ウォール街のランダム・ウォーカー

ウォール街のランダム・ウォーカーの表紙 読書

1973年に原書初版が出版された個人投資家向けの啓蒙書兼実践の手引書。
本書は2019年に出版された、第12版の翻訳書。

著者のバートン・マルキール氏はプリンストン大学を代表する経済学者で、フォード政権下で大統領経済諮問委員会委員も務めた経済・金融問題の専門家である。

ページ数はあとがき等まで全て含めると500ページを超えており、個人投資家向けに、保険の問題から所得税対策まで幅広く取り扱っている。

著者いわく、本書は「投資の専門的知識を持っていない普通の人々を念頭に置いて書かれたもの」らしいが、初歩的な経済・投資用語は解説なしで頻出する。

だが、本書で筆者が真に主張したい内容は極めてシンプルである。
それは、各種手数料や税金まで考慮に入れた場合、最適な投資はインデックス・ファンドを中心とした運用である、ということだ。

上記の内容は本書どころか、筆者が原書初版を執筆する以前から一貫して主張していることであり、近年になってそれが正解であるという確信がますます深まった、と筆者は語っている。
本書は、上記主張がなぜ正しいと言えるのか、過去のデータをもとに詳細に解説している。

ランダムウォークとは

ランダムウォークとは「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。
株式市場に当てはめると、株価が短期的にどの方向に変化するかを予測するのは難しいということになる。

投資のプロにはファンダメンタル価値学派と砂上の楼閣学派の2種類の派閥があるが、どちらの派閥のプロでも、短期的な値動きを当て続けるのはまず不可能である。

バブル

ファンダメンタル価値学派は、現状分析と将来予測を緻密に行うことで導き出される絶対的価値(ファンダメンタル価値)を現状価格が下回っているか上回っているかで購入、売却を決める学派であり、代表的な人物にはウォーレン・バフェットがいる。

一方、砂上の楼閣学派は、現状分析や将来予測は重視せず、あくまでどの銘柄に大衆が押し寄せるのかということを考えて投資を行う派閥であり、代表的な人物としてはケインズがいる。

この相反する株価理論を解き明かす前に、過去の事例として、序盤の100ページほどを使って、人類の歴史上起こったバブルを紹介している。

取り上げている主なバブルは次のとおり。

  • チューリップバブル
  • 南海バブル
  • 1920年代のアメリカ(ウォール街)のバブル
  • 日本のバブル
  • インターネットバブル
  • 住宅バブル
  • 仮想通貨バブル

いずれのバブルも、その時の市場の流行り廃りが、価格形成に大きな影響を及ぼしており、流行りに乗って短期間に手っ取り早くお金を儲けられそうな投機に、個人・機関問わず投資家たちはお金を注ぎ込みたくなる誘惑に負けてしまった。

株式投資にとって重要なのは、新しい産業が経済や社会をどのように変えるかとか、どれだけ規模的に大きくなるかということではなく、その産業や企業が生み出す利益や、それを維持していく能力である。

だから、利益や能力が見合っていない価格上昇は、遅かれ早かれ収束することとなる。
ブームを利用して、一時的に大きく儲けられた投資家もわずかながらいただろうが、無傷で乗り切れた人はほとんどいなかったであろう。

どんなに優れた個人あるいは機関投資家でも、自身を含む集合体である市場平均よりも市場のことをよりよく知っているなんてことはありえない。
そのため、投機に乗って大きく勝とうという試みはいつか失敗するのがオチである。

また、ブームの根底にしっかりとした技術があったとしても、それによってバブルの破綻を防ぐことはできない。
仮想通貨バブルの項で触れられているが、ブロックチェーン技術自体が国際的な決済システムに大きな変化をもたらすテクノロジーであるのは間違いないとしても、そのことが仮想通貨という資産の安全性を保証することにはならない。

ファンダメンタル分析とテクニカル分析

バブルについての解説が終わると、いよいよファンダメンタル分析とテクニカル分析(がなぜ上手くいかないのか)の話に入る。

なお、ここから先はしばらく、過去の理論の検証が続くので、実際にどう投資すればいいと筆者は言っているのかを知りたい方は「ウォール街の歩き方の手引」まで飛ばすことをおすすめする。

