2014年10月に初版が発行された本。
著者の麻生けんたろう氏は、ラジオDJ、パーソナルモチベーターなど、多数の肩書を持つ。あがり症を克服した自身の経験や知識を活かし、個別指導なども行うほか、複数の本を出版し、作家としても活躍している。
本書は、人前で話すのが苦手な人が、3分間堂々と話せるようになるノウハウを詰め込んだものである。
ページ数はあとがきまで含めて170ページあまり。専門用語などは登場しないので、読みやすい本となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
あがり症の原因と対策
あがり症の原因は大きく分けて6つある。
- 他人の評価が気になる
- 自己評価を満たそうとし過ぎる
- 未体験のことを恐れる
- 結果を恐れ過ぎる
- 自分に向けられる視線を恐れる
- 体が冷えて縮こまっている
以下、それぞれの対策を見ていく。
他人の評価が気になる
自分の意見に自信を持ち、周りがどう思おうが気にしないようにする。具体的には、意識の焦点を少しだけずらし、それに集中する。例えば、「つまらないと思われないか心配」ではなく、「何を言えば面白いと思ってもらえるか」と自問し、その答えを探すことに集中する。
自信をつけるには、小さな成功体験を積み重ねていくのが有効。はじめのうちは、自信があるフリでいい。それを続けていけば本当に自信がある状態が普通になっていく。
自己評価を満たそうとし過ぎる
適度な緊張は集中力を高めるために必要だが、過度な緊張はむしろパフォーマンスの低下を招く。完璧を目指すのではなく、80点くらいで満足できるような心理状態を作り出すようにする。
人前で話す際には、最初と最後さえしっかりとキメれば、後はそこまで力を注がなくても上出来な印象となる。
未体験のことを恐れる
未体験のことは恐ろしいことではない。子供の頃感じていたような、未体験のことに対するワクワク感を自分の中に持てるようにする。
既にうまくいった未来の自分が、現在の苦難を笑顔でネタにしている様子を思い浮かべると良い。
結果を恐れ過ぎる
結果の影響度は、あなたが思っているほど大きくない。冷静になって、客観的に見れば大したことではないという事実に気がつけるようにする。自分が想像している「失敗した結果起こる悪い出来事」の理由が「過去に類似事例があったから」で、それが起こる確率が100%でないとしたら、「悪い出来事」は単なる自分の思い込みである。
自分に向けられる視線を恐れる
見られる側から見る側へと意識を転換し、相手のことを観察する。
さらに一歩踏み込み、相手の心に残るスピーチをしたいなら、
- 会場の一番奥の天井を端から端まで眺め、自分の気持ちが会場全体と一体化したイメージを持つこと
- 自分の体が巨大化し、観客を見下ろしているのをイメージしながら観客を観察すること
- 一人ひとりの顔を見て、一対一で話してるようにすること
の3つを心がける。
体が冷えて縮こまっている
単純に、体を冷やさないようにするなどの対策をすればいい。事前にストレッチをしたり、お腹や背中に使い捨てカイロを貼るのが効果的。また、体がふらつかないように、重心が取れた状態で足を肩幅に開いてまっすぐ立つようにする。
また、全般的なあがり対策として、スローテンポのメトロノームを聞く、指先をぬるま湯に浸す、スマホに入れた笑える写真を見るといった方法があるので、自分に合うものを試すのがおすすめ。
緊張を防ぐ声の出し方
まずは、普段の自分の声を録音して聞き、発音、発声、話し方の癖を知ること。そして、長所は残しつつ、改善点があれば対策を講じる。
腹式呼吸
まずは普段から腹式呼吸ができるように練習する。
- 息を吐ききる
- お腹に空気が溜まっていくイメージを描きながら、鼻から3秒息を吸う
- 息を2秒止める
- 15秒で口から息を吐く
発声練習
腹式呼吸ができるようになったら、次は発声練習をする。
- 息を吐くタイミングで、口を指が縦に3本入るくらい大きく開け、「ア~」と発声する。20~25秒くらい連続で発声できるようになるまで毎日訓練する。
- 胸に手をあてて、口をつぐんだまま、鼻が震えるように「ン~」とハミングする。
- 2を5秒続けた後、口を大きく縦に開いて「マ~」と声を出す。
