2019年7月に初版が発行された本。
著者のクリスティーン・ポラス氏はジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授で、グーグル、ピクサー、国際連合、世界銀行、国際通貨基金、米労働省・財務省・司法省・国家安全保障局などで講演やコンサルティング活動を行っている。
本書は、筆者が20年間携わってきた知識や経験、研究をもとに、読者やその周囲の人々の礼節を高め、各々が属するチームや会社、コミュニティなどを良くするために執筆されたものである。
ページ数はあとがき等まで含めて310ページあまり。
少し長めの文量ではあるが、専門的な用語はほとんど無く、具体例も豊富に盛り込まれている。
無礼な言動について
無礼な言動とは
そもそも無礼な言動とはどのようなものなのか。
具体例として、上司の無礼な言動をあげると、次のようなものがある。
- 部下を人前であざける、軽く扱う。
- 部下の仕事ぶりを常に過小評価し、自分の組織の中での地位は低いと思い込ませる。
- 部下を心が傷つくほどひどくからかう。
- 成功したときの手柄は自分のものにするが、何か問題が生じた時には他人のせいにする。
ただし、このようなことはあくまで一例に過ぎない。
重要なのは、その言動が本当に相手に対する尊敬や配慮を欠くものだったかどうかではなく、された方がどう感じたか、尊敬や配慮を欠く扱いを受けた、と相手が感じるかどうかである。
礼節が悪化し続けている理由
筆者の調査によれば、無礼な言動を取る人は、過去20年の間に世界中で増加した。
その主な理由は次の4つ。
- グローバリゼーションによる異文化同士の衝突
- 自己愛の強さに関する世代間ギャップ
- 職場環境とそこでの人間関係の変化
- 発達したテクノロジーがもたらす、コミュニケーションに際しての誤解や欠落
いずれにせよ、根本的な原因は「自己認識の欠如」であると考えられる。
現代の私たちが、自分にばかり目を向け、他人にはあまり目を向けていないことが大きな要因となっている。
無礼な人がもたらす5つのコスト
無礼な人は単に周りの気分を害するだけではない。
その言動は見えにくい形で、しかし確実に組織に無駄なコストを支払わせている。
無礼な人がもたらすコストは大きく分けると次の5つ。
- 同僚にストレスを与え、健康を害する
- 周囲の労働意欲の低下、病欠、離職等により損害をもたらす
- 周りの人の思考能力や集中力が低下し、生産性が低下する
- 周りの人の認知能力を下げる
- 周りの人をも攻撃的にしてしまう
特に問題なのは、周りの人をも攻撃的に(無礼な人間に)してしまうという点で、この要素により、たった1人の人間から無礼さが次々と伝搬し、最終的には組織全体を堕落させてしまうという事態は十分に起こりうる。
礼節ある言動について
礼節ある言動とは
これまでの部分で無礼な言動について焦点を当ててきたが、逆に礼節ある言動とは何なのか。
礼節ある人とみなされるにはどうすればいいのか。
よくある勘違いとしては「無礼でさえなければ、礼儀正しい、礼節を守っている」という考えがある。
しかしこれは間違いで、無礼でないというだけでは単に中立的なふるまいをしているに過ぎない。
礼節ある人とみなされるには、無礼でないことに加え、品位を感じさせる丁寧で親切な態度で、周囲の人たちの気分を良くしなくてはいけない。
そして相手を丁重に扱う言動は、必ず心から相手を尊重する気持ちがないとうまくはいかない。
礼節がもたらす5つのメリット
礼節ある人や企業が得られるメリットは次の5つ。
- 仕事が得やすい
- 幅広い人脈が築ける
- 出世の可能性が高まる
- チームが高い業績をあげる
- 従業員が安心感を持って働ける
もちろん、礼節がなければ出世が無理かというと、そうではない。
成功者の中には態度が無礼な人もいるだろう。
しかしながら、そういった人たちは無礼であるという不利な条件を跳ね除けて成功する実力や運があっただけで、無礼でなければもっと楽に成功できたかもしれない。
少なくとも、礼節があることにより不利になることはない。
自らの礼節を高める
自らの礼節をチェックする
礼節を高めるのであれば、まずは自分の現在の礼節がどの程度なのかを知り、改善点を把握する必要がある。