ファンダメンタル分析とは、ファンダメンタル価値理論を銘柄選択に生かそうとするものであり、テクニカル分析は、砂上の楼閣理論に基づいて的確な売買タイミングを予想しようとするものである。

ファンダメンタル分析

ファンダメンタル価値に従って売買選択をしているのだから必ず利益が上がるように思える分析だが、実は3つの問題点がある。

  1. 情報や分析が必ずしも正しいとは限らない
  2. アナリストが「価値」の推定を間違う可能性
  3. 市場は理論と実際の価値のズレを速やかに修正するわけではない

1と3はともかく、2については、にわかには信じがたいだろう。

しかしながら、現実問題として、他の分野のプロがミスをするように、アナリストもミスをする。

ではなぜ証券アナリストは予想を誤るのか。
筆者は次の5つをあげている。

  1. ランダムに発生する事件の影響
    業績予想に対して大きな影響をもたらす出来事の大半は、ランダムな事象であり、プロにも予測不可能なことである。
  2. 企業による「クリエイティブ」な会計手法を通じた、いかがわしい利益の捻出
    要は粉飾決算である。前提となる決算が間違っているのだから分析結果が正しいはずがない。
  3. 多くのアナリストに見られるお粗末なエラー
    アナリストも生身の人間。しばしば間違いを犯すし、杜撰だったり、尊大だったり、プレッシャーに弱かったりする。
  4. セールス活動への協力と運用部門への人材流出
    アナリストが優秀であればあるほど、より収益をあげられる業務や部門に配属されるため、分析だけ力を注ぐことができない。
  5. リサーチと投資銀行業務の間の利益相反
    アナリストの給料やボーナスのある部分は投資銀行部門への貢献度によって決まる。つまり、アナリストは投資家が投資から遠ざかる(=投資銀行部門に不利益をもたらす)ようなレポートは出さない。

このように、個別の分析に関して間違えることは分かったが、実際の運用、すなわち投資信託(本書ではアクティブファンドのことを指す)についてはどうだろうか。
個別の銘柄の分析に多少のミスがあっても、投資信託が市場平均以上のパフォーマンスを上げていれば、プロに任せたほうが良いということになるだろう。

しかしながら、この問いについても答えはNOである。

短期的に見れば、市場平均を大きく上回るファンドは存在する。
だが、それらには継続性がない。
過去に上手くいっていた手法が未来も上手くいくわけではないのである。

それに加えて積極運用タイプの投資信託は手数料が高額な傾向にある。
長期的視点で考えれば、良い成績を上げ続けられず、手数料も高い投資信託に投資するより、インデックスファンドを購入したほうが大きく報われる可能性が高い。

テクニカル分析

では、テクニカル分析、あるいはチャート分析はなぜ上手くいかないのか。

現実のチャートはすでにそこにあるものだから間違いようがないし、群集心理や市場参加者間の情報収集能力の差、業績情報に対する投資家の段階的な反応などの要素は、テクニカル分析の信頼性を後押ししているように思える。

しかしチャート分析にも問題がある。

まず、チャーティストはトレンドが形成された後にしか投資することができない。
つまりトレンドと実際の投資の間にラグがあり、この間にトレンドが終了する可能性がある。

次に、チャート分析は結局のところ自己矛盾に陥る。
皆が同じシグナルに対して同じ手法を取るとしたらどんなシグナルに基づいて売買しても利益は得られないし、メタゲームの要領で先回りする人間が出てきたらチャートの動きはそれまでとは逆になり、損失が発生する可能性すらある。

そして最後に、投資家による利益最大化の行動がある。
簡単に言えば、今日20ドルの株が明日には40ドルになることを知っている人物がいたら、その人物が今日40ドルになるまでその株を買い続けるので、40ドルになる「明日」は訪れないということである。

結局のところ、テクニカル戦略に実質的な価値は全くない。
証券会社がテクニカル・アナリストを雇うのは、彼らの分析が投資家に頻繁な売買を行わせ、より多くの手数料が落ちることを期待するからである。

現代ポートフォリオ理論

学者が従来の理論を攻撃する中、1950年代のハリー・マーコビッツの論文をもとに開発された比較的新しい投資テクノロジーのひとつが「現代ポートフォリオ理論(MPT)」で、リスクをコントロールすることを念頭に置いた手法である。

