2023年4月に初版が発行された本。
著者の安達裕哉氏は、ティネクト株式会社代表取締役。デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)、監査法人トーマツの大阪支社長、東京支社長といった経歴を持ち、現在は経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆等を行っている。
本書は、頭のいい人が話す前に何をどう考えているのかを明文化し、誰もが思考の質を高められるようにすることを目的としたものである。
ページ数はあとがき等まで含めて340ページ弱。ページ数としては比較的多めだが、誰にでもわかる平易な言葉を用いて書かれているため、特に長さを感じることなくスラスラ読める内容になっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
話す前に意識すべきこと
本書は、「マインド」→「フォーム」の2部構成になっている。本項目は「マインド」、つまり話す前に意識すべきことを7つ記載する。
- とにかく反応するな
- 頭のよさは、他人が決める
- 人はちゃんと考えてくれてる人を信頼する
- 人と闘うな、課題と闘え
- 伝わらないのは、話し方ではなく考えが足りないせい
- 知識はだれかのために使って初めて知性となる
- 承認欲求を満たす側に回れ
とにかく反応するな
怒りや恐怖にとらわれると、判断を間違える可能性が高い。すなわち、話し出す前に冷静になる必要がある。
- イラッとしたときは、少なくとも6秒は口を開かない
- 自分の発言で相手がどう反応するか、複数の案を脳内で比較検討してから口を開く
頭のよさは、他人が決める
学校には偏差値というわかりやすい指標があったが、社会に出ると頭のよさを決める定量的基準は存在しない。社会では、頭のよさを決める指標は「その人のことを頭がいいと認識している人がどれだけいるか」になる。
上記を概念化したのが「SQ=社会的知性」と呼ばれるもので、言い換えると「他者の思考を読み、他者の信頼を得て、他者を動かす能力」である。社会的知性は他者とのコミュニケーションの中で身につけるのが一番。次に書籍などの学校的知性で復習するように学ぶ。
学校の学習順序は理論→実践だったが、社会での学習順序は実践→理論となる。
人はちゃんと考えてくれてる人を信頼する
それっぽいことを言っているようで、実際は中身がない発言をする人たちがいるが、「賢いふり」では他者の信頼は得られない。
人が他人のことを信頼するのは「この人、自分(たち)のためにちゃんと考えてくれてるな」と心から思えた瞬間。「くれてる」という点が重要。つまり、「自己の利益のためでなく、相手のためを思って考えている」ということが伝わらなくてはならない。
人と闘うな、課題と闘え
ネットやテレビの影響で、相手を論破しようとする人が増えたが、これは悪手。論破しても相手の心は動かないのだから、行動もしてくれない。議論をしても勝ち負けにはこだわらず、議論を進めることを意識する。闘うべきは人ではなく、課題。
伝わらないのは、話し方ではなく考えが足りないせい
話し方の型やテクニックを覚えても、信頼は得られない。特に頭のいい人にはすぐに見破られてしまう。それよりも重要なのは、相手のために深く考えること。
知識はだれかのために使って初めて知性となる
知識をひけらかす人に対して、他の人は知性を感じない。自分の知識を使ってアドバイスする際には、一度立ち止まって「このアドバイスは本当に相手のためになるのか、自分が知識を披露したいだけになっていないか」と、自問することが大切。
承認欲求を満たす側に回れ
人は承認欲求を満たされたい生き物。当然自らも承認欲求を満たされたいので、前項の「知識をひけらかす」といった行動を取りがちだが、それをぐっとこらえて、他者の承認欲求を満たすことができるようになれば、他者からの信頼を上手に得ることができる。
自分の承認欲求をコントロールするコツは以下
- 他者からの承認がなくとも自分は優秀なのだと自信を持つ
- 自分の有能さは話ではなく結果で示す
客観視
本項目以降は「フォーム」、つまり具体的な思考法の話へと移る。
まずは客観視の思考法。
話が浅い人には3つの特徴がある。
- 根拠が薄い
- 言葉の「意味・定義」をよく考えずに使う
- 成り立ちを知らない
根拠が薄い
「テレビで言っていた」というだけの理由、「誰々が言っていた」というだけの理由で決めつけて話す人が該当。なぜそう言っていたのかという理由を把握せずに話してしまうことが問題である。
確証バイアス(都合のいい情報ばかり集めて、都合の悪い情報は無視する傾向)や後知恵バイアス(結果を知ってから判断した内容を、あたかも結果を知る前から予測していたように考えてしまう傾向)にとらわれず、客観的に考えることが必要。
具体的には以下の2つがポイント
- 自分の意見と真逆の意見も調べる
- 統計データを調べる
統計データをネットで調べる際には【site: .go.jp】や【総研】【site: .ac.jp】を検索ワードに含めることにより、政府機関やシンクタンク、大学などが発表する、相対的に客観性が高い情報のみに絞って検索することができる。
言葉の「意味・定義」をよく考えずに使う
例えば「問題」と「課題」、混同されやすいこの2つの言葉の意味を説明できるだろうか。あるいは意味をろくに理解もせず、横文字ばかり使っていないだろうか。思考の解像度を上げるためには、言葉の意味に敏感にならなければならない。大人こそ辞書を引く習慣を身につけるべき。
言葉の意味を正しく理解し、自分が発する言葉の意味と相手が受け取る言葉の意味に齟齬が出ないようにする必要がある。
成り立ちを知らない
終身雇用がなぜ広まったのかを調べずに「終身雇用はもうダメ」などと言い出す人。メリットが薄いとして、実際に終身雇用を採用する会社が減っているのは事実だが、ではなぜ現代においてメリットが薄いとされている終身雇用がかつての日本で広まったのか。成り立ちを調べることにより、深い議論や人と違うアイデアが生まれる。