こちらに筆者が作った礼節チェックテストがあるので、取り組み、フィードバックを読むのが、ひとつの手だが、本書ではそれ以外に7つの方法を紹介している。
- 他人からフィードバックをもらう
- できるコーチの指導を受ける
- 同僚や友人に協力してもらいチームで改善に取り組む
- 360度フィードバック(指導対象者の上司や部下などあらゆる人からコメントを集めて対象者の欠点や課題を探す手法)を利用する
- 人の感情を読み取る訓練をする
- 毎日、日記をつけてみる
- 「食う・眠る・動く」で自分を大切にする
改善の際に大切なのは、謙虚になり、基本的なことから取り組むということである。
基本の3原則
礼節ある人が守っている3つの基本原則は次のとおり。
- 笑顔を絶やさない
- 相手を尊重する
- 人の話に耳を傾ける
笑顔のコツとしては、楽しくなることや幸せになることを思い浮かべ、自分の内面から笑顔を生み出す「インサイドアウト・アプローチ」を利用すると良い。
また、話を聞く際には「受け止める」「尊重する」「要約する」「質問をする」ということに気をつける。
ただし、相手の話を途中で遮るということは決してしてはならない。
ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得
基本を身に付けたら一段階上のレベルに進みたい。
その際には、以下の5つの心得を覚えておくと良い。
- 与える人になる
- 成果を共有する
- 褒め上手な人になる
- フィードバック上手になる
- 意義を共有する
これらの心得は対面でのコミュニケーションに限らず、オンライン上でも心がける必要がある。
メール等において粗暴な振る舞いをする人がいるが、そうならないように注意を払いたい。
品格あるメールを書くためのルールが掲載されているので、以下に抜粋する。
英語前提なので、全てが日本語に適用できるとは限らないが、概ね参考になると思われる。
- 件名は短く、内容がわかるようにする
- ccに含めるのは必要最低限の人のみ
- 依頼に対しては対面と同様に誠実に対応する
- ユーモア・皮肉・批評については、少しでも問題がないか、何度も読み返す
- 書いた文章に問題がないと確信できない時は、いったん保存してあとで見直す
- 送信時間に気をつけ、場合によっては予約送信を利用する
- 受け取り手が遠方にいる場合は時差に注意する
- 返信の際は、もらったメールの文面をよく読む
- 「緊急」を多用せず、基本的に緊急かどうかの判断は受け取り手に委ねる
- 開封通知やフォローアップ・フラグは使わない
- 署名ブロックをつける
- 相手が社内の他の人たちに読まれると困るようなことは絶対に書かない
- 宛先が複数人の場合は順序に気をつける(職位順・要件への関わり順など)
- 謝罪の場合はそもそもメールで良いのか熟考し、メールの場合には件名に「謝罪」「申し訳ありません」などを書いて明確に伝わるようにする
- 絶対に適切な場合を除き「全員に返信」は使わない
- すべて太文字のメールは絶対に書かない
- 送り手の評価が少しでも下がるようなメールは第三者に転送しない
- 面と向かって言えないようなことはメールにも書かない
- マイナスな感情を伝えるのに「!」は使わないし、真剣な内容のメールでは「!」は多くて1回の使用にとどめる
礼節ある会社になる
続いては、組織の礼節を高めるための方法である。
礼節ある人を見極める採用システムを作る
先述のとおり、無礼な人が1人でもいると、その無礼さは周りに伝染し、組織全体が無礼になってしまうリスクがある。
そのため、無礼な人をそもそも採用しないというのは、シンプルながら有効な手段と言える。
採用の面接の際には、少しでも無礼な言動がないか目を光らせ、仮定に基づく質問ではなく、過去に実際に起きた複数の出来事についてどう対処したかを尋ねるべき。
面接の方法は体系化し、どの人に対しても同じ質問を同じ順序ですることによって、入社後の仕事ぶりがかなり正確に予測できるようになる。
また、良い人を確実に採用したいのであれば、面接をするだけでなく、何人かの社員と食事やイベントを共にさせ、普段の言動を見たり、独自に探し出した関係者から話を聞くという方法もある。
礼節を高めるコーチングを取り入れる
まず「礼節を守る」ということを企業の経営理念に加えるべきである。
そして、それを皆が常に念頭に置いて行動するよう、目立つ場所に掲示しておく。