金融資産のリスクは、一般にリターンの分散または標準偏差として定義されている。

もっとも、予想以上に高いリターンを「リスク」と呼ぶ人間はいないが、リスクの分布が対称型であれば、マイナスリターンの確率はプラスリターンの確率と大体同じになるので、上記のような定義でも問題ないと言える。

現代ポートフォリオ理論は、すべての投資家はできるだけリスクを回避したがるものだという前提に立ち、分散投資の方法について考察している。

アメリカの株式について、ポートフォリオに組み込む銘柄数を増やすとリスクが減っていくことが分かっているが、ある銘柄数でリスクはほぼ横ばい(それ以上低減されない)となる。
その銘柄数とは50である。

そしてその黄金ナンバーは世界の主要国株式を含めた場合でも変わらない。

50という銘柄数でポートフォリオを構成することにより、アメリカ株のみの場合で60%以上、国際分散させた場合は更にリスクを低減することができる。

そして、リスクを最小化する組み合わせはアメリカ株式82%、外国(アメリカ以外)株式18%であるという結果が2017年までの統計から分かっている。
また、分散投資は株式に限ったことではなく、例えば債券にも投資することでリスクはより低減させられる。

資本資産評価モデル

先述のとおり、分散投資によってリスクのある程度の部分は取り除くことができるが、それは同時に、リスクをゼロにすることはできないということでもある。

ウィリアム・シャープ、ジョン・リントナー、フィッシャー・ブラックは取り除けるリスクと取り除けないリスクについて研究した。
これが、「資本資産評価モデル(CAPM)」として知られているものである。

このモデルでは、リスクを「システマティック・リスク(市場全体の変動が要因のリスク)」と「非システマティック・リスク(個別企業特有の要因によるリスク)」に分けている。
そして、ある銘柄のシステマティック・リスクを数値(市場平均との相対値)で表したものを「ベータ」と定義する。

CAPMでは、どんな株式やポートフォリオについても、そのリターンやリスク・プレミアムは分散できないシステマティック・リスクであるベータとの関係で決まると主張する。

しかし、1963年から90年までの期間にわたるベータとリターンの関係性を調査したところ、何の相関性もないということが明らかになった。
さらに個別銘柄のベータは対象期間によって値が不安定であり、計測する際の市場指数として何をとるかによっても影響されてしまう。

筆者によれば、どんな単一の尺度も、個別株式やポートフォリオに対する様々なシステマティック・リスクの影響を十分にはとらえられない。
完全なリスクの尺度は、依然として私たちの手の届かないところにある。

行動ファイナンス

これまでに出た理論では、投資家は完全に合理的に行動するということを前提に説明がなされた。
一方で、行動ファイナンス学派の主張によれば、そもそも投資家は合理的には動かないという。

投資家の非合理性の理由は、自信過剰と過度の楽観にある。
つまり、上手くいったら自分の能力、上手くいかなかったら外的要因というわけだ。

自分はある程度結果を左右できるという根拠なき幻想が、投資家をポートフォリオの中の負け犬銘柄にこだわらせる。
そして、その延長線上で、ありもしない株価トレンドや、将来の株価を予測する株価パターンの存在を信じるようになる。

だから、時間軸上での株価の動きは極めてランダムだし、将来の株価は基本的に過去とは無関係なものになるのだ。

この理論から得られる教訓は、「私たち人間は自分自身の心の気まぐれにいかに振り回されやすいものであるかを十分認識する必要がある」ということである。

自信過剰から来る不必要な売買は手数料がかさみ、税金が発生する反面、得るものはなにもない。
どうしても売る必要があれば、儲かっている銘柄ではなく、損している銘柄を売るべきだし、新規公開株には注意すべきだし、うますぎる話は信用してはならない。

スマート・ベータとリスク・パリティー

2010年代も終わりに近づき、まずます多くの投資家が「伝統的な銘柄選択方法では低コストのインデックス・ファンドに勝てそうもない」と考えるようになった頃、「市場に打ち勝つためには必ずしも銘柄選択で勝負する必要はない」と主張する勢力が出現した。

彼らによれば、ポートフォリオの回転率を低く抑えてパッシブ気味に運用しつつ、追加のリスクを取ることなくプラスの超過リターンを上げることができる。
そのための運用手法が、「スマート・ベータ」と「リスク・パリティー」と呼ばれるものだ。

