2024年4月に初版が発行された本。
著者の高橋浩一氏は、TORiX株式会社代表取締役。東京大学経済学部卒業後、外資系コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制をつくる。2011年にTORiX株式会社を設立し、これまでに4万人以上の営業強化支援に携わってきた。
本書は、著者のコンペ8年間無敗の経験や、2万人を対象とした調査結果をもとに、「ムダな努力」を積み重ねる「ガンバリズム」を営業活動から排除し、急所を押さえたアプローチをするための方法について解説されたものである。
ページ数はあとがき等まで含めて430ページほど。ケースごとに具体的なアプローチ方法まで詳細に解説されたボリューム感のある内容となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
お客様の仮面の裏にある本音を把握する
営業活動において重要なのは仮面(建前)の裏にある素顔(本音)を捉えて、それに対する提案を行うことである。
仮面を正直に信じて、そこに工数を割く営業活動は報われにくい。これが「ムダな努力」
仮面を外してもらうための武器を身につけることが、営業効率を上げるための近道。
営業と一定の距離を置いたリアクションをすることにより、負担やリスクから一時的にでも解放されるため、お客様は「購買者の仮面」をつける。しかし、仮面をつけたセリフは真のニーズや正確な状況を表しているわけではないため、それを真に受けて提案を行っても、努力は実を結ばない。
お客様がつける主な仮面は以下のとおり。
仮面の種類 | 表面的なセリフ | ローパフォーマーの行動 | 本音 | ハイパフォーマーの行動 |
はぐらかしの仮面 | 予算は決まっていなくて | 聞いてはいけないと思い込み、質問を控える | 教えることで不利益があったらいやだ | 教えたほうが得だと示して質問する |
忙しさの仮面 | 今は忙しいので、資料だけ送ってください | ただ資料を送って待つ(返事は来ない) | レベルの低い営業に時間を使いたくない | 時間を使う価値があるという根拠を示す |
いきなりの仮面 | すぐに見積もりを送ってください | ただ見積もりを送るだけ(当て馬にされる) | 話が早い営業と話を進めたい | スピード勝負で高速ラリーに持ち込む |
とにかく安くの仮面 | もっと安くなりませんか | 値下げする | どう考えて買ったらよいかわからない | 価格以外の判断基準を作る |
検討しますの仮面 | もう少し社内で検討してみます | ただ待つ | 一時しのぎの現実逃避をしたい | 助け舟としての小さな一歩を提示する |
以下、それぞれの仮面について詳細に確認する。
はぐらかしの仮面
はぐらかす要素と理由
特に意思決定に関わるデリケートな情報(BANTCH=バントチャンネル)について尋ねられた際につけがち。
- Budget:予算
- Authority:決裁者/キーパーソン
- Needs:ニーズの詳細
- Timeframe:検討スケジュール
- Competitor:競合
- Human Resources:社内の組織体制
はぐらかしの仮面について、ローパフォーマーあるいはそのマネージャーは「関係構築ができていないからだ」と考え(指導して)、「こんなことを聞いたら失礼なのでは」という考えに至り、結果として聞くべきことを質問せずにズレた提案をしてしまう。
しかし、実際のところ、はぐらかしの仮面をつけられるのは関係構築ができていないからではない。実際のところ、はぐらかす理由上位は「デメリットやリスクを心配しているから」「特に深い理由はないがなんとなく警戒しているから」「あたりさわりのない答えを即座に返したところ、それ以上つっこんでこなかったから」
枕詞
はぐらかしの仮面を外すには、お客様の不安をやわらげる「枕詞」を活用すると良い。
- お客様に「メリット」を作る
「御社のビジョン実現のためにお伺いするのですが、今回の導入によってどのような変化を期待されていますか?」
「フィット感のある見積もりを作るためにお伺いしたいのですが、ご予算はどの程度をお考えですか?」
