2018年6月に初版が発行された本。
著者のニコラス・ブースマン氏は対人関係コンサルタントとして、企業やグループ、個人のビジネスパーソン向けに、コミュニケーションの研修やコンサルティングを行っている。
本書では、「90秒で好かれる」ことを念頭に、それを成し遂げるための会話や仕草、外見など、様々な技術について解説されている。
ページ数はあとがきまで含めて280ページあまり。
豊富な具体例が盛り込まれており、読みやすい構成となっている。
「第一印象」が成功の決め手
私たちが初対面の相手と出会ったとき、相手を気に入れば長所に目が行くようになるし、気に入らなかったら短所に目が行くようになる。
同じ性質でも、見る側の心理によって解釈が変わってくる。
だから、第一印象は何にもまして成功の決め手となる。
初対面で心がける行動として、次の3つがあげられる。
相手の目を見てほほえむ
アイコンタクトは互いのあいだに信頼があることを無意識のうちに伝えてくれるシグナル。
非言語コミュニケーションの中で最も大切な手段のひとつである。
相手に笑顔を送るということは、相手に対して好意的な言葉を伝えているのと同じことであり、信頼関係を築く上で欠かすことができない行動である。
相手と似た行動をとる
例えば、座り方や話し方、首をかしげるようなちょっとした仕草、緊張やリラックスなどの雰囲気を意識的に相手に合わせる。
相手と同じ行動を返すというのは「リンビック・シンクロニー」という、人間が生まれもった性質であり、この性質に働きかけることで、たとえ意識していなくとも、相手は居心地がいいと感じてくれる。
イマジネーションに働きかける
他人に何かをやらせる手段は6つ(法律、カネ、精神的威圧、肉体的威圧、肉体による誘惑、説得)あるが、その中でもっとも効果的な方法が「説得」である。
説得を成功させるには、相手のイマジネーションにはたらきかけて、感情を動かし、「助けたい」と思わせなくてはならない。
相手を説得させるには、次の3つのことを意識する。
- 態度や外見を通して信頼を築き、良い第一印象を与える
- 反論の余地のない論理で主張する
- 相手の感情を引き出す
コミュニケーションを成功させる要素は次の3つ。
本書では頭文字をとって”KFC”と紹介されている。
- Know what you want(自分が望んでいるものは何かを自覚する)
- Find out what you’re getting(実際に得られた成果に注目し、そこから学ぶ)
- Change what you do until you get what you want(望みどおりの成果が得られないときは方法を変えてみる)
相手の心のガードの解除
二人の人間が出会うとき、最初の数秒間は、二人とも無意識のうちに、自分の身の安全を軸に、相手を品定めする。
だから、自らに危険性がないと示すことを念頭に、健康的でエネルギッシュな姿(人が誰かを無意識に高く評価する一番の決め手)を見せ、相手の信頼を勝ち取る必要がある。
初対面で心をつかむ7ステップとして次のことが紹介されている。
- 権威と親しみやすさのバランスを考えた服装を選ぶ
- 相手に近づく前に、自分の抱くイメージに自分の態度を合わせる
- 出会いの前に「すばらしい、すばらしい、すばらしい」とつぶやき、笑顔になる
- 自分の心臓を相手の心臓に向ける姿勢をとる
- 手に危ないものを持っていないと相手にわからせる
- 近づいたらすぐに、「ちょっとお尋ねしてもいいですか?」など、気持ちをなごませる質問をする
- ボディ・ランゲージと声の調子を相手と同調させる
上記のことに気をつけるあまり、犯しがちなミスとして、「パーソナル・スペース」の読み間違いがある。
初対面では相手との距離感に気をつけたい。
非言語コミュニケーション
非言語コミュニケーションでは特に「ABC」を意識したい。
ABCとは
- Attitude(態度)
- Body Language(ボディ・ランゲージ)