誰もが自分の力だけで変わることはできない。
そのため、トレーニングやコーチが必要だし、その際には教える側、教わる側が互いに適切なフィードバックを与え合うことが大切である。
「上方評価」「360度フィードバック」「ピア・トゥー・ピア・コーチング」などを取り入れ、積極的に改善の機会を作っていきたい。
誤った評価システムを改善する
会社の礼節を高めたいと思えば、礼節ある行動を確実に評価できる体制を作らなくてはいけない。
そのため、評価にあたっては、業績評価という伝統的な基準と、思いやりや敬意の程度を適切に評価できるような体系的な基準を上手に組み合わせる必要がある。
言い換えれば、結果だけではなく、その過程も評価基準に含めるということだ。
過程を見る際に気を配りたいのが、自分に与えられた以上の動きをし、周囲の同僚たちを助ける「スター社員」である。
多くの企業は、こういうスター社員の貢献を正しく認識していない。
他人に協力する態度を評価できる体制になっているか、今一度確認してみるべき。
無礼な社員との向き合い方
社内に無礼な人がいるとわかったときにはどうすればいいのか。
方法は2つ。
改善させて共に働き続けるか辞めてもらうかだ。
コストの観点から考えて、改善させられるなら改善させて働いてもらいたい企業がほとんどだろう。
他人の行動を変えるには、「フィードバックループ」が有効である。
フィードバックループは次の4つのステップで構成される。
- 証拠を提示する
- 証拠の妥当性を確認する
- 悪い行動を続けた場合にどうなるかを伝える
- 改善を実行させる
改善を実行させた後は、改善度合いを評価する機会を作ることも大切である。
後の成果確認がないと、人は進歩しないことが調査から明らかになっている。
また、周囲の人たちの協力も不可欠だ。
フィードバックループが機能した人たちは、皆、周囲の人たちの協力を得て、ともに進捗を確認しながら改善に努めていた。
もちろん、手を尽くしても一向に改善が見られない社員もいるだろう。
その場合は解雇をすることになるが、その際も礼節ある態度で接しなければならない。
社内に残る人たちが皆、見ているからである。
無礼な人に狙われた場合の対処法
自分自身や自分が影響を及ぼせる人から無礼な態度を受けている場合には対処のしようがあるが、中にはどうしようもない相手から無礼な扱いを受けてストレスを感じている人もいるだろう。
それに対する助言を一言で言うなら「あなた自身と、あなたの将来のことだけを考えるべき」である。
気をつけるべきなのは、相手の態度に振り回されてはいけないということだ。
無礼な相手の人間性や、職場の環境を、自分だけの力で変えられると思ってはいけない。
ともかく必要なのは話し合いだが、アクションを起こす前に次の3つのことを自問した方がいい。
- 加害者に何か言い返しても、身体的な危険はないか
- その無礼な振る舞いは意図的なものか
- その人が無礼な態度を取ったのは初めてか
3つの問いへの答えがすべて「イエス」なら、相手と面と向かって話をしよう。
ただし、話し合う前には安全な場所を確保し、シミュレーションを行い、場合によっては第三者に同席を求める。
話し合いの際には、「どうすれば最もお互いにとって利益になるか」を最優先に考え、決して相手の人格に触れてはいけない。
また、話す言葉だけではなく、声の調子や表情など、言語以外でのコミュニケーションにも気を配る必要がある。
もし、3つの問いへの答えがひとつでも「ノー」だった場合には、相手と直接、話し合ってはいけない。
その後の接触では、会話を手短にし、友好的な態度を保ち、常に毅然とする。
そして、最大の防御策は、自分自身がエネルギーに満ち、生き生きと活動していて、日々の成長を実感できていることである。
逆境に遭遇したときも「この状況から何か学べることはないか」と考え、常に前向きに考えることによって、無礼な人から受けるネガティブな影響は抑えることができる。
まとめ
礼節の大切さを説き、礼儀正しくなるための方法、無礼な態度への対処について解説した本だった。
「礼儀」というのは普遍的なテーマであり、人と関わり合うすべての人に役立つ1冊と言えよう。
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