2021年12月に初版が発行された本。
著者のN/S高投資部はインターネットと通信制高校の制度を活用する「ネットの高校」として話題を集めるN高等学校・S高等学校の部活動。監修者の村上世彰氏は投資部の特別顧問で、東京大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省、40歳目前でファンド会社を設立し、現在はシンガポールに拠点を移して投資を行っている。
本書は、株式投資を中心に、お金に関係する基礎的事項について解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて220ページあまり。高校生向けに書かれた本であるため、投資の未経験者でも楽に内容が飲み込めるような難易度となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
お金を手に入れる3つの方法
お金を手に入れる方法は3つある。
- 働いて稼ぐ
- 借金する
- 投資する
この中で、儲かる可能性が高いのは3の方法。
ゴールドラッシュのときに本当に儲かったのは金を掘る人にスコップを売った人だし、タピオカブームの際に本当に儲かったのはタピオカ専門店にタピオカを卸す人。それと同様、自分で汗水垂らして働くよりも、稼ぐ人や企業に資本を投下するほうが効率が良い。
お金の必要性の4段階
重要なのは、お金は「目的」ではなく、「手段」だということ。だから、お金に振り回されないために、自分は何をすれば幸せで、そのためにいくら稼げばいいのかを考えることが大切。
人生において、お金が必要になる段階は4つに分類される。
- 自立して生きる
- やりたいことをする
- 不測の事態に備える
- 他人や社会のために使う
1からスタートし、徐々にステップを上げていくようにする。そのための手段が「投資」である。
投資比率
投資の資金は、働いて貯める必要がある。最初にうちは、生活に必要なお金を賄うだけで精一杯だろうが、給料の増加と共に投資に回せるお金も生まれてくる。
おすすめの比率は、7:2:1。
給料の7割を生活や趣味、2割を高価な物の購入や旅行などの目的のための貯蓄、1割を投資資金としての貯蓄に回すという方法である。
額ではなく割合で決めることで、収入の増減があっても基本的な生活を確保した上で投資ができる。1割は必ず投資に回すが、リスクヘッジのため、生活や目的のための貯蓄は投資に回してはならない。
投資手段
大前提として、投資とは「誰かが経済活動を行うのに必要な原資を提供すること」である。そのため、ただ通貨と通貨を交換しているだけのようなFXは投資ではなく、投機であり、ギャンブルと大差ない。
前提を踏まえて、お金を投じても良いのは、株式・債権・不動産の3種類だが、少額でも行えて、身近なところにヒントがあるという観点で、株式投資をおすすめする。
株式投資は、時間軸によって、3つのスタイルに分類される。
スタイル | 特徴 |
デイトレード | 1日で損益を確定させる。専業トレーダー向きで、ギャンブル要素が大きい。 |
スイングトレード | 数日~数週間で損益を確定させる。兼業投資家向き。 |
中長期投資 | 数ヶ月~数年で損益を確定させる。「大前提」に最も適合したスタイル。 |
高校生におすすめするのは中長期投資。大前提に適合しているという理由もあるが、1年以上の長期投資であれば、決算があるため1年未満で成果を上げなければならない機関投資家(個人では太刀打ちできないプロ投資家)が参入しにくいというメリットもある。
期待値で考える
株式投資には銀行預金のような確実性はないので、成功率を上げるために投資先を選定する物差しが必要。それが「期待値」
例1:総数10本中5本が当たりのくじが、1本300円で売られている。はずれは0円で、当たりは500円になる。
例2:総数10本中2本が当たりのくじが、1本300円で売られている。はずれは0円で、当たりは2,000円になる。
例1の期待値は250円で、売値の300円を下回るため、買うべきではない。一方、例2の期待値は400円で、売値の300円を上回るため、買うべき。
上記は極端な例(そもそも例2は10本全部買えば確実に儲かる)だが、投資先選定でも、根底にある考え方は同様である。自分なりに、投資期間(例えば1年)後に、株価が下がった場合の額とその確率、上がった場合の額とその確率を考え、期待値が投資額を超えている場合には投資する。この方式で分散投資を行えば、投資全体としてのリターンはプラスになる。
確率の精度向上