- Congruence(自己一致)
の頭文字をとったもの。
与える印象で態度を二分すると次のようになる。
- 好印象を与える態度
温かい、熱心な、自信にあふれた、支えになる、リラックスした、丁重な、好奇心の強い、臨機応変な、安らぎを与える、親切な、愛嬌がある、ゆったり構えた、辛抱強い、歓迎する、陽気な、興味がある - 反感を買う態度
怒った、嫌味を言う、せっかちな、退屈した、見下した、傲慢な、悲観的な、不安そうな、無礼な、疑り深い、執念深い、怯えた、自意識過剰な、敵対的な、きまり悪そうな、冷笑的な
信頼と安心感を示す「オープン・ボディ・ランゲージ」は有効な手段。
以下に一例を示す。
- 腕や脚を組まない
- ゆったりとした姿勢で相手と向き合う
- しっかりとアイコンタクトをとる
- 笑顔でいる
- 背筋を伸ばす
- 身を乗り出す
- 肩の力を抜く
- リラックスした雰囲気でいる
ボディ・ランゲージだけではなく、話すスピード、声の高さやトーン、声量といった声の特徴を同調させることも有効。
また、見た目、声のトーン、言葉が同じメッセージを伝えていることを「自己一致している」といい、これはもっとも説得力のある態度なので意識していきたい。
好感をもたれる”脳の言葉”
まず、大前提として、脳が扱うことができるのは肯定的な情報だけである。
「~するな」とか「~ない」といった打ち消しは、実のところ脳に認識されていない。
だから、誰かにお礼を言われたときは「たいしたことではありません」と返すより「こちらこそ光栄です」と返すほうが有効だし、子供には「部屋を散らかすな」と命じるよりも「部屋を片付けろ」と命じたほうが効果がある。
肯定的な表現で考え、肯定的な言葉を口にすることを習慣づけると良い。
我々の別の特性として、「決定を下し、自分の行動を正当化するために、理由を必要とする」というものがある。
つまり、理由を示せば、相手が自分の説得に応じてくれる可能性が高まるということである。
そして、ハーバード大学の社会心理学者エレン・ランガーの実験によれば、理由が本来理由といえるものではなく、理由のように聞こえるだけの場合でも、良い反応を引き出すには充分であることがわかっている。
相手の感覚に合わせる
人は13歳ぐらいになると、3つの主要感覚(視覚、聴覚、触覚)のうち、どれかひとつが優位に立つようになる。
コミュニケーションをとる際に、相手はどの感覚が優位になっているのかを見極め、それに合わせた表現や仕草をすると効果的。
以下にそれぞれのタイプの特徴を示すので、初対面で相手のタイプを見分けるのに役立てたい。
視覚タイプ
- 高い声、早口、いきなり要点に入るという特徴がある。
- 肺の上部で速い呼吸をする。
- 印象的なファッションを好み、背筋をまっすぐ伸ばしていることが多い。
- 話をする際は、聞き手とアイコンタクトをとりたがる。
- 取り散らかっている状態を嫌う。
- 実際に見えているかのような表現をする。
- 表現や情報処理時にやや上を向く傾向がある。
聴覚タイプ
- 話が上手で説得力があり、なめらかで人を惹きつけるような声で話す。
- 大胆な発想をする人も多い。
- 視覚タイプよりもやや話し方がゆっくりで、肺の下部から安定した呼吸をする。
- 着こなしについて一家言もった人が多い。
- 人の話を聞くとき、耳を相手の方に向け、目の焦点をはずして相手の声に集中する。
- 耳障りな音や声、騒音を嫌う。
- 会話の中に音に関係する言葉が出てきやすい。
- 表現や情報処理時に横を向く傾向がある。
身体感覚タイプ
- 直観的で情にもろく、おおらかな人が多く、慎重で控えめな場合もある。
- 大柄か、たくましい体格の人が多い。
- 実際に触れたり体感することに満足感を覚え、何事にも積極的に関わろうとする。
- ファッションは着心地のよさを重視し、肌触りにこだわり、デザインや流行よりも機能性を優先する。
- 声は低く、話すスピードが遅く、何かと細かいことにこだわる。
