2016年4月に初版が発行された本。
著者の鳥谷朝代氏は、一般社団法人あがり症克服協会代表理事、株式会社スピーチ塾代表取締役といった肩書を持つ人物。自らがあがり症を克服した経験を活かし、あがり症克服やスピーチに関する指導を行っている。
本書は、人前で話すことが苦手な人に対し、あがり症の克服方法や、上手な話をするコツについて解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて約280ページ。文量自体は少し多めだが、専門用語などは登場しない、一般向けの本となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
人前でうまく話せない原因
人前で話すときにあがってしまう原因には、次のようなものがある。
- 場慣れしていない
- プレッシャーを感じる
- 準備・練習不足
また、聞き手に「話が下手」と思われる要素は、次のとおり。
- 言い訳が多い
- 発言がネガティブ
- 話が長い、まとまりがない
- 無表情
- 会話のキャッチボールができていない
- 一瞬の沈黙に耐えられない
あがり症の克服法として、「場数を踏む」「聞き手をカボチャだと思う」「話す内容を丸暗記する」といった方法が巷には溢れている。しかしながら、本当に必要な対策はこういった精神論、根性論ではなく、根拠のある対策や準備をして成功体験を重ねることである。その内容を次項以降で説明する。
話の進め方
話し上手だと思われる要素
話が上手な人とは、「なにを、誰に、どのように伝えるかを意識し、聞き手とのコミュニケーションを楽しめる人」である。
具体的な要素は次のとおり
- 表情豊か
- 身振り手振りがある
- 発声、発音が明瞭
- 話すスピードが適切
- 話し方に緩急がある
- 適度な間がある
- 聞き手と目を合わせる
- 聞き手の反応を見る
- 空気を読んで、笑いやアドリブを混じえる
ひとつの話題は3分まで
話下手な人がやりがちなのが、ダラダラと長く喋ってしまうこと。
人の集中力が続くのは3分までと言われている。つまり、3分の中で自分の伝えたいことを簡潔かつわかりやすくまとめることが大切。それができれば「話が上手な人」として聞き手に認識される。3分を超える持ち時間が与えられている場合でも、3分/話題のサイクルを回すことを意識する。
300字/分のスピードで話す
話すスピードは1分間で300字くらいがちょうどいい。一般的なアナウンサーが話すスピードは1分間で350~400字なので、アナウンサーより少しゆっくり話すように心がける。
話題のストック
突然のスピーチに備えて、普段から話題をストックしておくことが大事。良いネタを見つけたらすぐにメモを取り、3分以内で話せるように準備をしておく。
使える話題一覧
好き/嫌いな食べ物 | ハマっていること | 休日の過ごし方 | 趣味・特技 |
子供の頃の将来の夢 | 好きな芸能人 | 学生時代の思い出 | 過去一番高い買い物 |
健康/ストレス解消法 | 好きな映画 | 好きな本 | 最近嬉しかったこと |
最近悲しかったこと | 長所と短所 | 個人的パワースポット | 家族 |
好きな異性のタイプ | 宝くじで100万当たったら | 願い事がひとつ叶うなら | 実は私○○なんです |
初恋のエピソード | 旅行の思い出 | 住んでいる街 | 無人島に持っていく物3つ |
尊敬する人 | 座右の銘 | 好きな季節 | 雨/雪の思い出 |
長期休暇の過ごし方 | 長期休暇の思い出 | クリスマス/バレンタインの思い出 | ○○の秋 |
この1年を振り返って | 今年の目標 | 経済 | 災害 |
環境問題 | スポーツ |
三段構成
3分以内のスピーチの構成は「起承転結」ではなく、「三段構成」を用いる。
- 序論・・・挨拶、自己紹介、テーマ
