2022年3月に初版が発行された本。
著者の前田鎌利氏は、年間200社を超える企業に対して、プレゼン研修、資料作成、コンサルティングなどを行ってきた人物。かつて在籍していたソフトバンクモバイル株式会社(元ソフトバンク株式会社)では、孫正義社長に対して直接プレゼンを行った経験もある。
本書は、パワーポイントを用いて、社内向けの資料を作るポイントについて解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて200ページ弱。画面のスクリーンショットや図が数多く用いられており、初心者でもわかりやすい本となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
社内プレゼンのポイント
社内プレゼンの一番のポイントは「決裁者の理解・納得を得る」ことである。
社内プレゼンのプロセスは次の5つ。
- アイデアを考える
- プレゼンをする
- 決裁者の理解・納得を得る
- 決裁者が意思決定する
- 組織として実行する
このプロセスでカギとなるのが3のステップ。ここがきちんと押さえられていれば、他のプロセスもスムーズに回る。「自分の発表」より「相手の理解」を念頭に置くことが重要になる。
資料の5つのパーツ
まず、スムーズな理解・納得を得るため、テーマは1プレゼンにつきひとつに絞るのが鉄則。
プレゼン資料の全体像は以下のとおり。
- 表紙
- サマリー
- ブリッジ・スライド
- 本編スライド
- アペンディックス
表紙
表紙は必ず作成する。
13文字以内の短いタイトルを中央に大きく表示する。タイトルの左上に会議名、真下に発表日の日付を入れる。
サマリー
全体像を把握してもらうため、表組みで「現状」と「提案」の内容が一覧できるようにまとめる。シンプルなプレゼンでは、サマリーは省略してもOK。
ブリッジ・スライド
次の話題への架け橋となるスライドで、トピック(例:「現状報告」「改善案」)を羅列、直後のトピック以外を薄字にしておく。トピックが変わる直前に配置する。
ブリッジ・スライドもサマリーと同じく、シンプルなプレゼンでは省略可。
本編スライド
5~9枚のスライドで現状報告(課題・原因)と提案(解決策・効果)をまとめる。少ない枚数でまとめるため、本編に盛り込むのは最も説得力のある要素のみ(残りはアペンディックスへ回す)
ストーリーは次のテンプレで統一し、各フェーズで「根拠→結論」の流れを示す。
なお、解決策はあえて「方向性は同じだが細部が異なる2案」を提示し、メリットとデメリットを示した上で「こちらを押します」というプレゼンを作り、最終的に(形式上)決裁者に選んでもらうという形を取ると採択率が上がるというテクニックがある。
アペンディックス
本編スライドに盛り込めなかったデータや、補足説明に必要なデータをストックした資料集。
プレゼン後の質問・疑問への回答に使うものなので、量の制約はない。あらゆる質問を想定し、それに答えられるだけの資料を用意しておく。本編ではないので、見栄えに関する加工は最低限でOK。
準備
資料作成で、いきなりPowerPointなどのプレゼンソフトを立ち上げるのは悪手。まずは紙とペンを使って情報を整理する。以下のような表形式のフォーマットが有効。
結論 | 根拠(データ) | ビジュアル | |
課題 | |||
原因 | |||
解決策 | |||
効果 |
上記の内容を1人で詰めたら、上司や先輩に見せて意見を貰う。さらに、可能であれば関係部署のスタッフ(7±2人)を集めてブレスト、それが無理であれば個別に回って確認してもらう機会を設け、内容をブラッシュアップする。
上記が済んだら、スライドのプロットを作る。この段階では具体的なグラフや画像を貼る必要はなく、どのスライドにどんな内容を盛り込むのか、テキストで書き込んでおくだけで十分。
必須事項
プロットが完成したらスライドを作り込むが、その前に絶対に確認しておかなければならない3つのポイントがある。
- 本当に利益を生み出すのか(コストと売上・収益予測)
- 実現可能性(関係する現場部署にあらかじめ確認)
- 経営理念との整合性(プレゼンに盛り込む必要はないが、必ず確認)
以後は具体的なテクニックやルールについて解説する。ただし、紹介しているのは一般的なテクニックであり、企業文化によって型が決まっている場合にはそちらを優先すべき。
スライドサイズ
プリントアウトして渡すことが多かった時代は「4:3」が主流だったが、近年「16:9」が主流になりつつある。どちらが正解というのはないので、企業文化に合わせて選ぶ。
ページ番号
ページ番号はスライドの中央下ではなく右下に入れる。社内プレゼンのスライド枚数は少ないので、いちいち「該当ページ/全体ページ数」の表記をするのではなく、該当ページ番号のみを載せる。
キーメッセージ
- スライド中央よりやや上に配置する
- 長さは最大でも13文字
- 「~のための」「~による」「~について」といった平仮名をカット
- 口頭補足すればいい付随的要素をカット
- 必要に応じて「13文字以内のキーメッセージ」+「40文字以内の箇条書きの詳細」構成を利用