「当社ならではの提案でお役に立ちたいのでお聞きしますが、他にはどちらの会社様を検討されていますか?」 - お客様に「コストやリスク」を発生させない
「いただいたお時間を無駄にしないようお聞きしたいのですが、今回のプロジェクトで最も優先度の高い課題は何ですか?」
「間違いがあってはいけないのでお聞きしますが、御社の組織体制や担当の役割分担について教えていただけますか?」
「後で手戻りが起こらないようにあえて伺うのですが、導入に当たってのご懸念事項は何ですか?」 - お客様の「コスト」を小さくする
「最初に一つだけよろしいですか?このプロジェクトの導入スケジュールとして、どのくらいお急ぎかを教えていただけるとありがたいのですが」
「お忙しいと思いますので一つだけよろしいですか?現在ご検討中のソリューションについて、何か特別な要件がございましたら教えてください」
「最後に一つだけ、今回、意思決定の判断基準として最も優先順位が高いものを教えていただけませんか?」 - お客様の「リスク」を小さくする
「個人的なご意見で構いませんので、他社様との比較で弊社の製品についてどうお感じか教えていただけますか?」
「可能な範囲で構いませんので、意思決定者の取締役が特に重視される条件や要素を教えていただけますか?」
「あくまでも暫定で構いませんので、導入スケジュールについて教えていただけますか?」 - そもそもの前提を変える
「もし仮に、予算の枠という問題がクリアされたら、いつ頃のご導入になりそうですか?」
「もし仮に、わがままを自由に言えるとしたら、当社の提案に対してどんな要素を付け加えてほしいですか?」
「もし仮に、他社様のサービスを今ご利用中でなかったら、どのような点で当社のサービスが魅力的だと感じますか?」
枕詞を使いこなすことで、お客様が話す入口のハードルは下がる。とはいえ、それでもはぐらかして伝える担当者は3割以上いて、しかもそのほとんどが、ニーズや課題をわかっていなくてはぐらかしているのではなく、わかったうえではぐらかしている。
深堀り質問
上記の対策は、会話の中で気になる発言が出てきたら、その発言を深堀りして、真意を聞き出すこと。具体的には次の4つの「深堀り質問」を使う。
- 「と、おっしゃいますと?」(内容を明確にする)
- 「具体的には?」(詳細を引き出す)
- 「なぜでしょうか?」(背景を引き出す)
- 「他にはありますか?」(課題の網羅感を確認し、全体像を捉える)
特定質問
「枕詞」「深堀り質問」を駆使してもはぐらかされる場合には、「特定質問」を使う。「特定質問」は「条件付きオープンクエスチョン」と「選択肢付きクローズドクエスチョン」に分類される。どちらも、考える観点を絞り込んだり、選択肢をあらかじめ提示したりすることで、お客様が考える負担を軽減し、質問に答えやすくする。
BANTCH | 条件付きオープンクエスチョン | 選択肢付きクローズドクエスチョン |
Budget | この金額を超えたら対象外というのは、どのくらいのラインですか? | ご予算は、100万円と300万円とではどちらに近いですか? |
Authority | この方の意見を聞く前に決められないという人物は、どなたですか? | 今回は、●●様がご判断されるのか、他の方と相談されるのではどちらですか? |
Needs | 特にここ1ヶ月くらい話題にのぼっている課題は何ですか? | より重要度が高い課題は業務の整理とコスト削減どちらですか? |
Timeframe | お忙しくされている他の業務が落ち着かれるのは、どのくらいの時期ですか? | 着手されるとしたら、1ヶ月後と3ヶ月後とでは、どちらの方が理想的ですか? |
Competitor | 社内で他の方が気にされているベンダーさんは、どちらの会社ですか? | 今回、5:5か7:3ではどちらに近いですか? |
Human Resouces | 実際に運用される際に影響力がいちばん大きい方はどなたですか? | 運用上のキーパーソンは●●様と■■様のどちらですか? |
核心質問
BANTCHの中でもNeedsははぐらかしが特に出やすい要素。そこで、防御反応が出にくいように、あえて逆の角度から聞く、「核心質問」を使う。
真の課題を理解する | 「一見すると困っていないように見えるのですが・・・」(本当に困っていることは何なのでしょうか) |
