2019年7月に初版が発行された本。
著者のサーシャ・バイン氏はテニスコーチとして、セリーナ・ウィリアムズ選手、ビクトリア・アザレンカ選手らと仕事をしてきた。
近年では、大坂なおみ選手と組み、四大大会連続優勝、世界ランキング1位を達成している。
本書は著者初の書籍で、大坂なおみ選手らとのエピソードを交えながら、心を強くし、人生の困難に立ち向かうための方法について、50のルールを記している。
ページ数はあとがき等まで含めて250ページあまり。
特に専門用語等はなく、具体例が豊富であるため、誰にでも読みやすい書籍である。
50のルールは、そのほとんどがテニスに限らずあらゆる場面で実用的なものだったが、特に有用だと感じたものを以下にまとめる。
心は強くなる
すべてが願い通りに進むわけではない
世の中には思い通りにならないことがたくさんある。
その事実を受け入れると、平常心を保ち、集中力を持続させることができる。
大きな野心と小さな目標
まず大きな野心を抱き、それを必ず達成できると信じること。
これがなければ戦うモチベーションが湧かない。
そして、大きな野心を達成するために、日々積み重ねられる小さな目標を設定すること。
これによって持続するモチベーションを維持することができる。
とにかく、自分を信じて一心不乱に継続することが重要。
ボディーランゲージ
元気いっぱいのボディーランゲージを心がける。
これは敵に対するプレッシャーとなる効果もあるが、それよりも、自らの脳に影響を与え、ポジティブな思考に導くことができるのが大きい。
相手は常に自分を見ている。
付け入る余地を与えないために、表では弱気な態度を見せてはならない。
フォーカスと集中力
この2つはスキルの鍛錬に大切なこと。
なんとなくの練習に何の意味もない。
伸ばしたいポイントを徹底的に細かくフォーカスし、課題を十分に検討、その課題に最高レベルで集中することが「トレーニング」である。
我が道
他人の振舞いからインスピレーションを受けるのは悪いことではない。
ただし、盲目的に他人を真似るのは良くない。
その相手と自分は違う人間だからである。
他人に合う方法が自分に合うわけではない。
他人から良い部分を吸収しつつも、必ず自分に合ったアレンジを加えること。
失敗と苦戦
強くなるためには失敗や苦戦が必要である。
逆境から学ぶことは多く、それだけ成長の機会が多くあるということだ。
それは肉体的にもそうだし、メンタルでも同じことである。
完璧主義は捨てる
完璧主義は良くない。
改善の余地は尽きないから完璧になることはできない。
そうなると、完璧主義の人は永久に自分に満足できず、上手くいっていないことにばかり気を取られ、前進することができない。
リスク
ときには冒険に挑んだほうがいい。
人はコンフォートゾーン(快適な空間)に踏みとどまりがちだが、それでは世界は広がらないし、メンタルも行き詰まってしまう。
プレッシャーもストレスも手なづける
ルーティーン
大事なイベントに備えているとき、ルーティーンを守ることは、いつもと変わらないリラックスした気分に包まれ、最良のプレイを引き出すのに役に立つ。
ただし、環境や目標は時間が経つにつれて変わるもの。
ルーティーンもそのたびに見直したほうがいい。
プレッシャー
プレッシャーはつらいもの。
重くのしかかって、押しつぶされそうになる。
しかし、そもそもプレッシャーを感じるのは、人々があなたに期待しているからで、人々があなたに期待しているのはあなたが「できる人間」だから。
だからプレッシャーを感じるのはあなたが勝者である証であり、それはとことん楽しんでしまったほうがいい。
大きなストレスへの対処
大きなストレスにさらされたときに大切なのは、自分のモチベーションが何なのか、再確認すること。
「他人の期待に応えるためではなく、自分自身のためにやっているのだ」と思えば、メンタルを整えることができる。
そして、整えたらあとは自分の得意なスタイルで自分らしさを全面に出すことで実力を発揮できる。
日頃の決断
ここぞという場面でプレッシャーに負けないようにするためには日頃からプレッシャーに身をさらして鍛えておくのが良い。
日頃の決断であえて「面倒な方」を選んでおくことで、自然と心が強くなる。
決断を下すときには、自分を「外側」から眺めて、友人に助言を与えるような気持ちで考えると良い。
睡眠
睡眠の質は心身の健康に極めて大きな影響を持つ。
睡眠不足をアドレナリンで乗り切るような生活は、長期的には成長を阻む。
寝具には投資を惜しむべきではない。
怒り
怒りを外に出さないのは美徳というイメージがあるが、ときには怒りを発散した方がいい。
怒りを押し殺すと心にとどまり、思考を鈍らせる危険な存在になるからである。
怒りは恥ずかしいものではなく、人間として自然な感情である。
怒りを感じたら発散してしまって、すぐ気持ちを切り替える方がいい。
深呼吸
メンタルを切り替える一番シンプルで効果的な方法が深呼吸。
呼吸とメンタルには密接な関係がある。
不安を薄らげたいときには深呼吸を何回か繰り返せばいいし、逆に自分に活を入れたいときは、浅い呼吸を素早く何度か繰り返すといい。
ストレスから逃れる
大きなストレスを感じたら、いったん持ち場を離れるのも手。
例えばトイレに入ってドアを閉め、鏡に顔を写してみる。
「自分にはできる」と鏡に向かって語りかけながら、それまでの努力や意欲を思い出し、深呼吸して外に出よう。
感情の力を使う
結果よりもプロセス
結果で自分を判断すると、成長スピードは遅くなる。