成り立ちを調べるコツは「語源を調べること」と「広まった場所や地域を調べること」
整理
深い理解をしていれば、わかりやすく話したり、人の心を動かせる。では、「理解している」とは何か。それは「整理できている」ということである。話を整理するコツは2つある。
- 結論から話す
- 事実と意見を分ける
結論から話す
話がわかりにくい人は、結論から話せないことがよくある。それは、「重要な情報」と「その他の雑多な情報」を整理できていないため。両者をきちんと分けるために必要なのが、「結論が何かはっきりさせること」
誰でも結論から話せるようになる最も簡単な方法は、結論とは何かを相手に聞くことである。このとき、相手から明確な答えが返ってこないなら、それは相手も結論が何か理解できていないということ。
もちろん、相手によっては結論が何か問えない場合もある。例えば客先で「結論ってなんですか?」などとは言えないだろう。その場合には、「相手が最も聞きたいであろう話」から始めるのがよい。
結論から話すことにより、相手に「どのようなスタンスで話を聞けばいいのか」を判断してもらえるというメリットがある。
事実と意見を分ける
事実を問われているのに、その内容を勝手に自分の感想(意見)に置き換えて話してしまう人がいる。
この場合の「事実」とは、証明が可能な客観的事実を指し、「私はこう思っています」という主観的事実は含めない。質問に答える際には、反射的に答えるのではなく、客観的事実なのか、自らの意見なのかをチェックする。意見を事実のように話してはならない。
傾聴
聞くことは簡単だが、きちんと聞くことは難しい。前者は自分の理解できたことだけを切り取ればいいだけだが、後者は相手の話の一言一句に注意を向けなければならないためである。
相手の言いたいことを考えながら聞く態度が重要。コツは次の5つ
- 肯定も否定もせず、相槌を打ちながらまずは相手に気持ちよく話してもらう
- 相手がそう思っている、と割り切り、良い悪いといった評価は心の中でも行わない
- どう思うか聞かれても、意見を安易に言わず、相手を安心させる返答をしながら、まずは話をすべて聞き出す
- 話が途切れたら沈黙して、相手が話し出すのを待つ
- どんな相手でも何かしらの面白い話を持っていて、何かのプロであるという意識(好奇心)をもって話を聞く
質問
本質をつかむ質問をすれば頭のよさが伝わる一方、頓珍漢な質問をしてしまうと信頼は一気に地に落ちる。そのくらい、質問は重要な要素であり、上手な質問をすれば、相手が気づいていない部分まで話を掘り下げ、一緒に思考を深めることができる。
面接やプライベートでも役に立つ5つの質問を「導入」と「深掘り」に分けて紹介する。
【導入】
- 過去の行動についての質問(直面した困難な状況にどう対応しましたか)
- 家庭の状況判断に基づく質問(仮に~な状況だったらどう対応しますか)
【深掘り】
- 状況に関する質問(そのときの状況を具体的に教えてください)
- 行動に関する質問(その状況のとき具体的にどう行動しましたか)
- 結果に関する質問(行動の結果、どのような変化がありましたか)
質問する前に、相手の立場に立ち、仮説をもって質問することも大切。仮説が特に思いつかない場合には「もし仮に私が◯◯の立場だったら・・・ですけど、あなたはどうですか」という質問の仕方も有効。
言語化
最後に、深めた思考を言語化する技術について。
言語化の質を高めるということは、アウトプットの質を高めることに繋がり、そしてそれは人の心を動かし、行動に繋がる。つまり、「ちゃんと考える」とは、「人を動かすアウトプットを生み出す」ということである。
言語化の質を高める思考の型をひとつ紹介する。なお、この型は考える労力を省く型ではない。相手にインパクトを与えるための型である。
- ◯◯ではなく、△△である
これがインパクトを与えるための型、「再定義」である。良質なアウトプットは良質な定義から生まれる。良質な定義を考える手段が「再定義」
再定義の方法は「良い◯◯、悪い◯◯とは何か」を考えてみること(例:良いカフェとはなにか、悪いカフェとはなにか)
言語化を習慣づける方法が3つある。
- ネーミングにとことんこだわる
- 「ヤバい」「エモい」「スゴい」を使わない
- 「読書ノート」「ノウハウメモ」を作る
ネーミングにとことんこだわる
人は、名前のないものを深く考えられない。逆に、名前があれば、新しい概念について考察できる。できる人は、考察対象の定義を考え、その定義に名前をつける。
言語化能力を鍛えるには、名前のついていないものに名前をつけ、その名づけにこだわることが近道。
「ヤバい」「エモい」「スゴい」を使わない
これらの言葉は汎用性があり、大抵の感情を表現できるが、それゆえに語彙力の向上を妨げる。これらの言葉を使わずに、物事をどう表現するかを考えるようにする。
「読書ノート」「ノウハウメモ」を作る
古典的ながら、読書は語彙を増やすのに役立つ。ただし、インプットだけでなく、アウトプットすることが重要。
おすすめは「読書ノート」をつけること。また、仕事や趣味などの「ノウハウメモ」をつけることもアウトプットの習慣づけ、練習になる。
まとめ
人の信頼を勝ち取り、人を動かすアウトプットを行うための思考、行動について、わかりやすく整理された1冊だった。数多くの「型」を掲載した書籍はちまたに溢れているが、「型」に当てはめるだけの行動を否定し、「思考」に重きをおいている点がユニークである。
本記事では割愛しているが、書籍内では、各項目について、具体例を交えて詳細に解説されているので、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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