真の期待を理解する | 「他にも選択肢はあるはずなのに・・・」(なぜ、当社に対して時間を割いてくださっているのでしょうか) |
真の壁を理解する | 「これまでも、課題の解決に向けて手を打ってこられていると思うのですが・・・」(なぜ、解決されないままに残っているのでしょうか) |
課題解決質問
「核心質問」は売り込み臭を消すことが目的のひとつだが、同様に、次の4つからなる「課題解決質問」も売り込み臭を消すのに適している。
- 現状把握
- 悩みを深堀り
- 気づきを促す
- 提案につなぐ
課題解決質問を行う際には、フェーズごとに次の点に注意する。
- 序盤:「不本意な感情」に注目する
- 中盤:「それを放っておいても大丈夫か」を問う
- 終盤:「お客様自身の意思」で選んでもらう
忙しさの仮面
初回アポ取り
お客様は普段「ガッカリ営業」に会う機会が多い。そのため、「レベルの低い営業に時間を使いたくない」という意識が働き、「忙しさの仮面」をつけることになる。この際に必要なのは「そこを何とか・・・」という拝み倒しでも、「では、いつならお時間空きますか?」という質問でもない。
「忙しさの仮面」を外してもらうために、特に訴求すべきは、「課題解決」「費用対効果」
「課題解決」においては、お客様に強く紐づけた表現を意識する。
「費用対効果」は、できるだけ具体的に数字や導入企業の実績を用いて説明することが望ましい。「都合のいい事例だけ示しているのでは」と思われないように、費用対効果が高く出た事例の背後にある根拠も合わせて説明をする。
事前準備
アポイントを取得しても、商談開始早々に「時間がないので手短に」と言われることも多い。本音は初回アポ取りの際と同じく「レベルの低い営業に時間を使いたくない」である。
よって、綿密に事前準備を行い、限られた時間の中でアタリの営業であることを示す必要がある。
お客様が「この営業は事前準備してきている」と考える要素は主に次の3つ。
- 質問や要望に対して、その場でスピーディーな対応がされたとき
- 前回の商談で伝えたことを漏らさず盛り込み、資料が作り込まれていたとき
- 商談の進行および時間配分がスムーズで、何のストレスも感じなかったとき
つまり、「レスポンス」と「段取り」が重要。お客様のHPやSNS、記事を読むだけでは不十分で、それに加えて、「どんな質問や要望が来そうか」「それにどう答えるか」を事前にシミュレーションしておくことが必要。
当日の段取りは、4つのフェーズに分けて考える。前半は拡散、後半は収束を意識。例えば60分の商談の場合、時間配分のイメージは次のとおり。
イントロダクション | 深堀り(意見交換) | 中間まとめ+個別議論 | ネクストステップ確認 |
5分 | 25分 | 20分 | 10分 |
商品紹介
商品紹介は、一方的な説明ではなく、お客様の質問に対する回答も含めた会話のキャッチボールで行う。「お客様の文脈に合わせて伝えられるか」も重要。
次の3つのサブメッセージを入れて商品紹介を組み立てる。
- メッセージ1:どのようにしてお客様の課題を解決するか
こんなステップで~
こんな変化が~
なぜかと言うと~ - メッセージ2:お客様と共通点のある他社での導入事例
A社様では~
B社様では~
C社様では~ - メッセージ3:類似商品との違い
共通点は~
異なる点は~
御社へのインパクトは~
レスポンスとお役立ち情報
こまめな連絡を心がけるのは悪いことではないが、雑談、傾聴、頻繁な訪問といった「御用聞き営業」ではお客様の検討は進まない。ハイパフォーマーがローパフォーマーに差をつける要素として、「レスポンスの早さ」と「お役立ち情報の提供」がある。
「レスポンスの早さ」は仕事を効率化し、早め早めにメール返信する習慣をつけることで達成可能。
「お役立ち情報の提供」は、適切なトレーニング、効果的な営業ツールの活用、製品知識の共有などによって、チーム全体で対応する。
提供の順番は「売り込み感のない有益情報」→「商品・サービスに関する情報」とするのが良い。
なお、「売り込み感のない有益情報」とは、客観的なデータの入った調査レポートのこと。
いきなりの仮面
いきなりの理由と対応