両者は上記のような触れ込みで、何千億ドルもの資金を吸い寄せているが、果たして本当にそんな投資法があるのだろうか。

スマート・ベータ

実際のところ、スマート・ベータ運用とは、インデックス・ファンドと比較して追加のリスクを取ることによって期待リターンを高めようとする運用である。

その根底には次の4つの属性がある。

  • バリュー株(割安株)投資は勝つ
  • 長期的には小型株ほどハイリターン
  • 株式市場にはある程度のモメンタム(それまでと同じ方向に動く傾向)がある
  • 低ベータ・ファンドを狙う

これらのファクターは、事後的な検証では、リスク調整後で超過リターンを生んできたことが確認されている。
しかし、現実の運用では、必ずしも想定通りの結果が得られるとは限らない。

まず、研究者が運用戦略の分析を行う際には、あるファクターを重視して選んだ銘柄群をロングすると同時に、別な銘柄群をショートすることを前提にするのだが、これは現実的にはコストがかかるし、実行不可能なこともある。

また、超過リターンが、本源的なリスクを反映したものではなく、市場の気まぐれによるものだとすると、超過リターンは時間の経過とともに平準化されて消滅してしまう。
実際、超過リターンは、その存在が認められ知れ渡った暁には、次第に小さくなる傾向がある。

そして、現実に上記ファクターのひとつを重視したファンドはいくつもあるが、決してスマートな運用とは言えない結果に終わっている。

では、複数のファクターを組み入れた戦略についてはどうか。
こちらについても机上では有効性が見られるが、前述のロング・ショート運用の欠点や、運用手数料・売買コストは一切考慮されておらず、現実に大きな効果が得られるかどうかについては疑問の余地が残る。

リスク・パリティー

リスク・パリティー戦略は、借入金でレバレッジを高めて低リスク資産を保有することによって、リスク見合い以上のリターンが得られると主張する。
この根底にあるのは、比較的安全性の高い資産は、そのリスク見合い以上のリターンを生む傾向があるという前提だ。

この前提に従えば、債券なども含めた低ベータ・ファンドを信用で買ってベータが市場平均並みのポートフォリオを構築すれば、簡単に市場平均を上回るリターンをあげることができる。

実際、リスク・パリティー運用は優れたパフォーマンスをあげた。
しかし、問題がないわけではない。

一般投資家にとって、レバレッジをかけた運用というのはそれだけで大きなリスクを伴う。
また、株式以外の資産クラスに関してもかつてほどの超過リターンはなくなり、株式との相関も従来より大きくなっている可能性がある。

新しいポートフォリオ構築の考え方は、常に念頭に置くべきだ。
ただし、構築時には、あくまで加えるファンドが低コストなのか、運用全体の税負担にどのような影響があるかという観点から検討すべきである。

そして何より、運用の中心は幅広く分散された、市場インデックス・ファンドであるべきだと筆者は重ねて主張している。
 

ウォール街の歩き方の手引

これまで(本書では第3部まで)は、相場に起こった出来事や、先人が提唱した理論についての検証がほとんどだった(インデックス・ファンドを買えという主張だけは幾度となく繰り返されたが)。

この先は、個人が長期的に資産を築くためにどう行動すべきかについて、筆者の考えが記されている。

財産の健康管理のための10ヵ条

この項ではありとあらゆる投資家に役立つ10項目のアドバイスが示されている。
ただし、前提とされているのはアメリカにおける投資なので、その点は注意されたい。

  1. 元手を蓄える
  2. 現金と保険で万一に備える
  3. 現預金でもインフレ・ヘッジをする
  4. 税金対策と年金制度を活用する
  5. 運用目標をはっきりさせる
  6. マイホームを活用する
  7. 債券市場に注目する
  8. 金(ゴールド)についても勉強する
  9. 投資にかかるコストに目を配る
  10. 大原則は分散投資

アメリカを前提にしているとはいえ、概ね日本にも当てはまる内容だと思われる。

総じて言えるのが、高いリターンを得ようとすれば、それに見合った高いリスクを取らなければならないし、流動性が乏しい資産を持つことも覚悟しなければならないということである。

ライフステージに応じた投資戦略

先に述べたとおり、リスクとリターンは密接に関係している。
ではどの程度のリスクを取ればいいのかだが、それは自分のストレス耐性や他の収入の有無など様々な要素が絡む。
そしてその要素のひとつが、自らのライフステージである。