- 身体の一部に関する表現や感覚的な表現を好んで用いる。
- 表現や情報処理時にやや下を向く傾向がある。
ちなみに目の動きは相手のタイプだけでなく、今何をしようとしているのかも教えてくれる。
上や右を向いているときは、考えを組み立て、返事を考えている場合が多く、下や左を向いているときは、何かを思い出している場合が多い。
ファッション
自信をもって魅力的な服を着ることは、将来の仕事のオファーや、待ち望んだ昇進、数百万ドルの契約を取りつけられるかどうかといったことに影響を与える。
誰かと接する際に、第一に見られる要素「態度」と第二に見られる要素「外見」は、セットで、無言の信用証明書となる。
「権威」と「親しみやすさ」の割合が、相手の最初の反応を左右するのである。
仕事を意識するのならば、今の仕事ではなく、これからやりたい仕事にふさわしい服装をするべき。
自分のファッションスタイルをみつける3つの方法は次のとおり
- KFC(先述)の質問をする
「権威」と「親しみやすさ」のバランスをどうするか、どんなメッセージを相手に伝えたいか、どの程度の相手に合わせたいか、強調したいパーソナリティの側面、手持ちの服で可能か、などを考える。 - 情報入手
もっとも売れているファッション雑誌(できれば国際版)を参考にスタイル感覚をつかむ。自分が作り上げてきたイメージにぴったり合うアイテムはしっかりチェック。 - 人を味方につける
ファッションにうるさい友人や家族、スタイル感覚が素敵だと思う人からアドバイスをもらう。いなければファッションコンサルタントを雇ってもいいし、百貨店などでイメージを伝えて意見を求めるのも良い。
とはいえ服も良いものを求めると決して安くはなく、例えば高価なオーダーメイドスーツを作る余裕がない人もいるだろう。
そんなときは、アクセサリーや財布、スカーフ、ネクタイ、ブリーフケースや靴といった小道具にお金をかけ、服を実際よりも上等に見せるという方法がある。
実際にコーディネートをしてみたら、次の7つの質問でチェックを行う。
- プロらしく映っているか
- 身だしなみ(髪や爪、体臭)が服にあっているか
- 服の手入れは行き届いているか
- 流行遅れでないか
- 靴は正しいメッセージを伝えているか
- 服装が派手すぎて相手の目を奪っていないか
- 着こなしや全体的なイメージが、パーソナリティと一致しているか
コミュニケーションの回線をひらく
社交の場での人付き合いは、後天的に身につけられるスキル。
これを身につけられれば、人と出会い、ネットワークをつくり、ビジネスの領域を広げるチャンスがやってくる。
誰かとうまく挨拶を交わすための5つのステップ
- オープンにする
相手が無意識に起こす防御反応を解除するため、両手が相手から見えるようにし、自分の心臓を相手に向けて、胸を覆っているもの(手、腕、道具)がないようにする。 - アイコンタクトをとる
先手でとる。 - 笑顔を見せる
これも先手で見せる。 - 言葉を交わす
気持ちの良いトーンで挨拶を交わし、こちらから名乗って主導権を握る。握手をするなら名乗り合っているあいだに交わすといい。 - 同調する
相手のボディ・ランゲージと声の特徴に同調する。複数人いる場合には、順番に一人ひとりと向き合う。
世間話
世間話は特段意味のない会話だが、それがあるだけで、知らない者同士が対立せずに安全な形で親しくなれるので、積極的にしていきたい。
題材は、天気やどこから通勤しているのか、スポーツや近所で起こった出来事、変わった服やアクセサリーを褒めるなどで始め、少し親しくなってきたら、暇な時間にしていること、有名人の最近のスキャンダルやベストセラーになった本、最近の映画を話題にしてもいい。
題材に悩む必要はなく、軽いものであれば何でもいい。
共通の知人がいるなら話題にしてもいいし、そういった人がいないか探すのもいい。
ただし、政治や性に関する話題は避けるのが無難である。
