2021年5月に初版が発行された本。
著者は芥川靖彦氏と篠﨑雄二氏の2人で、それぞれ税理士として研修会の講師や税務コンサルティングなどを行っている。
本書は、収入や財産、生活にかかる税金について、その仕組みと節税のポイントを、図表を交えて解説したものである。
ページ数は全体で約220ページ。
税金はその制度自体が複雑で、種類も多岐にわたるため、難易度は高いが、相対的にわかりやすく説明された本と言えよう。
本記事では、税金の種類や各種控除を中心に、重要な部分をまとめて紹介する。
なお、内容は出版時、執筆時のものであり、実際に納める際には最新の情報を確認されたい。
税金の種類
税金はどこに納めるかによって国税と地方税(都道府県民税と市町村民税)に分けられたり、負担する人と納める人が同一かどうかによって直接税と間接税に分けられたりする。
税金の種類は非常に沢山あるが、課税の種類と国税/地方税の区分によって分類すると下表のようになる。
課税の種類 | 国税 | 地方税 |
所得課税 |
所得税 |
住民税 |
消費課税 |
消費税 |
地方消費税 |
資産課税等 |
相続税 |
不動産取得税 |
税金の納付方法
税金の納付方法には「申告納税」「賦課課税」「印紙納付」「源泉徴収」などの方式がある。
「源泉徴収」は給与・報酬・利子・配当・使用料等の支払者(会社など)が、それらを支払う際に所得税や法人税等の税金をあらかじめ差し引いて、本人の代わりに納付してくれる方式なので、多くの会社員にとってはもっとも身近でありつつも、あまり意識する必要はない。
それ以外の方式は以下のような制度になっている。
種類 | 方法 | 税金の一例 |
申告納税 | 納税者が自分で税額を計算、申告して納める。 |
法人道府県民税 |
賦課課税 | 課税庁が納税通知書を納税者に送り、それによって納める。 |
不動産取得税 |
印紙納付 | 課税文書の作成時に、印紙税相当金額の印紙を貼り、消印することにより納める。 |
建築工事請負契約書 |
税額の計算方法
税額を計算する上で重要な要素が「所得」と「控除」で、収入との関係は次の式のとおり。
- 収入ー必要経費=所得
- 所得ー所得控除=課税所得金額
ただし、ありとあらゆる所得が同一のものとして課税されるわけではない。
不公平感をなくすため、稼いだ方法によって所得は10種類に分類され、税額の計算方法も変わる。
種類 | 計算方法 | 課税方法 |
利子所得 | 利子収入 | 源泉分離課税 |
配当所得 | 収入金額ー元本取得のための借入金の利息 | 総合課税or申告分離課税 |
不動産所得 | 収入金額ー必要経費 | 総合課税 |
事業所得 | 収入金額ー必要経費 | 総合課税 |
給与所得 | 給与収入ー給与所得控除 | 総合課税 |
退職所得 | (退職金収入ー退職所得控除)×0.5 | 分離課税 |
山林所得 | 収入金額ー必要経費ー特別控除額(50万円) | 分離課税 |
譲渡所得 | 総収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー特別控除額 | 分離課税(土地建物・株等) 総合課税(上記以外) |
一時所得 | (収入金額ー収入を得るための費用ー特別控除額(50万円))×0.5 | 総合課税 |
雑所得 | 公的・退職年金=年金収入ー公的年金等控除 その他=収入金額ー必要経費 |
総合課税 |
総合課税と分離課税の申告税額はそれぞれ以下の式のとおり。
【総合課税】
申告税額=課税総所得金額×税率ー税額控除ー源泉所得税額
【分離課税】
申告税額=各所得金額×税率ー税額控除ー源泉所得税額
総合課税は対象となる所得を全て合計するが、分離課税は所得ごとに税額を計算するという点で異なる。
また、総合課税は所得が上がるごとに税率が上がる「累進課税制度(参考:国税庁サイト)」がとられているが、分離課税は所得の種類ごとに税率が決まっている。
サラリーマンの税金
この項では、主にサラリーマンの税金に関係する内容について示す。
給与所得控除