ここで取り上げられている前提は次の5つ

  1. リスクとリターンは正比例する
  2. 投資のリスクは投資期間に依存する(長いほどリターンの変動幅は低下)
  3. ドル・コスト平均法は問題がないわけではないが、リスクの軽減に役立つ
  4. 定期的なアセット・ミックスのリバランスはリスクを低下させ、リターンを高めることも可能
  5. リスクに対する選好とリスク許容度は別物

この前提を踏まえ、個々人の投資戦略を考える。
もちろん、全てのケースに当てはまる投資の手引などないが、共通の手引となるような3つの原則は存在する。

  1. 特定の具体的ニーズに対しては長期投資と切り離した具体的な資金源が必要
  2. 標準的な投資政策はあるが、最終的にはリスク選好は主観的な要素が関係してくる
  3. 規則的に長期に積み立てる

最終的には個人が決める必要があるが、モデルケースとしてのアセット・ミックスは次のように提示されている。

  株式 債券 不動産 現金
20代半ば 70% 15% 10% 5%
30代後半から40代初め 65% 20% 10% 5%
50代半ば 55% 27.5% 12.5% 5%
60代後半以降 40% 35% 15% 10%

毎年リバランスなどを行うのが煩わしいと感じる人向けには、「ライフサイクル・ファンド」と呼ばれる商品が今世紀に入っていろいろ開発されている。
これらの商品は、投資家が歳を取るのに合わせて、自動的により安全なアセット・ミックスへの変更や、毎年のリバランスをやってくれるので、退職予定の年月を基準に一番ふさわしいファンドを選ぶだけで済む。

ところで、巷には年金保険が溢れているが、これは次の4つの問題点、不利な点があるので注意したい。

  1. 遺族に何か残したいという目的と相容れない
  2. 老後の消費パターンが大きく制約される
  3. 年季保険はコスト高
  4. 税法上不利

では実際のところどうすればいいのか。

筆者が言うには、まず、老後のための蓄えの一部分(全部ではない)を、退職時に年金化するのはいいことである。
年金化は生きている限り何がしかの受け取りを確保する唯一の手段だからだ。

自分で運用する部分については上の表の割合に従って運用し、そこから少しずつ引き出して生活費に充当することになる。
引き出し額だが、保有資産の3.5~4%以内にするのが理想である。
この値は、ポートフォリオの年平均の期待リターンから長期的な年平均インフレ率を引いたものなので、現実が予測と大きく乖離した際には見直したほうがいい。

ただし、毎年機械的に3.5~4%を引き出すのは賢明ではない。
1年程度の短期では市場価格が大きく変動しうるので、毎年の引き出し額も大きく変動してしまうためである。

より賢明なアドバイスとしては、初年度に3.5~4%を引き出した後は、その金額に平均インフレ率1.5~2%を加えた額を引き出すことにするというものだ。
これなら引き出し額は安定的に増加するようになる。

資産の一部を切り崩す際に、どの資産を切り崩すかということだが、これは、目標とするアセット・ミックスに照らして基準を上回っている方を選ぶと良い。
考え方としてはリバランスと同じである。

具体的な購入ポイント

本書の終わりでは、どのようにして資産を築くのか、端的に言えば「何を買えばいいのか」について説明されている。

インデックス・ファンドを買う

幾度となく繰り返されてきているとおり、インデックス・ファンドは何の苦労もなしに、最低のコストで、市場平均リターンを手に入れるための賢明で便利な手段である。

ひとえにインデックス・ファンドとは言っても、その種類は多岐に渡るが、おすすめは基準指数が広範で包括的なものである。
アメリカではインデックス運用と言えば、S&P500指数を買うことだというイメージがあるが、筆者はそれよりも市場の動きをよりよく反映していると思われるラッセル3000、ウィルシャー5000、MSCIブロードUSインデックスを勧めている。

また、十分な国際分散投資を怠ってはならない。
50代半ばにおける分散投資の推奨ポートフォリオとして筆者が提示するものは以下のとおり。
比較的運用経費が安いこと、ノー・ロード・ファンドであることを念頭にセレクトされている。