オープン・フィールド
誰かを紹介してくれる人がいたり、うちとけた雰囲気のなかで交流できる環境を「クローズド・フィールド」と呼び、反対にそうではない環境(コンベンションや商品説明会、ホテルのラウンジ、通勤電車など)をオープン・フィールドと呼ぶ。
クローズド・フィールドでは交流できていたのに、オープン・フィールドとなるとひるんでしまう人は多い。
オープン・フィールドでつながるためのガイドラインは以下のとおり
- 3秒ルール
話しかけたい相手を見かけたら3秒で動き出す。 - とにかく話しかける
街の特徴や天気などのさりげない話題→オープン・クエスチョン(5W1Hで始まる質問)とつなげる。このときはお互いのことに直接関わらない話題を選ぶ。 - 信頼を築く
自分の仕事の内容や出身校、コミュニティに関係することについて話し、イベントと自分のつながりを知ってもらう。 - 共通点を探す
「私もです」と言えるチャンスを探す。ただし正直に。 - 評価
20秒も話せば相手が話に興味をもっているかは判断できる。興味をもっていないようなら、失礼にならないように会話をやめる。 - 同調
相手とつながりができたと感じたら、相手の姿勢や声の特徴をさりげなく真似て、つながりを強くする。 - 約束
会話が2分以上続いたら、連絡先を尋ねることもできる。尋ねる際は、平静さを保ったまま相手の目を見つめる。もし断られたら「お話しできて楽しかったです」と丁寧に言う。
質問と会話の技術
グラウンドルール
人と上手につながりをつくるためのグラウンドルールは、相手に喋らせる、焦点をはずさない、相手をよく観察する、相手の話をしっかり聴く、フィードバックを与えさらに相手の話を促す、話すよりもきくことを心がける、といったこと。
話がはずむようなオープン・クエスチョンを投げかけたり、相手のイマジネーションを刺激するような質問(○○について教えてください)で会話を盛り上げる。
おしゃべりという技術
出会って数分が経ち、会話に少しはずみがついたと感じる瞬間が、少し踏み込んだ会話(「おしゃべり」と称している)に移行するタイミング。
おしゃべりの達人は5W1Hを使って、感情のこもった反応を相手から引き出す。
雰囲気を和らげる言葉やうまくぼかした言葉を使って、相手が話に乗ってくるようにうまく仕向け(ex. 「この仕事、どうすればうまくいくのかわかります?」「あなたの第一印象はどうでした?」)
相手の関心を惹く
人とうまく心が通い合うかどうかは、相手の心の状態を導き、整える能力にかかっている。
行動プロセス
説得のうまい人は、相手を無関心な状態からまず好奇心をもった状態へ、次に心をひらいた状態へと導き、最後に相手を熱中させるという方法(リンキング・ステイト)をとっている。
相手を導くために、最初にめざす心の状態(好奇心をもった状態)へまず自分自身が移行し、それを相手に伝染させる(この際に自己一致ができていることが大切)
それがうまくいったら、次の状態へと移行し、順に相手を導いていく。
また、会話を始める際は、明確な事実(最初から事実だとわかっている質問や発言)で始めると、相手を話に引き込み、即座に同意を得られるというダブルの効果がある。
クローズド・クエスチョンのテクニック
クローズド・クエスチョン(イエス・ノーで答えられる質問)で、自分が望む答えに相手を導きやすいテクニックがある。
これは、人間の2つの本能的な要素、「一致」と「同調」を利用している。
方法は簡単で、質問を投げかける際、「イエス」を引き出したいならうなずき、「ノー」を引き出したいなら首を振るということをほとんど気づかれないレベルで行う。
意識しなくとも、本能的な要素によって、質問者が望む答えに誘導される可能性が高くなる。
まとめ
相手と打ち解ける方法について、具体的な方法がいくつも解説された実用的な一冊だった。
本書を知るきっかけとなった『コールド・リーディング -人の心を一瞬でつかむ技術-』と併せておすすめしたい。
コメント