「いきなりの仮面」の原因は、「競合他社に遅れをとっているから」である可能性が高い。例えば競合は初期段階から一緒に議論を行い、上司に対するプレゼンを行い、その後で見積もりを提示し、契約となる。見積もり提示段階で、参考としてその他の会社の見積もりが必要となるため、「いきなりですが今週中に見積もりをください」となるわけである。
対応としては2パターン。
- 早期に見切りをつける
- 受注を目指すために最善を尽くす
前者については、競合他社に大きくリードされていて、現実的に勝ち目がない惨敗案件の際に選択する。ただし、長期的に見て取引したい相手なのであれば、スピード感ある対応で印象付けておく手もある。
高速ラリー
いきなりの仮面をつけた要求に対して、提案内容で挑もうとするのは悪手と言える。お客様が本当に内容を比較したいと思っているなら、コンペを行うはずだからである。
このパターンでは、お客様は「話が早くて頼りになる営業にお願いしたい」と考えている。そこで、迅速な対応で他社と差別化を図り、お客様の評価を上げてから提案内容の勝負に持ち込む。つまり、初期対応では「高速ラリー」が大切。「あれっ、もしかしてこっちの会社(自社)のほうが良いのかもしれない」と感じていただくのが第一歩である。
もちろん「高速ラリー」は単にメールを早く返すことだけを指しているのではなく、お客様の課題を解決することも含む。目安は「返信1日、解決2日」
ちなみに、1日未満どころか、1時間未満のレスポンスを期待するお客様も21.2%もいる。
社歴が浅い社員などでも高速での課題解決をできるようにするため、社内に「お役立ち情報集」を用意したり、気軽に質問できるような「ヘルプ」専用チャットを設けておくのがおすすめ。
5営業日以内に仮提案を出す
お客様の80%以上はヒアリングから5営業日以内で最初の提案が出てくることを求めている。もちろん本提案がこの営業日以内に出せれば問題ないが、現実的には難しい。そこで、5営業日以内に「仮提案」を行うようにする。
仮提案に含めるべき要素は次の3つ。
要素 | 内容 |
課題への対応 |
|
費用感 |
|
今後の進め方 |
|
10分電話商談
「いきなりの仮面」をつけているお客様は電話を好まない傾向が強い。一方で、仮面が外れると(=話が早い営業であると認めてもらえると)電話は時間短縮の便利な手段になりうる。
「10分電話商談」とは、アポイントのようにあらかじめ時間を決めて、音声またはビデオ通話で10分話す手法のこと。この10分で1回の商談のような価値を生み出すことを目指す。
10分電話商談では以下の4サイクルを繰り返して話を進める。
- 電話やオンラインアポの設定
- 課題解決質問
- 抜け漏れや優先順位の確認
- お役立ちメール(直後に送ることでスピード感を印象付ける)
ラリーの往復
実は『最初の提案で完結するのが望ましい」と思っているお客様は全体の11.3%しかいない。一方で、「2回目」と「3~4回目」を合計すると79.9%に達する。つまり、お客様は話が早い営業は好きだが、一発で提案を判断しようとは考えない場合が多い。
提案を繰り返す中でお客様の頭の中を整理することが重要。
お客様 | 営業 |
①ふわっとしたニーズ | – |
– | ②課題の整理+仮提案 |
③仮提案へのリアクション | – |
– | ④修正提案 |
⑤ニーズの明確化 | – |
– | ⑥明確なニーズに応えた最終提案 |
とにかく安くの仮面
安さを求める理由
「とにかく安くの仮面」をお客様がつけるのは、それ以外の判断基準がよくわかっていないから。よく具体的には、次のような場合に「とにかく安くの仮面」が登場する。
- 何を基準に判断すべきか十分に洗い出されていない
- 判断基準について、どのように考えるべきかが具体化されていない
- 複数の判断基準があり、それらの優先順位がはっきりしていない
この場合に必要なのは、お客様の言葉を真に受けて値下げに奔走することではなく、価格以外の判断基準を作ること。
要件整理
担当者レベルでまず行うべきなのが「課題の整理」
その後、「解決策のマッチ」について合意が得られたら、「費用対効果」を示す。
この流れで鍵を握るのが「要件整理」
次の3つのポイントを押さえる。
