2022年7月に初版が発行された本。
著者の前田鎌利氏は、年間200社を超える企業に対して、プレゼン研修、資料作成、コンサルティングなどを行ってきた人物。かつて在籍していたソフトバンクモバイル株式会社(元ソフトバンク株式会社)では、孫正義社長に対して直接プレゼンを行った経験もある。
本書は、パワーポイントを用いて、社外向けの資料を作るポイントについて解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて200ページ弱。画面のスクリーンショットや図が数多く用いられており、初心者でもわかりやすい本となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
社内外のプレゼンの違い
社内 | 社外 | |
問題意識 | 共有あり | 共有なし |
目的 | 決裁 | 契約・次のアクション |
条件 | シンプル+ロジカル | シンプル+ロジカル+感情 |
全体構成 | 課題→原因→解決策→効果 | ①課題→原因→解決策→効果 ②共感→信頼→納得→決断 |
所要時間 | 3~5分 | 3~5分 |
資料枚数 | 5~9枚 | 30~50枚 |
テキスト | 少なく | 極めて少なく |
ビジュアル | 少なく | 多く |
エフェクト・アニメーション | 少なく | 多く |
社内と社外のプレゼンは上記のような違いがあるが、重要なのは、社内プレゼンの相手は問題意識・願望を共有している身内であるのに対し、社外プレゼンの相手はそうではないという点。
社外プレゼン、特に初回プレゼンでは、まずプレゼンに興味を持ってもらうということが大切になる。つまり、相手に興味を持たせ、飽きさせないようにする(=感情にアプローチする)工夫が必要。
相手本位
相手に興味を持ってもらうためには、相手の課題を正確に把握し、その課題に対する解決策を提案することが大切。それによってプレゼンは相手にとっても他人事ではなくなる。
相手が誰で、どんな課題があるのか、相手の立場になって徹底的に考えなければならない。社外プレゼンで一番大切なのは、相手本位になって考えることである。相手によって課題は変わるのだから、全く同じパワポを使いまわしてはならない。
なお、様々な特性を持った人が来る説明会では、できるだけ多くの参加者が関心を持つテーマにフォーカスする。
4つのパート
プレゼンは次の4パートで構成する。
全体構成①との対応 | 全体構成②との対応 | |
1.イントロダクション | 課題、原因 | 共感、信頼 |
2.ボディ | 解決策、効果 | 信頼、納得、決断 |
3.エンディング | – | 納得、決断 |
4.アペンディックス | – | 信頼、納得、決断 |
イントロダクション
「表紙」と「つかみスライド」から構成される。
表紙は必ず作成する。13文字以内の短いタイトルを中央に大きく表示する。
つかみスライドは聞き手の興味・関心をつかむためのスライド。後述のテクニックを使い、相手をプレゼンに引き込むための最初の勝負どころと言える。
ボディ
ボディは最も多くのボリュームがあるパート。ここで、相手の課題に対する解決策を提示し、それによって得られる具体的な効果・メリットを連打する。繰り返しになるが、相手本位のスライドを作ることが重要。
エンディング
通常の社外プレゼンの場合は、このパートは1枚のスライドで十分(既に見知った営業先であれば不要)。ただし、枚数が少なくてもこのパートは重要で、スライドで表現する「念い」や「理念」が、それまでのパートと一貫していなければならない。
アペンディックス
このパートは、プレゼン本編ではなく、質疑応答で必要に応じて相手に見せる。本編スライドは極力シンプルにすべきなので、盛り込めなかったデータや補足説明に必要なデータ、数値の根拠等は、アペンディックスとしてストックし、相手の疑問に的確に答えられるようにしておく。
なお、一方的なプレゼンは3~5分で終わらせ、残りは質疑応答などの双方向コミュニケーションに充てる。「話す」ことよりも「聞く」ことのほうがむしろ大切。相手は「話をしっかり聞いてくれた」という満足感を覚えるので、次のアポイントにつなぎやすくなるし、相手の話から「課題」や「ニーズ」を深く知ることができる。
準備
資料作成で、いきなりPowerPointなどのプレゼンソフトを立ち上げるのは悪手。まずは紙とペンを使って情報を整理する。以下のような表形式のフォーマットが有効。
結論 | 根拠(データ) | スライドのアイデア | |
課題 | |||
原因 | |||
解決策 | |||
特徴 | |||
効果 |
以後は具体的なテクニックやルールについて解説する。
スライドサイズ