サラリーマンの場合、原則としてスーツ代や交際費などの必要経費の控除はないが、それに類するものとして「給与所得控除」という控除枠が設けられている。
令和2(2020)年以降の給与所得控除額は以下の表のとおり(参考:国税庁サイト)
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
162.5万円以下 | 55万円 |
162.5万円超180万円以下 | 収入金額×40%ー10万円 |
180万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円 |
先述のとおり、サラリーマンには原則として必要経費の控除はないが、例外として、給与の支払い者が証明した特定支出(下記)のうち、給与所得控除額の2分の1を超える部分については、給与総額から控除することが認められている。
控除したい場合には、確定申告書の所定欄に特定支出の合計額を記入して、それに関する明細書と会社からの証明書(様式は国税庁サイトに掲載)、支払い事実を証明する領収書を添付する。
特定支出の種類(補助された金額は除く)
通勤費 | 一般の通勤者として、通常必要と認められる通勤のための支出 |
転居費 | 転任や転勤にともなう転居のために通常必要と認められる引っ越し費用など一定の支出 |
研修費 | 職務の遂行に直接必要な技術または知識を習得することを目的として受講する研修費用 |
資格取得費 | 職務の遂行に直接必要な資格を取得するための費用 |
帰宅旅費 | 単身赴任などの場合で、勤務地と自宅の間の旅行のために通常必要な支出と職務上の旅費 |
勤務必要経費 | 職務の遂行に直接必要と認められる図書費、衣服費、交際費等(限度65万円) |
所得控除
扶養家族の人数や病気・災害などを考慮した様々な控除が存在し、それらをまとめて「所得控除」という(下表内のリンクは全て国税庁サイト)
種類 | 対象 | 控除額 |
基礎控除 | 本人所得が2,500万円以下 | 48万円(所得2,400万円以下) 32万円(所得2,450万円以下) 16万円(所得2,500万円以下) |
配偶者控除 | 配偶者の所得が48万円(年収103万円)以下 | 本人所得次第で 最大38万円(配偶者70歳未満) 最大48万円(配偶者70歳以上) |
配偶者特別控除 | 配偶者の所得が48万円超133万円(年収103万円超約201万円)以下 | 本人所得次第で 最大38万円 ※配偶者控除との重複は不可 |
扶養控除 | 所得が一定金額以下の満16歳以上の親族等 | 38万円(16~18歳) 63万円(19~22歳) 38万円(23~69歳) 48万円(70歳~) ※同居老親等は+10万円 |
障害者控除 | 本人、控除対象配偶者、扶養親族が障害者 | 27万円/人 ※特別障害者は40万円/人で、同居の場合は+35万円 |
一定のひとり親・寡婦 | 35万円(ひとり親) 27万円(寡婦) |
|
勤労学生控除 | 所得が一定以下の勤労学生 | 27万円 |
医療費控除 | 本人、配偶者、扶養親族等のために支払った医療費※ | (支払い医療費ー補填金額)ー(10万円と所得の5%のどちらか少ない額) |
社会保険料控除 | 本人、配偶者、扶養親族の健康保険料、年金保険料、介護保険料 | 支払った全額 |
小規模企業共済等掛金控除 | 第一種共済契約の掛金、心身障害者共済掛金、個人型確定拠出年金 | 支払った全額 |
生命保険料控除 | 本人、配偶者、扶養親族を受取人とした生命保険料、個人年金保険料、介護医療保険料 | 最高12万円 |
地震保険料控除 | 居住用家屋、動産などにかけた地震保険料 | 最高5万円 |
寄付金控除 | 特定寄附金※ | (支払額と所得の40%のどちらか少ない額)ー2,000円 |
雑損控除 | 災害、盗難、横領などにより生活用資産などに受けた被害※ | (損失額ー所得の10%)と(損失額のうち、災害関連支払額ー5,000円)のどちらか多い額 |
