2021年6月に初版が発行された本。
著者の夏嶋隆氏は、メディカルトレーナー/動作解析専門家で、多数のアスリートの指導経験を持つ。
本書は、日本人が、日常生活の中で、どのように体を動かせば疲れずにいられるかを、骨格や筋肉の構造の観点から網羅的に解説したものである。
ページ数はあとがきまで含めて約300ページ。疲れの場面や部位に応じた2~4ページほどの解説が集合した本のため、必要な部分のみを辞書のように調べるのに適した構成となっている。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
疲れない姿勢・動作のポイント4つ
ケースに応じた「疲れないコツ」は後述するが、それらのコツは基本的に以下の4つのポイントを元にして考えられている。
重力の負荷を減らす
人間の体は常に重力にさらされている。そのダメージを最小限に抑えるには、耳・肩・骨盤の中心・足が、地面と垂直な一直線上にある姿勢(真上から見たときの体の面積が最小となる姿勢)を取ればいい。
また、支持筋(体を支える筋肉)は、静止していると負荷がかかり続けるため、長時間同じ姿勢でい続けないことも大切。
ファイティングポーズを取る
作業をするときは、対象に正面から向かい合って棒立ちするのではなく、ボクシングをするときにように、足を開いて半身になり、膝を伸縮させて全身の力を使うと、一部分のみに負荷がかかるのを防げる。
人体の構造に即した足首・足指・手首の使い方をする
筋肉の負担を減らすため、以下のことに気をつける。
- 歩くときに足首を鋭角にしない
- 座るときに足指のつけ根を折らない
- 手を動かすときに手首を甲側に曲げない
遠位置を上手に動かす
人間が作業をするときに関わる部位は「近位置」「中間位置」「遠位置」の3箇所がある。近位置は実際に動かす場所、遠位置は力学上近位置の対角となる場所、中間位置はその途中。
例えば正面で右手を動かすとき、近位置は右手、中間位置は右肘、遠位置は右肩となるし、横側で動かすなら中間位置が右肘や右肩、遠位置は左肩となる。
作業をする際は、近位置のみ動かすのではなく、遠位置をリズミカルに動かすと、疲れにくい。
場面別の疲れないコツ
これまでに解説したポイントを踏まえ、以下では場面別の疲れないコツについて、特に重要なものをまとめる。
立つ
お尻に軽く力を入れ、肩を下げ、肩甲骨を背中の中心側に寄せる。拇指球(親指のつけ根)が靴底につかないように、足指を猫の足のようにして踏ん張り、肩幅程度に開いた足の中間に重心が来るようにする。
いわゆる「休め」の姿勢は体には悪い。休む際には、足を前後に開き、重心を定期的に動かすようにする。
歩く
左右の足の幅は骨盤の横幅と同じにする。足裏全体で着地し、足の指で地面を掴むようにする。後ろ足を引き上げる際は足首を伸ばす。重心は、着地している足の真上。
上り坂では、足を「逆ハの字」にし、骨盤を上下させて歩く。
下り坂では、骨盤を下げながらつま先から着地する。前傾姿勢にならないように注意。
階段では、左右の足を骨盤の横幅よりも開き、足裏全体で接地する。骨盤を引き上げて上ると同時に、背骨を使って、頭の位置を中心に保つ。下る時はつま先から接地する。
自転車
サドルの後方に坐骨で座る。サドルの高さは高めに。腰を丸めて乗り、ハンドルを握る手首はまっすぐにする。体重は後ろにかけ、ペダルはつま先で踏む。
坂道を走る際は、サドルをできるかぎり高くし、重心を後方に保ったまま、車体を左右に揺らして漕ぐ(タイヤのサイド面を使うイメージ)。
つり革
持つのではなく、中指と薬指の2本を輪に引っ掛ける。手首は伸ばす。
カバン
リュックサックが望ましい。
手提げタイプの場合は、腕を体に密着させ、手首を曲げず、手の甲をお尻につけて持つ。持つ手を定期的に入れ替える。買い物のバッグなども同様。
スマホ
