人へ」という副題がつけられているが、その内容は職場に限らず、あらゆるコミュニティーにおいて役立つものと言えるだろう。
実際の書籍では、あえてストーリー形式にすることによって、具体的なイメージをシンプルに伝えられるように工夫されているため、より実用的なイメージを持ちたい方には手にとってみることをおすすめしたい。
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