結果を気にしないことでプロセスを楽しめる。
楽しめれば上達する。
結果よりもむしろ、日々の細々としたプロセスをきちんとこなせているかの方が大切である。
日記
日記に真っ正直に自分をさらけ出すことは、感情の整理に役に立つ。
将来読み返したときのエネルギー源にもなる。
自信
自信とは非常に移ろいやすいもので、一瞬の間に現れたり消えたりする。
そして、暗示をかけることで簡単に呼び出すこともできる。
例えば会議の前にトイレの鏡の前に立って、「自信がある」「怖いものなどない」と言うと、不思議と自信が湧いてくる。
世間との付き合いが深まると自信も深まるもの。
一番してはならないのは、自信を失った時に世間との交際を絶ってしまうことである。
自分ファースト
人生の勝者になりたければ、純粋に自己の利益だけを狙った決断を下さねばならないときもある。
そんなときに利己主義に走るのは悪いことではない。
ただし、自分にとって何が重要かという優先順位は胸に刻んでおくべきだし、他者に嫌われるかもしれないという心の準備はしておかなければならない。
ごめんなさい
謝罪は円滑なコミュニケーションには必須である。
しかし、謝罪しすぎるのは良くない。
悪いのは自分だという思考に染まり勝ちになり、自信を抱きにくくなったり、積極的な思考が妨げられたりするためである。
たくさんのプラン
たくさんのプランを持つべきである。
環境に応じて臨機応変にプランを変えていくと結果につながりやすく、マインドセットも柔軟になるし、その都度考えることで成長もできる。
想像力
将来の成功を想像すると、現実感が増して目標達成に役立つ。
また、不安を消してメンタルを落ち着かせる効果もある。
写真や動画を用いて、過去の成功を追体験するのも良い。
肉体を鍛える
シンプルだが、肉体と精神は密接に関係しているため、肉体を鍛えるだけでも自信が生まれる。
勝ち続ける
賞賛と名誉
賞賛や名誉はときに批判よりも有害となりうる。
浮ついた賞賛を真に受けると向上心が奪われてしまう。
自分の名声が高まったのは、自分が正しい方向に進んでいる証拠だ、くらいの控えめなとらえ方がちょうどいい。
ナンバーワン
トップに立っても、その人の思考法や世界観が突然変わることはまずないが、周りの状況はガラリと変わる。
たくさんの人が自分を蹴落とそうとして研究を重ね、ありとあらゆる挑戦をしてくる。
狙われたら、相手に認められた証拠だと思って自信を持ち、それに打ち勝つモチベーションとすれば良い。
嫉妬
嫉妬は悪とされがちだが、高みを目指すエネルギー源になるので、悪いものではない。
ただし、他人の動向にこだわりすぎると、「自分が持っていないもの」にばかり注意が向き、負のモチベーションが生まれてしまうので注意。
依存
依存は危険なもの。
何かに依存すると、それなしには実力を発揮できなくなってしまうからである。
だから、ルーティーンとして取り入れるものも、特定の必需品に頼らないものにしておくべき。
安売りしない
経済的な逼迫など、特別な事情がない限りは自分を安売りするべきではない。
自分の今までの努力、実績に対して正しい評価が与えられているのかを見定める。
妥協してはならない。
飽きる
どんな作業だろうと繰り返していればいつか必ず飽きが来る。
そのことをあらかじめ覚悟して、環境を変えたり、自分へのご褒美を準備するなどして乗り切ることが大切。
人生も「心の力」で動かせる
感謝
ごくささやかなものに対しても日頃から感謝することを忘れない。
今より多くを欲しがるのは人間の性ではあるが、足ることを知らなければ人は永遠に幸せにはなれない。
お金
お金は生きていくために必須ではあるが、お金を目的にするのはおすすめできない。
お金を稼ぐことだけをモチベーションにすると、決断ひとつひとつがお金に左右され、結果的には成功の妨げとなりうる。
巨額の報酬は将来の成功まで保証してくれるわけではないことを心に留めておくべき。
笑い
笑ったときは、幸福感を生むエンドルフィンというホルモンが分泌され、生産力が高くなる。
タイミングの良いジョークはストレスやプレッシャーを和らげてくれるし、共に笑い合えばチームの仲間意識を高めることにつながる。
勝ちたい
もちろん勝ちたいという気持ちは誰にでもある。
しかしその気持ちが強すぎるとかえって足を引っ張る可能性がある。
義務感が先立つほどになると、勝ちたいという気持ちが強すぎるので、「結果よりもプロセス」を思い出し、鼻歌でも歌ってリラックスするのが良い。
信頼
相手に信頼されたければ、まず相手を信頼すること。
特別な工夫はいらない。
相手に対してオープンになり、秘密を共有するだけでいい。
恐怖
「怖い」という感情は誰もが持つ自然な感情である。
不安をテコにすれば、難しいことも達成できるようになるのだから、恐怖をネガティブにとらえる必要はない。
ポジティブ
ポジティブな人生はポジティブな仲間が作ってくれる。
苦しいときにエネルギーを与えてくれる陽気な友人や、過去の楽しい思い出を蘇らせてくれる品々を大事にするべき。
まとめ
人生を豊かにするために心の持ちようについて、具体的に書かれたわかりやすい本だった。
具体例を飛ばして結論だけ知りたい場合は小見出しだけ読むのもいいし、内容部分ではセリーナ・ウィリアムズ選手や大坂なおみ選手との具体的エピソードも書かれているので、そちらに興味がある方はじっくり読み込むのをおすすめしたい。
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