「期待値」で投資するとは言っても、先述の「くじ」と異なり、株価は値動き後の価格とその確率を正確に求めることはできない。だが、トライ&エラーを繰り返すことで計算の精度を上げることはできる。
精度を上げるための第一歩は「物事を数字で捉える習慣」を身につけること。新聞やテレビ、ネットニュースなどの数字に着目する。
習慣がついたら、次は様々な業界の数字を追いかけてみるようにする。各業界の見通しが明るいのか、それとも暗いのかを把握してみる。『会社四季報 業界地図』は業界動向を把握するのに有用。
情報の読み方
中長期投資で良くないのは、目先の業績やニュースに飛び乗ること。短期トレードでは意味があることだが、中長期投資では、将来の見通しや、記事やニュースの内容が中長期的に企業の業績にどう影響するかを考えることが大切。
IR関連の情報には、社長メッセージや最新情報、経営方針、業績、財務情報、IRライブラリーなどがあるので、活用する。将来の見通しは、社長メッセージとして発信されることが多いので、インタビュー記事などにも注目する。
割安銘柄の探し方
業界の見通しが明るく、個別企業の見通しも明るく、しかもその企業の株価が割安ならば、その企業の株を買えば良い。
割安銘柄を探す指標は3つある。
【PER(株価収益率)】
現在の株価を、1株あたりの税引き後利益(純利益)で割ったもの。四季報には「1株益」という略語で1株あたり税引き後利益が掲載されているので、その値で現在の株価を割れば、現在のPERが求められる。目をつけた企業のPERを業種平均のPERと比べたり、その企業の過去のPER(「みんかぶ」などで検索可能)と比べたりすることで割高か割安かを判断できる。
【PBR(株価純資産倍率)】
現在の株価を、1株あたりの純資産(自己資本)で割ったもの。四季報には「1株純資産」という略語で1株あたりの純資産が掲載されているので、その値で現在の株価を割れば、現在のPBRが求められる。1倍を超えていれば割高、下回っていれば割安ではあるが、将来性を織り込んでいることが多いので、PBRの値だけで飛びつくのは禁物。
【ROE(自己資本利益率)】
税引き後利益を自己資本で割ったもの。つまり、ROEが高いほど株主資本を効率良く利益に替えているということになる。日本企業は内部留保が多いためにROEが5~8%と低い(欧米は平均15%程度)が、そのような理由でROEが低く、株価が低迷しているような会社は、内部留保を上手く使えば大きな成長が望めるので、絶好の投資候補と言える。
将来性の予測
長期の投資で重要なのは、その会社の将来性。将来性のある会社の選び方は3つある。
- 総人口が増えている国でビジネスをする会社を選ぶ
- 『会社四季報 業界地図』の「注目業種」に掲載されている業種や「業界天気予報」が良い業種を選ぶ
- IR資料の「中期経営計画」や「経営者のコミットメント」を参考にする
投資シナリオの描き方
株式投資では、投資する前にシナリオを描いていなければならない。そうでないと、株価のちょっとした値動きに動揺し、売るべきときに売れなかったり、逆に売るべきでないときに売ってしまったりする。あらかじめ、株価の上限と下限を予測しておくことが大切。
- 海外売上比率が高いか
- 成長業界に属しているか
- 会社が成長施策を講じているか
- 現在の株価が割安なのか
- 自己資本比率が高いか
- 利益剰余金や現金同等物をたくさん持っているか
上記に加え、場合によってはIR担当に問い合わせるなどして、自分なりの具体的な理由を持って上限と下限の株価を予想してから投資する。
損失を抑える
株式投資に100%の勝ちは存在しない。だからこそ、ディフェンス力が重要。
以下のことを心に留めておく必要がある。
- 儲けても調子に乗らない
- 適正な金額以上の投資はしない
- 信用取引に手を出さない
- 描いたシナリオが間違っていたら素早く損切りする
- 下げ相場では買わない
- チャートを見ての値頃感ではなく、指標を見た割安感で買う
- 失敗したら、その理由を検証する
- 投資先/理由/金額/勝敗/原因を記録しておく
まとめ
お金の持つ意味から具体的な投資のテクニックに至るまで、様々な内容が網羅的に盛り込まれた1冊だった。若年層向けということもあり、投資そのもののことだけではなく、人生や働き方に関する思考も盛り込まれているところが特徴的である。
本記事では割愛したが、書籍内では実際の銘柄を例に挙げた解説なども盛り込まれているので、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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