- 網羅感の確認
検討すべき項目に抜け漏れがないか、網羅的に確認する - 具体化
各検討項目について、それぞれどのような基準をクリアしていたらOKなのかを明確にし、それに対する自社の対応を示すことにより、お客様の理想がどう実現されるのか答える。 - 優先順位の確認
すべての項目について満点回答をすることが難しい場合、優先度が高い項目が何なのか整理し、順位付けを行う。
価格以外の判断基準が明確になると、「とにかく安くの仮面」は自然と外れる。
費用対効果
担当者と比べて、決裁者は費用対効果を重視する傾向が強い(単なる安さではないので注意)。
ここで重要なのは、「費用対効果=売上アップ/コストダウン」というわけではない点。もちろん、これを重視する人が一番多いのは事実だが、それに次ぐ要素は以下。
- 会社全体が成長する将来イメージ
- 自社のミッション、ビジョンやパーパスの実現
- 会社メンバーの心理的負担やストレスが軽減されるか
よって、売上アップやコストダウンに加え、上記の要素を示すことで費用対効果を訴求する。
失注/受注が決定した瞬間のヒアリング
費用対効果に納得いかなかったとしても、お客様は「他社の方が安かった」と答える方が楽なので、失注理由を尋ねても、本音を言ってもらえないケースが多い。
そこでおすすめなのが「案件が決定した瞬間(場面)」を質問する方法。枕詞を使って、「途中まで迷われていたと思うのですが、当社が落ちてしまった瞬間はいつだったのでしょうか」と尋ねる。
場面 | 要因 | 追加ヒアリング |
自社プレゼン直後 | 自社プレゼン内容 | 具体的にどんなメッセージが影響を与えたのか |
他社プレゼン直後 | 他社プレゼン内容 | 自社の提案にはなくて他社の提案にあったものは何か |
上司の一声で | 上司の評価ポイント | どんなセリフ(会社の評価基準)だったのか |
会議で議論して | 関係者の意見 | 会議にどなたが参加していたのか |
資料をじっくり見て | 資料の記載内容 | 特に何ページ目か |
上記は失注時のヒアリングとして記載したが、接戦商談における受注時も同様のヒアリングをすると、自社の強みの活かし方が見えてくる。
予算額+10%
価格以外の価値基準があるとしても、「この金額を超えるとまず買わない」というラインは存在する。過半数のお客様で「買わない」となってしまうのが、「予算額+10%」
つまり、予算額から10%以上高い価格で見積もりを出すときは注意すべき。
ただし、「決裁者との調整が面倒なので自分の権限の範囲内の金額を伝える」といったケースもある。この場合は、「課題解決」た「費用対効果」の提示によって、お客様の期待値を超えた行動を取り、その後で条件付きオープンクエスチョン(例:この金額を超えたらさすがに検討対象外という金額があると思いますが、いくらでしょうか?)を使って予算額の上限を特定する。
テストクロージング
商談が進み、いざ見積もりを提示してみたら購買に至らなかったというケースもある。これはお客様が感じる「価値」が値段に対して十分に高まっていなかったため。本番見積もり提示でこの展開になってしまうのを避けるために、「テストクロージング」を行う。
方法はシンプル。「いったん価格のことは置いておいて、現時点では導入したいと思われますか?」と聞いてみれば良い。返答がイエスであれば、そのまま進行すればいいが、「価格を見ないと・・・」と言われた場合、見積もり提示前に今一度、価値を訴求する必要がある。
検討しますの仮面
待ってはいけない
お客様が「検討します」というのは、不満に対して、商談の場で改善要望を出すのは面倒だから。しかしながら、その後自発的に要望などを伝えてくれるケースはごくわずか。
社内のどんな人物に意見を求めてようとしているのか、あるいはどの競合から提案を受ける予定があるのかなど、詳細な情報を教えてもらえる関係性なら別だが、そうではないのにただ待ち続けても案件は進まない。
お客様の「検討しますの仮面」を外すには、次の3つのいずれかまたは複数が必要となる。
- 潜在的な不満を解消すること
- タイミングを合わせること
- 価値の根拠を示すこと
商談終盤の10ヶ条