- 本論・・・エピソード
- 結論・・・結び
スピーチの型
ショートスピーチで有用な型には以下のようなものがある。
箇条書き法 | これから述べる項目の数を最初に提示する (○○は大きく分けて2つあります) |
時系列法 | 出来事が起こった順に話す |
PREP法 | 要点→理由→例→要点の順に話す |
クライマックス法 | エピソード→結果の順に話す |
アンチクライマックス法 | 結論→理由(経緯)の順に話す |
どの型にせよ、入念な下準備をしておくことが、あがりの緩和に役立つ。なお、謙遜表現の前置きは不要。
声と姿勢のコツ
あがりやすい人には共通した身体的特徴がある。自分が話している際の姿を撮影して見返し、改善点を探すといい。
- 体がガチガチに硬い
- 姿勢が悪い
- 呼吸が浅くて速い
- 発声が弱い
- 滑舌が悪い
まず、体がガチガチに硬い人は、毎日のストレッチで体をほぐすのが有効。特に、上半身や手首、足首を重点的にほぐすといい。
姿勢の悪さは「壁立ち」で矯正可能。壁にかかと、お尻、肩甲骨、後頭部を当てて立ったときの姿勢を覚え、いつもその姿勢を意識する。
呼吸は普段から「腹式呼吸」ができるように練習を重ねる。
腹式呼吸ができるようになったら、次は発声練習に移る。練習を重ねると、響きやメリハリのある通りやすい声を出せるようになる。
- 口から息を吐き切る
- 鼻から息を吸う
- お腹に力を入れて、少し止める
- 息の続く限り、「あー」と声を出す
- 4の時間を伸ばせるよう、練習を続ける
滑舌を鍛えるには、まず、次のことを意識する。
- 口を正しく開ける
- 脱力して、喉や上半身をリラックスさせる
- 腹式呼吸でお腹から声を出す
- 母音をしっかり発音する
上記のことに気をつけながら、本や外郎売(ういろううり:参考)の朗読を録音し、聞き返しながら精度を高めていく。
本番対策
待ち緊張
本番までの待ち時間が苦手な人は多い。自分の番をじっと待つ自己紹介、いつなにで指名されるかわからない場面、さらには半年先のプレゼンともなれば、相当長い時間を苦痛と共に過ごさなければならなくなる。
そういう人に共通しているのが、待っている間、自分にしか意識が向いておらず、周りが見えていないという点。その場合は、意識を自分の外に集中させることで、緊張を緩和できる。普段から次のような訓練を心がけると、他者へ意識を向けられるようになる。
- 会議では、参加者全員の名前を覚え、話を聞き、メモを取る
- セミナーでは、会場全体を見渡し、前の方に座り、隣の席の人に挨拶する
- 電車に乗ったら、周りをよく観察し、お年寄りや妊婦がいたら席を譲る
聴衆を味方につける
本番当日でもできる緊張対策。
早めに会場入りし、スタッフや聴衆とできるだけ話をするようにする。これを行っておくと、聴衆の態度が好意的なものとなり、結果的に自分のプレッシャーを和らげることにもなる。
生活習慣
緊張には、脳内物質のセロトニンが大きく関係している。セロトニンが不足すると、あがりやすくなったり、うつ病や不眠症にもなりやすくなる。以下の生活習慣を心がけるとセロトニンを増やすことができる。
- 朝起きて日光を浴びる
- ウォーキングやダンスなどの適度なリズム運動をする
- 「トリプトファン」や「ビタミンB6」が含まれる食物(魚や肉類、豆製品、ナッツ類など)を摂取する
- よく噛んで食べる
- 深い呼吸をする
腹痛対策
緊張すると消化機能が下がるので、腹痛や下痢を起こしやすくなる。
前日の食事は軽めにし、当日の朝は牛乳やヨーグルトなどの乳製品とバナナをよく噛んでゆっくりと食べる。また、当日の水分の取り過ぎにも注意する。
場面別の話法
自己紹介
- 長くても1分以内にする(長い自己紹介は迷惑)
- 「挨拶→お辞儀→自己紹介→挨拶」のシンプルな型を覚えておき、必要に応じて内容を増やす