資産 内訳 銘柄
現金
5%
5% フィデリティ・マネーマーケット・ファンド(FXLXX)
バンガード・プライム・マネーマーケット・ファンド(VMMXX)
債券
27.5%
7.5% USバンガード・国際ターム・ボンド(VICXV)
iシェアーズ社債ETF(LQD)
  7.5% バンガード・エマージング・マーケット政府債ファンド(VGAVX)
  12.5% ウィズダム・ツリー・ディビデンド・グロース・ファンド(DGRW)
バンガード・ディビデンド・グロース・ファンド(VDIGX)
不動産
12.5%
12.5% バンガードREITインデックス・ファンド(VGSIX)
フィデリティ・スパルタンREITインデックス・ファンド(FRXIX)
株式
55%
アメリカ
27%
シュワブ・トータル・ストック・マーケット・インデックス・ファンド(SWTSX)
バンガード・トータル・ストックマーケット・インデックス・ファンド(VTSMX)
  先進国
14%
シュワブ・インターナショナル・インデックス・ファンド(SWISX)
バンガード・インターナショナル・インデックス・ファンド(VDMIX)
  新興国
14%
バンガード・エマージング・マーケット・インデックス・ファンド(VEIEX)
フィデリティ・スパルタン・エマージング・マーケット・インデックス・ファンド(FFMAX)

50代以外の世代も、先の表に従って組み込み比率を変えれば良い。

また、インデックス・ファンドの代わりにETFを組み込むのも良い。
主要なETFを以下に掲載する。

市場 ETF 運用手数料率(%)
アメリカ市場

バンガード・トータル・ストック・マーケット(VTI)
SPDRトータル・ストック・マーケット(SPTM)

0.04
0.03
先進国市場 バンガード・ヨーロッパ・パシフィック(VEA)
iシェアーズMSCI先進国(IDEV)
SPDRアメリカを除く全世界(SPDW)

0.07
0.07
0.04

新興市場 バンガード・エマージング・マーケット(VWO)
iシェアーズMSCIエマージング・マーケット(IEMG)
SPDRエマージング・マーケッツ(SPEM)
0.14
0.14
0.11
アメリカを除く全世界 バンガードFTSEオール・ワールド(EX U.S.)(VEU)
SPDR MSCI ACWI(EX U.S.)(CWI)
iシェアーズ・コアMSCI(IXUS)
0.11
0.30
0.11
アメリカを含む全世界 バンガード・トータル・ワールド(VT)
iシェアーズMSCI ACWI(ACWI)
0.11
0.32
アメリカ債券市場 バンガード・全社債ETF(VTC)
iシェアーズ投資適格社債ETF(LQD)
シュワブUS全社債(SCHZ)
0.07
0.15
0.04

有望銘柄を自分で探す

本書ではあくまでインデックス・ファンドを勧めているが、多少とも山っ気のある人なら、ある程度は自分の才覚で運用しておきたいと考えるだろう。
そういう人はコアな部分をインデックス・ファンドで運用しつつ、残りの資金で自分の好きなように運用することで、もし失敗しても致命傷を避けることができる。

自分の感覚で運用する場合は次の4つルールがおすすめされている。

  1. 少なくとも5年間は、一株あたり利益が平均を上回る成長を期待できる銘柄のみを購入する
  2. 企業のファンダメンタル価値が正当化できる以上の値段を払って株式を買ってはならない
  3. 近い将来、「砂上の楼閣」作りが始まる土台となるような、確固たる成長見通しのある銘柄を購入する
  4. なるべく売買の頻度を減らす

その他

その他に専門家と雇って任せる方法、投資アドバイザーに頼る方法が提示されているが、これはもはやおすすめされていない。
理由はこれまでに述べてきたとおり、特に高いパフォーマンスが得られるわけではないこと、手数料が高いことである。

おわりに

本書では、過去のバブル等の事例、歴代の投資理論とその成果検証、筆者が勧める長期投資について記載がされている。
主張としては、一貫して「長期的な資産を築くならインデックス・ファンドを購入して長期保有せよ」である。

世界一安全な株のカラ売り』でも書いたが、本書の理論も、過去の例を見ると上手くいっているし、将来も上手くいく(と筆者が信じている)方法であって、実際に上手くいくのかはわからない。

ただ、手数料や税金の問題については予測ではなく確固たる事実だし、その点では一定の価値がある理論だと言えるだろう。
過去の事例や理論もふんだんに盛り込まれているので、投資の歴史書的な観点で読むのもおすすめである。

 

 

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