住宅ローン控除 | 住宅ローンでマイホーム取得・増改築した人のうち、一定の要件を満たした人※ | 40万円と年末残高等×1%のどちらか少ない額 ※消費増税やコロナの影響で期間や控除額に変動あり |
※確定申告が必要(サラリーマンは住宅ローン控除については最初の年のみ要確定申告)
なお、ある年の人的異動(配偶者や扶養親族、その年齢)の有無の判断はその年の12月31日に行われるため、例えば配偶者控除の対象となる場合だと、結婚は年内に、離婚は年明けを待ってからした方が得だし、70歳以上が要件の場合は、早生まれの人はそうでない人に比べて要件を満たすのが1年遅くなる。
非課税とされる給与
政策上や課税技術上の見地から、非課税とされる給与は以下のとおり。
項目 | 金額(要件) |
通勤手当 | 合理的な額かつ15万円/月まで |
旅費 | 通常必要と認められる出張旅費や転勤・転任などにともなう転居費用 |
福利厚生費 | 会社で定めた基準内で、社会常識の範囲内(4泊5日以内かつ全社員の50%以上参加なら海外旅行費も可) |
宿日直料 | 4,000円/回まで(食事付きの場合は食事代を控除) |
交際費 | 会社の業務のために支出した額 |
結婚祝金 | 社会通念上の金額の範囲内 |
葬儀料、香典、見舞金 | 社会通念上の金額の範囲内 |
休業補償 | 労働基準法等の規定による療養の給付や休業補償額 |
学資金 | 業務遂行上の必要性、技術の習得などが目的の場合 |
在外手当 | 海外勤務地の物価、生活水準、生活環境、為替相場等の状況により、国内勤務地との差額を補う部分 |
副収入があった場合の確定申告の要否
サラリーマンには源泉徴収・年末調整があるので、基本的には確定申告は必要ないが、副収入があり、それによる所得金額(=副収入ー必要経費)の合計額が20万円を超える場合には確定申告が必要となる。
所得の種類はサイドビジネスの内容によって様々だが、主な例を以下に示す。
- 会社外でのアルバイトなど→給与所得
- (本業ではない)原稿料、講演料、オークションなどの取引、配達など→雑所得
- 土地や建物などの貸付による賃貸収入→不動産所得
住民税について
所得税と並んで身近な税金が住民税(厳密には「都道府県民税」と「市町村民税」)は、所得に応じて課税される「所得割」と、所得に関わらず等しく負担する「均等割」の合計額となっている。
所得割額の計算式は以下の計算で求められる。
(前年の総所得金額等ー所得控除額)×税率ー税額控除額
上記のとおり、所得割額の計算は所得税の計算とほぼ同じだが、住民税は前年の所得に対して1月1日の住所地で課税されるため、新入社員など、前年に所得がない人は1年目は住民税がかからないし、退職した人でも前年に所得があれば住民税はかかることになる。
中途退職について
年の途中で退職した場合は、年末調整が受けられないので、各種控除が手続されていない。
つまり、源泉徴収で税金を払いすぎていることがほとんどなので、確定申告を行えば税金が還付される可能性が高い。
なお、雇用保険法による失業給付は、非課税所得のため、確定申告手続をする必要はない。
不動産にかかる税金
不動産取得税
土地や家屋の購入、家屋の新築・増築・改築などの際には不動産取得税がかかる。
計算式は以下のとおり。
不動産取得税額=(不動産の価格ー控除額)×税率
「不動産の価格」は、固定資産課税台帳の登録価格であって、実際の購入費用や建築工事費ではない。
新築されたばかりなど、固定資産課税台帳に登録されていない場合には、固定資産評価基準に基づき都道府県知事が価格を決定する。
控除額は、「特例適用住宅」の場合は1,200万円/戸、それ以外は新築された日に応じて最大1,200万円。
また、一定の特定認定長期優良住宅については控除額が1,300万円となる。
印紙税
売買契約書や賃貸契約書、売却代金にかかる領収書には印紙税がかかる。
印紙は、郵便局や郵便切手類販売所などで売っているものを買って課税文書に貼り、消印をすれば良い。
印紙を貼り忘れていたり、消印がなかったりすると、印紙税額とその額の2倍との合計金額の過怠税がかかるため注意。