- キーメッセージをつなぐマークは矢印(↓)ではなくグレーの三角形(▽)を使う
色
- 1枚のスライドに使って良い色は3色まで
- ポジティブな情報は青、ネガティブな情報は赤で統一
- 事業フローは青のグラデーションで示す
フォント
- キーメッセージはHGP創英角ゴシックUB(PowerPoint)、ヒラギノ角ゴStdN(Keynote)、メイリオ(両者併用の場合)
- キーメッセージ以外はMSPゴシック、ヒラギノ角ゴProN、メイリオ
- オンラインプレゼンのキーメッセージのフォントサイズは70~100(会議室でスクリーンに投影するなら200もあり)
棒グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- グラフタイトルはスライドの左上
- 基本は縦棒、アンケート結果は横棒グラフ
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 罫線は不要
- 単位(桁数)をわかりやすくする(例:千円→万円)
- 目盛りなどの数字表記は極力削る
- 青/赤の太い矢印で増減を強調
- 伝えたい数値のフォントを大きくしたり、色を青/赤に変更
- 伝えたい数値の棒だけ色を青/赤に変更
- 余計なデータ(下位項目)はカットし、詳細グラフをアペンディックスに用意
円グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 強調したい部分(大体自社の部分)だけカラーにし、残りの部分はグレーのグラデーションにする
- 強調したい部分を円グラフ本体から切り出して、少しズラす
- 強調したい数字は円グラフの右にキーメッセージとして表示(色をグラフと合わせる)
- 構成比をブレイクダウンするときは円ではなく棒グラフを使う
折れ線グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 余計な数字、罫線、目盛り、凡例はカット
- 折れ線グラフの途中の数字はカット
- 最新の数字のみを折れ線のお尻に表記(伝えたい数字だけ大きく、色も変える)
- 見せたい折れ線のみ極太にする
データ
- Googleの「ツール」から、「1年以内」を指定して検索
- 画像検索を用いて、使いたいグラフに目星をつける
- データの信頼性に注意(公的機関、大手リサーチ会社のデータを優先)
- 権利関係に留意
写真
- 決裁者の理解を助ける写真のみ使用
- 共感を得るための写真は逆効果
- モデル写真は美形のモデルではなく親しみの持てるモデルの写真を使用
- 国内企業なら外国人モデルの写真はNG
- イラストは使わない
アニメーション
- 原則不要
- 目線を確実に誘導するなど、効果的な場合にのみフェード(ディゾルブ)・変形(マジックムーブ)を使用
- 変形(マジックムーブ)は遅延が生じやすいのでオンラインプレゼンには不向き
- アニメーションの代わりに、Zoomなどのペン機能を使いながらのプレゼンで、決裁者の目線を誘導
決裁者のタイプ別対策
タイプ | 例 | 対策 |
論理型 | 経営企画、管理会計、マーケティング、技術、システム部門出身者 |
|
堅実型 | 顧客対応部門、技術・システム部門出身者 |
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独創型 | 広告、デザイン、営業出身者 |
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感覚型 | 営業出身者 |
|
1分バージョン
通常の社内プレゼンは3~5分だが、決裁者は多忙なため、「時間がないから手短に」と、いきなり指示されることもある。それに備えて1分で終わるプレゼン資料も準備をしておく。
ただし、0から作るわけではなく、3~5分を想定したスライドの順番を並べ替えるだけで良い。
通常(3~5分) | 課題→原因→解決策→効果 |
時短(1分) | 解決策→効果→原因 |
課題については既に決裁者が把握していることが多いため、スライドはカットし、口頭で補足。場合によっては原因部分もできるだけカットする。
まとめ
社内プレゼンについて、決裁を得るために効果的なテクニックが詳細に解説された1冊だった。
当ブログでは、以前に『【完全版】社外プレゼンの資料作成術』をご紹介したが、そちらが社外の人の感情を動かすために、ビジュアルに寄ったテクニックが数多く掲載されているのに対し、今回は社内の人をどれだけ説得できるかに焦点を絞っており、細部が異なる技術が紹介されている。両方を読むことで、社内外のプレゼンの違いがより正確に分かるようになる。
本記事では割愛したが、書籍内では画面のスクリーンショットが豊富に掲載されているため、内容が非常に理解しやすい。そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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