- 胸に当てた手が感じる振動が一番大きくなる口、顎、声、息の状態を探り当てる。
明瞭な音声を出す
まずは母音の練習から始め、子音、活舌と鍛えていく。それができたら、正しいアクセントや抑揚をマスターする。なお、正しい発音の決まりは、以下書籍に掲載されている。
人前で普通に話す
この段階では、とりあえず話をまとめることまではできるというレベルを目指す。
ポイントは次の3つ。
- 要するに何が言いたいのか20秒以内にまとめておく
- 話の型をひとつ身につける
- 時間の許す限りリハーサルを重ねる
話の型はいくつもあるが、汎用性の高いものとして、以下の型が紹介されている。
- 聞き手の心境を言い当てるようなつかみで共感を得る
- 話のテーマを明確に提示する
- テーマについて、自分の考えを述べる
- 自分の考えの根拠を語る
- 聞き手が抱く疑問を解消する具体例を挙げ、自分の考えの信憑性を高める
- 2と3をつなげた「結論」を述べる
その他、以下のようなことに気をつけると、聞き手の心に残る話ができるようになる。
- 声を響かせる
- 語尾をしっかり着地させる
- 言葉の第二音節以降のガ行音は鼻濁音にする
- 大勢の中の誰か一人を対象に話しかける
- スピーチ前にできるだけ多くの聞き手と雑談する時間を持つ
相手を引き込む話し方
前フリ
相手の興味を喚起させることが目的。同意や共感を求めたり、質問をしたり、クッションフレーズ(こんなことを言うと○○かもしれませんが、など)を入れたりすると効果的。
誰かをステージに上げる
観客の一人を舞台に上げ、質問をしたり、マジックの手伝いをさせたりするパターン。話し手と聞き手の間にある壁が取り払われるため、興味を引くことができる。
ネストループ
テレビ番組で、クライマックスに差し掛かる直前にCMに入ったり、別のコーナーに移ったりするのがネストループ。これをスピーチに取り入れる。
つまり、話Aを展開→話Bを展開→話Cを展開→話Cを収束→話Bを収束→話Aを収束という構成を組み立てる。始めのうちは難しいので、組むループは2つにするといい。
相手の属性に合わせた話から入る
地域、趣味、サークル活動、業界特有の話など、相手が属するコミュニティの話から入るようにする。ブログやSNSでの事前情報収集が有効。
失敗談を入れる
失敗談を入れたほうが、聞き手が感情移入しやすく、親近感を抱きやすい。何か失敗したら、その後のトークのためにストックしておくといい。ただし、失敗で終わるのは禁物。克服エピソードを加えたり、軽い失敗なら笑い飛ばすなど、明るい方向に持っていくこと。
スケッチ・トーキング
聞き手の五感を刺激し、その場にいるかのようなイメージを持たせる話術が「スケッチ・トーキング」
オノマトペを取り入れたり、例え話を使ったりすると効果的。
相手の心に何かを残す方法
相反する意味の言葉を合わせる
「○○は△△のはじまり」「○○は△△の武器になる」「○○の△△みたいに」というフレーズを作り、○○と△△を逆の意味になるように構成する(真逆でなくても、プラスイメージとマイナスイメージの組み合わせであれば問題ない)。
なお、この手法については『伝え方が9割②』の中で「ギャップ法」として紹介している。
最初と最後に注力する
最初と最後さえビシッと決めれば、道中で失敗したとしても大して悪い印象は持たれない。
繰り返す
文字どおり大事なことやフレーズを単純に繰り返し話すだけだが、聞き手に印象づけるのに効果がある。
相手のタイプに合わせて話す
目の前の相手をよく観察し、タイプに応じたコミュニケーションを心がける。
初対面など、タイプを細かく判断するのが難しい場合には、感情と論理のどちらに重きを置くタイプなのかを考えるといい。
まとめ
あがり症の克服から始まり、プロレベルの話し方に至るまで、網羅的に解説された一冊だった。考え方や話の内容について解説された本は数多く出版されているが、本書は、筆者がアナウンサー養成学校で学んだ、話し方そのものに関する技術についても解説されており、その点で独自性がある。
本記事では割愛したが、書籍内では、声の出し方に関する具体的な練習方法や、エピソードトークの例も数多く掲載されているため、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
コメント