提案が終わった直後に「何か気になる点はありませんか」と聞く営業は多いが、これは危険。いきなりそのような質問をされると「なんだろう・・・ちょっと考えようかな」→「検討してご回答します」という反応を招きやすい。
お客様の頭の中を整理した上で気になる点を質問するために使えるのが「商談終盤の10ヶ条」
- 今ここに時間を使っている理由
まずはなぜ今回の検討に時間を使っているのか思い出してもらう - 提案への感触
担当者の個人的な感触を聞く - 進め方の意向
担当者個人がこの後どのように進めていきたいか聞く。この段階で乗り気でないなら、1に立ち戻って購買意欲を高める必要がある - BANTCH情報
Budget/Authority/Needs/Timeframe/Competitor/Human Resourcesについて順次確認 - 社内における次のアクション
社内の検討アクションがいつ設定されているか尋ねる - 検討上のネックや判断基準
この段階にきてから「気になっている点」を伺う - ネクストステップ
お客様と自社の間でのネクストステップ(両者でどう進めるか)を確認する - 当社へのリクエスト
7まで進めてから聞くことによって、具体的な宿題をもらいやすい - こちらの熱意
お客様が提案を良いと思っているのに決断できない場合には熱意が後押しとなる(8までをクリアしている前提) - 直後のコミュニケーション許可
「社内のメンバーと話してみないと・・・」というケースに応じて、話した直後に「10分電話商談」を行う許可をいただく
今ここに時間を使っている理由 | あらためての確認になりますが、今回こうやってわざわざお時間を頂いているのは・・・ |
提案への感触 | お話を聞かれてみて、実際、いかがでしたか?→枕詞&特定質問&深堀り |
進め方の意向 | ●●様としては、この後、どう進めていかれたいですか? |
BANTCH情報 | いくつか確認させていただきたいのですが・・・→枕詞&特定質問&深堀り |
社内における次のアクション | 今日明日、あるいは今週に・・・ |
検討上のネックや判断基準 | 少し踏み込んだ質問になってしまうのですが・・・→枕詞&特定質問&深堀り |
ネクストステップ | そうすると、次のステップとしては・・・→特定質問 |
当社へのリクエスト | 当社に求められることとしては・・・ |
こちらの熱意 | 本日、こうしてお話しさせていただいて、最後にお伝えしたいのは・・・ |
直後のコミュニケーション許可 | ちなみに、皆様でお話しされた後、10分ほどお話しさせていただくことは可能ですか? |
情報提供者→協力者→キーパーソン
お客様が商談に複数人で参加をしている場合、次のフレームワークに従って整理する。
役割 | 定義 |
窓口担当者 | 実務的なやりとりを行う |
キーパーソン | 関係者の意見を取りまとめ、発注先を実際に判断・決定したうえで、形式的な意思決定者への承認を得る |
形式的な意思決定者 | 手続き上の最終決裁を行う(キーパーソンと同一の場合もある) |
情報提供者 | 課題や組織体制、提案の検討状況など、社内の情報を営業へ親切に教えてくれる |
協力者 | 意思決定者に対して効果的な意見を提言したり、導入後の進行を担ったりするうえで、当社に好印象を持ち、当社を推進してくれる |
反対者 | 当社に好印象を持たず、当社に対して反対の立場(内製・保留・競合)を取る |
多忙なことが多いキーパーソンにはなかなかたどり着けないことも多い。その場合は情報提供者から組織の内部情報を教えていただき、作戦を立ててから臨む。情報提供者から協力者を聞き出し、協力者にアプローチしていくという流れが望ましい。
反対者への対応
反対者がいる場合には、いきなり説得にかかると、感情的な反発を招くことがある。
反対者が対案を持たない場合、それは「(反対者が)自分自身が大切にされていない」と感じていることからの抵抗であるケースがほとんど。よって、反対者を尊重し、感情を丁寧に汲み取る。
反対者が対案を持っている場合にも、まずはなぜ対案を推しているのか、じっくり話を聞く。その上で「実は当社の提案でも、●●様のお考えには沿っていると思うんです。ただし、現状ではまだ、●●様にとって不十分と感じられる点があるかもしれません。そこで、当社の案に対してご要望をいただくことは可能でしょうか?」と、宿題をもらいに行く。その後は高速ラリーで逆転を狙う。