登録免許税
各種の登記、登録等を受ける際には登録免許税がかかる。
納付義務があるのは、登記等を受ける人(たち)。
課税標準は、金額を課税標準とするものと、件数や個数などの数量を課税標準とするものの2種類がある。
固定資産税と都市計画税
毎年1月1日時点で土地や家屋を所有している人に課税される。
どちらも計算式は次のとおり。
課税標準額×税率
- 固定資産税の住宅用地における課税標準特例措置
- 新築住宅に対する固定資産税の軽減措置
- 住宅のバリアフリー改修に係る固定資産税の特例措置
- 省エネ改修工事に係る固定資産税の特例措置
- 住宅耐震改修に伴う固定資産税の特例措置
といった各種措置があるので、課税地(市町村または都)のサイトなどを見て調べるのがおすすめ。
売却にかかる税金
不動産を売却した際の譲渡所得に対しては、所得税や住民税がかかる。
譲渡所得の金額計算は以下のとおり。
譲渡所得の金額=譲渡による総収入金額ー土地・建物などの取得費ー譲渡費用
土地・建物を売った年の1月1日現在で、所有期間が5年以下なら短期譲渡所得、5年超なら長期譲渡所得に分類され、それによって税率も変わる。
所得税率 | 住民税率 | |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
また、譲渡の内容に応じて以下のような特別控除が適用される(重複する場合は5,000万円が限度)
内容 | 控除額 |
居住用財産の譲渡 | 譲渡所得の金額から3,000万円 |
収容交換等による譲渡 | 譲渡益の金額から5,000万円 |
特定土地区画整理事業等のための土地の譲渡 | 譲渡所得の金額から2,000万円 |
特定住宅地造成事業等のための土地の譲渡 | 譲渡所得の金額から1,500万円 |
売却についても各種控除や買換えの特例などの措置が多い。
相続・贈与にかかる税金
相続税の計算
相続税の計算は次のようなステップで行う。
- 課税価格の合計=相続財産+みなし相続財産(※)ー債務控除ー葬式費用
- 課税遺産総額=課税価格の合計ー基礎控除額
- 各相続人の法定相続分に応じた取得額=課税遺産総額×民法に規定する相続人の相続分
- 相続税の総額=各相続人の法定相続分に応じた取得額×相続税の税率
- 各相続人の相続税額=相続税の総額×(各人の課税価格/課税価格の合計額)
- 納付する相続税額=各相続人の相続税額ー各種軽減・控除+1親等・配偶者以外の相続人の2割加算
※被相続人の死亡に起因して取得した財産(生命保険金や退職手当金など)
式で書くと複雑だが、要するに、法定相続分で分けたと仮定して各人の相続税額を算出し、それらの総額を実際の相続割合で按分するということである。
各種軽減・控除
次のような軽減措置や税額控除がある。
種類 | 控除・軽減額 |
贈与税額控除 | 被相続人から死亡前3年以内に受けた贈与に由来する贈与税額 |
配偶者の税額の軽減 | 法定相続分相当額か1億6,000万円のどちらか多い額 |
未成年者控除 | (20(令和4年4月からは18)歳ー相続開始の日の年齢(端数切り上げ))×10万円 |
障害者控除 | (85歳ー相続開始の日の年齢(端数切り上げ))×10万円(特別障害者なら20万円) |
相次相続控除 | 前回(10年以内)に払った相続税のうち全部または一部 |
外国税額控除 | 外国にある相続財産に対してその国で課税された一定の金額 |
まとめ
各種税金について、詳細かつ丁寧に解説された1冊だった。
特にサラリーマンに関係する税金についてはかなり分かりやすいと感じた。
一方、相続税のみに焦点を絞るなら、以前に紹介した『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』の方が分かりやすいと思われる。
まとめの都合上、本記事では割愛した内容も多くあるので、より詳細に知りたい方には手にとってみることをおすすめしたい。
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