プリントアウトして渡すことが多かった時代は「4:3」が主流だったが、近年「16:9」が主流になりつつあり、その流れは加速するだろう。ハイビジョン対応モニターなどを使う場合などは「16:9」が望ましい。スライドの使い方や会場によって使い分けるべき。
また、いずれのサイズにしても、スライド全体でダイナミックに表現するのが原則。そのため、会社のロゴや飾りは途中のスライドには入れないようにする。説明会など、前の部分に戻る機会がないプレゼンでは、ページ番号も不要。入れる場合にも中央下ではなく右下に入れる。
表紙
- タイトルはできるだけ短く(最大でも13文字)
- タイトルは文章ではなく単語をつなげる
- タイトルはど真ん中に配置する
- 視覚に訴える写真を必ず入れる
- 写真がタイトルを邪魔する場合はトリミングなどを使ってスペースを作る
- 左上には営業先企業名(株式会社○○御中)を入れる
- 右下に日付と自社名を入れる
- 自社名は必ずロゴを使用する
キーメッセージ
- 長さは最大でも13文字(短いほど良い)
- 「~のための」「~による」「~について」といった平仮名をカット
- 「~の」「~を」などの助詞をカット
- 「約」など、口頭補足すれば良い内容をカット
- 感情を表す言葉や数字でインパクトを与える
- スライド中央よりやや上に配置する(プレゼンを通じて1,2回、テーマが変わる際に下に配置してアクセントをつけるのはあり)
- キーメッセージをつなぐマークは矢印(↓)ではなくグレーの三角形(▽)を使う
色
- 1枚のスライドに使って良い色は3色まで
- ポジティブな情報は青、ネガティブな情報は赤で統一
- モノクロ写真にワンカラーのキーメッセージを乗せるとインパクト大
フォント
- キーメッセージはHGP創英角ゴシックUB(PowerPoint)、ヒラギノ角ゴStdN(Keynote)、メイリオの太字(両者併用の場合)
- キーメッセージ以外はMSPゴシック、ヒラギノ角ゴProN、メイリオ
- 上記以外にも商品やサービスの特性を考慮して丸ゴシック体や明朝体を使うこともあるが、その場合でも基調となるフォントは1種類にする
- ネガティブ情報は「HGP明朝Eの太字+赤字」にするとインパクト大(モノクロ写真と組み合わせると更に効果的)
- オンラインプレゼンのキーメッセージのフォントサイズは100~200(大きな会場での講演などなら300もあり)
棒グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 罫線は不要
- 単位をわかりやすくする(例:千万円→億円)
- 目盛りなどの数字表記は極力削る
- 青/赤の太い矢印で増減を強調
- 伝えたい数値のフォントを大きくしたり、色を青/赤に変更
- 伝えたい数値の棒だけ色を青/赤に変更
円グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 強調したい部分(大体自社の部分)だけカラーにし、残りの部分はグレーのグラデーションにする
- 強調したい部分を円グラフ本体から切り出して、少しズラす
- 強調したい数字は円グラフの右にキーメッセージとして表示(色をグラフと合わせる)
折れ線グラフ
- グラフは左、メッセージは右に配置(上下に並べる場合にはメッセージが上)
- 1スライド1グラフ(2種類以上重ねない)
- 余計な数字、罫線、目盛り、凡例はカット
- 折れ線グラフの途中の数字はカット
- 最新の数字のみを折れ線のお尻に表記(伝えたい数字だけ大きく、色も変える)
- 見せたい折れ線のみ極太にする
図解スライド
基本パターンは以下6つ
- 基本型(関係図)
- フロー型
- サイクル型
- サテライト型
- ツリー型
- マトリックス型
基本型
2つの事柄の関係性、因果関係、プロセスなどを表現する、最も使用頻度の高い図解。両者をつなぐマークを変えることで協力関係や対立関係も表現可能。
フロー型
左から右へと、プロセスを時系列で示したり、論理の流れなどを表現する。
サイクル型
「PDCAサイクル」のように、循環するプロセスや論理展開を表現する。要素は3~5個に絞る。
サテライト型
何らかの関連性のある要素を表現する。要素は3つに絞る。
ツリー型
ひとつの事柄を要素に分解するときに使う。組織図などでも。
マトリックス型
競合と比較した際の自社の優位性を示すのに使う。AとBが優位になるようにし、自社をマトリックスの右上にプロットする。
よく使われる比較基準は以下の4つ。No.2以下は訴求力が弱いので、ジャンルを絞るなどして、自社がNo.1となる比較基準を使う(例:業界シェアNo.1でない場合には女性シェアNo.1を押す)
- 価格・コスト
- 時間・期間
- 利便性
- 顧客アンケート