決裁者の支援
実は、決裁者こそ決めきれずに悩むというケースも多い。決裁者の支援のポイントは以下のとおり。
メッセージ | 必要な要素 |
【課題の把握】 貴社の課題として、このようなことにお悩みではありませんか? |
【解像度の高い理解】
|
【解決策の希少性】 当社のサービスは、貴社の課題を解決できる希少な選択肢です |
【営業としての優秀さ】
|
【費用対効果】 買っていただく費用を上回るメリットを生み出せます |
【判断基準への+α】
|
組織規模が大きくなると、そもそも決裁者に会えないという場合も多い。その場合、担当者に「決裁者の口癖(日常的に言っていること)」を聞くのがおすすめ。可能であれば、「決裁者が組織全体に送ったメール」や「決裁者が全体MTGで発信した資料」を見せてもらうようにお願いする。
本当の判断基準は「決裁者のイライラ」に眠っている。そこを捉えて提案するのが大切。
お客様のタイプ
お客様のタイプは「論理」「感情」「政治」の3つに分けられる。
論理 | 感情 | 政治 | |
定義 | 理屈重視で、自分の意見や主張が強い | 感覚重視で、自分の意見や主張が強い | 人がどう思っているかを重視、自分の意見や主張は弱い |
特徴 |
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動く理由 | 正しいかどうか
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好きかどうか
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安全かどうか
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控えるべき行動 |
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動いてもらうためのポイント |
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反応なしへの最終手段
まず、リマインドメールは、提案に関係する「お役立ち情報」を含めたり、相手の名前、日付、会話に出てきたキーワードを件名に含めたりするなど、カスタマイズすることが必要。お役立ち情報は、会社の規模が大きくなるほど「導入実績や実例」「データの入った調査レポート」が喜ばれる。
会話に出てきたキーワードを相手が忘れているであろうくらいスルーされ続けた場合には、一見すると提案に関係ない「お役立ち情報」を送ってみるのも手。
それでも返事が来ないときは、「外的/会社の要因によって、急激な変化が起こったのですよね」「お客様がそれによって忙しくなっているのですよね」「検討ステータスもおそらく以前とは前提が変わっているのでしょう」という内容を含んだメールを送る。それを読んでいただいた後のタイミングで電話し、以下を伝える。
- 私は個人的に、●●様とお仕事したいです(感情)
- それに、この提案は御社に~のメリットがあります(論理)
- そこで、●●様にご負担やご迷惑がかからないよう配慮しながら、社内文脈上ご無理のない形で、プランを練り直します(政治)
しかしながら、それでも電話に出てもらえないケースも存在する。そういう場合には、上司に依頼し「戦犯より、当社の●●がご負担をかけてしまっており、誠に恐縮です」というメールをお客様に送ってもらうのがおすすめ。お客様も「さすがに上司のスルーはまずい」と思って反応が来ることがある。
まとめ
ガンバリズムを徹底的に排除し、論理的に営業活動を進めるためのノウハウが丁寧に解説された1冊だった。
根性論で営業を進めるのは時代遅れという考えは浸透しつつあるし、そういった類の書籍も多いが、取るべき行動や発言まで具体的に記載されているという点で非常に役に立つ内容である。特に新規営業を担当している営業担当者にはぜひおすすめしたい。
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