- 苗字と名前の間は空白を取り、はっきりと名乗る。地名や有名人と結びつけてもOK
- 複数要素は盛り込まない。意外性のあるエピソードがベター
- 語先後礼(喋り終えてからお辞儀)を心がける
- 人の話もちゃんとした態度で聞く
面接
- 人の印象は最初の7秒で決まるので、見た目(服装、姿勢、お辞儀、笑顔)には特に気をつける
- 大きな声でハキハキと話す
- わからないことは正直に「申し訳ありません、わかりかねます」と言う
- 緊張しているから落ちるということはないので、あがっていることを気にしない
一対一の商談
- 相手への気遣いと礼儀をわきまえる
- 感謝の気持ちを上手に表す
- HPやブログに掲載されている会社情報、オフィス周辺、社内の様子、天気、出身地をアイスブレイクに利用する
- 話を聞くときは目を見てうなずく
- あいづちのバリエーションはたくさん持っておく
- 相手の話を遮らない
- メモをとる
プレゼン
- 出席者の人数や属性、相互の関係性、ニーズなどは事前に調べておく
- 持ち時間は守る
- 時間配分を考慮して、大まかなストーリーを組み立てる
- 盛り込むポイントを整理し、内容を加えていく
- 会場内の様子やアクセス、プレゼンツールは事前に確認する
- パワーポイントなどで、視覚に訴える資料を作成する
- 第一印象は大事
- ビジュアルハンドを有効利用する
- 情熱を持って喋る
- どうしても緊張したら、水を飲む、歩き回る、ホワイトボードを使う、マイクを持つ手を変えるなど、身体を動かすようにする
会議・会合
- 会場入りは早めに
- 話の流れに沿った発言をする
- 簡潔に話す
- 「はい」「いいえ」だけでなく、一言付け足すと存在感が出る
- 反対意見を言うときはクッション言葉を用いて対立感を和らげる
- 意見がかぶっても「〇〇さんと同じように、私も・・・です」と、「私」を主語にして話す
結婚式・パーティー
- 乾杯の発声は30秒、長くても1分以内に収める
- スピーチでも3分以内には収める
- スピーチは三段構成がおすすめ
- 例文集に頼りすぎない(バレるため)
- タイミングと立場によって内容を変える
- 事前に本番と同じ衣装で喋り、動画を撮ってチェックしておく
- マイクは真ん中くらいを持ち、斜め45度にして、握りこぶし1個分口から離す
初対面
- まずは自分から挨拶する
- シタシキナカ(趣味/旅/仕事/気候/仲間/家族)の話は、共通点を見つけやすい
- 「オウム返し+質問1」で会話を繋げる
- たくさん経験する
異性
- 緊張するのは、相手のことを大切に思っている証拠
- 「シタシキナカ」で共通点を見つける
- オウム返し+質問1
- ミラーリングを取り入れる
- ちょっとした変化に気づいて褒める、気遣う
- 相手の感情に寄り添う
- 別れ際は笑顔で手を振って見送る
電話応対
- 第一印象が大事
- こちらからかけるときは「いまよろしいでしょうか」など、相手の都合を聞いてから話す
- 直接話すときよりもゆっくりはっきり話す
- 用件は簡潔にまとめて話す
- 相手が受話器を置いてから、こちらも静かに受話器を置く
まとめ
あがり症の原因から始まり、最終的には上手に話せるレベルで着地させるという、模範的な一冊だった。8割型の内容は、他の書籍と共通しているが、筆者自身がかつてあがり症だった経験から、「待ち緊張」など、一般的な書籍ではそれほど触れられていないが重要な要素について書かれていたのは良い点である。
本記事では割愛しているが、書籍内では、具体的なフレーズや発声・滑舌練習の例文などが豊富に掲載されているため、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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