なお、比較の際、他社の名称は伏せておく(「A社」などとする)のが無難。また、質問された際に示せるように、根拠となるデータをアペンディックスに持っておく。
写真
- 全画面(上下左右に余白がないように)が基本
- プレゼン相手に応じて響く写真を使い分ける
- 1000px✕1000px以上の画質の写真を使う
- ネガティブならモノクロ(+赤明朝)、ポジティブならカラー(+青ゴシック)を使う
- セピア色は感情を深める効果がある
- セピア色→カラー(モノクロ)への以降で、過去→現在の時間経過を示せる
- 人物や商品だけを切り抜いて使いたい場合は「背景の削除(Keynoteなら「インスタントアルファ」)」機能を使う
- 素材を購入するなら、「iStock」か「PIXTA」か「写真AC」
- キーメッセージが見えにくい場合は「透過機能」を使う(「帯透過」でもOK)
- 30~50枚に1~2枚程度の割合で多画像スライドを挟むのは効果的(特にエンディング)
- 多画像スライドの写真は、聞き手に親近感を持ってもらう写真を使う(人物写真なら年齢やライフスタイルが近い人の写真を使う)
つかみスライド
初回プレゼンや説明会などで、つかみに効果的な1枚目のスライドの型は主に4つ。
- 質問で入る
- 数字だけを載せて、「何の数字だと思いますか?」
- 聞き手の共感を呼ぶエピソード
- 度肝を抜くような宣言(問題提起)
※質問や数字は、相手の課題にまつわる「感情」を刺激するものを使う
ルート営業などで、既に関係構築ができている場合には以下のようなトピックをさらっとご紹介し、素早く本題に入るべき。
- 時事ネタ
- 雑談
- データ
- 業界トレンド
- 新サービス・新商品
- 進捗・実績
信頼を得るためのスライド
つかみスライドで共感を得たら、次の3つの型を駆使して聞き手の信頼を得る。
- 商品・サービス/会社/メディア掲載の実績をアピール
- 科学的根拠/著名人の推薦/利用者の声を示す
- 誠意を見せる(5年保証、効果がなければ返金します、など)
※相手と場合によって適切な型を使い分ける
動画
聞き手の納得を勝ち取るには、利用者の声を収録した動画が非常に効果的。通常の営業プレゼンでは、凝りすぎるとかえってリアリティが失われるので、スマホで撮った20~30秒の動画を自分で編集する程度で十分。
種類ごとの動画の挿入箇所、長さなどは次のとおり。
種類 | シチュエーション | 挿入箇所 | 動画の時間 |
アタックムービー | 株主総会やキックオフでワクワク感を出す | 冒頭 | 30~60秒 |
コンセプトムービー | セミナーやコンペでサービス・モノを印象付ける | 中盤 (概要説明後) |
30~90秒 |
手順・操作 | サービス・モノの具体的イメージを伝える | 中盤 (概要説明後) |
1~3分 |
導入事例 | セミナーや提案時 | 終盤 (説明後) |
20~30秒(3~5分のプレゼン) 2~3分(30分ほどの説明会) |
エンディングムービー | 株主総会やキックオフ | 最後 | 30~60秒 |
アニメーション
- 要所要所でアニメーションを多めに使用すると興味・関心をつなぎとめられる(使いすぎはNG)
- 大げさなアニメーションは慣れないうちは使わない
- フェードは目線を誘導するのに効果的
- ワイプは印象づけたい要所で使用する(メインで使うのはフェード)
- 変形はスライド移行時に目線を誘導するのに効果的(オンラインでは遅延が生じやすいので非推奨)
数字関連
- 「3」は心に響きやすいので、ポイントなどは極力3つに絞る
- 「キラーフレーズ(商品名など)」を設定し、資料と口頭で最低7回は繰り返す
- 数字を使う際には、差分、比率等の中から、できるだけインパクトが大きいものを選ぶ
- 「東京ドーム○個分」のように比喩を使う(非常に大きな数字なら、検索すれば比喩にちょうどよい物が見つかる)
- 掛け算や足し算の公式/数式を示す(わかりにくい式はNG)
まとめ
社外プレゼン、特に初回のプレゼンについて、聞き手を惹き付け、効果的に商談などを進めるテクニックが非常に詳しく解説された1冊だった。
前田氏の著作として、当ブログでは以前に『パワーポイント最速仕事術』をご紹介したが、そちらが社内/社外どちらにも対応した内容であるのに対し、今回は社外に特化しており、ページ数も少なく、よりピンポイントなニーズに答えられる内容となっている。
本記事では割愛したが、書籍内では画面のスクリーンショットが豊富に掲載されているため、内容が非常に理解しやすい。そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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