「疲れない立ち方」をし、肘を胴体につける。手首は曲げずに、斜め前方向で操作する。
座る
【女性向け】
背もたれまで深く座り、両膝と両足首をそれぞれくっつける。膝の角度は鈍角にし、足裏全体を地面に置く。
【男性向け】
背もたれまで深く座り、両膝と両足首を開く。膝の角度は鈍角にし、足裏全体を地面に置く。
どちらの座り方でも、顔の位置は固定し、上半身は背骨を使って定期的に動かす。
あぐらはしない方がいいが、座敷などでやむを得ない場合には、お尻の下に座布団などを敷いて、足より腰の位置を高くする。
正座では、重ねたつま先が、右(左)が上のときは、左(右)の太ももに体重を載せるようにして、できる限りお尻に体重が載るようにするとしびれにくい。それでもしびれてしまったら、ふくらはぎの圧迫と緩和を繰り返して処理する。
デスクワーク
少なくとも1時間に1回は立ち上がる。キーボードやマウス操作で手首が反らないように、デスクや機器の高さを調整する。資料や本を読む際は、デスクの上に台などを置き、目の高さで、手首を伸ばした状態で読むといい。
料理
基本姿勢はファイティングポーズ。手元だけではなく、遠位置から動かすことを意識し、膝を柔軟に使って重力を利用する。
中腰の姿勢での食器洗いは、遠位置にあたる腰をフリフリ動かすと、疲れにくい。テーブルを拭くときも同様。
食事
噛むときは、両方の奥歯をバランス良く使うことを意識する。また、硬いものを積極的に食べる。
発酵食品(ヨーグルト、味噌、納豆、チーズ、キムチ、塩辛、麹など)と、食物繊維(海藻、コンニャク、オクラ、モロヘイヤ、メカブ、芋類、豆類、穀物など)を摂取して、腸活を促進する。
炭水化物は、冷めているものを食べたほうが、血糖値の急激な上昇を防げるので、午後のダルさを解消できる。
鶏肉や豚肉、サバ、カツオなどに多く含まれる「リジン」と「アルギニン」は、筋肉疲労の回復を速める。
メンタルを安定させるのに必要な脳内ホルモン「セロトニン」は、必須アミノ酸「トリプトファン」が材料となる。トリプトファンは、バナナ、大豆製品、乳製品に多く含まれている。
掃除機
「重力の負荷を減らす立ち方」をして、体よりやや後ろの横で掃除機を持つ。
睡眠
仰向け、横向きのどちらで寝ても対応できるように、枕の高さは2段階あるといい。中央が窪んでいる枕や、複数個の枕を使うようにする。
ベッドは壁際ではなく、部屋の中央に置くのがベスト。それができなくても、あらゆる光源をシャットアウトするように心がける。
寝ているときの姿勢がもしコントロールできるなら、ベストな姿勢は胎児のポーズ(腰を丸めて膝を折り曲げ、折り曲げた膝は揃える)。ただし、じっとしているのは負荷がかかるので、寝返りの回数は多いほうがいい。
重い荷物
重い荷物を持ち上げるときは、ファイティングポーズとなり、斜め前方に荷物を置いて、肩甲骨を使うイメージで持ち上げる。段ボールなど、四角い物は、立体の対角線を両手で持つと、効率的に持ち上げられる。また、運ぶときには、骨盤のでっぱりに段ボールを当てるようにして横で持つ。
要介護者
ベッドから起き上がらせる際には、要介護者の体の下、右の肩甲骨のあたりに自分の右手を置き、要介護者の右手を要介護者の左の骨盤の上に置くと同時に右手で要介護者の体を起き上がらせる(介護者が要介護者の左側に立っている場合)
ベッドから持ち上げる際には、要介護者の体の下、右の肩甲骨のあたりに自分の右手を置き、要介護者には体に抱きついてもらう。左腕で要介護者の両膝を奥側から抱え込み、腰を伸ばして立ち上がる(介護者が要介護者の左側に立っている場合)
ケガ人
意識のあるケガ人を運ぶ場合は、おんぶをすればいい。
意識がない場合には、ファイヤーマンズキャリー(消防士搬送)という方法が有効。うつ伏せにしたケガ人を抱き抱えて立ち上がらせ、ケガニンの脇の下に首を差し入れて肩に担ぎ上げる。さらに、ケガ人の片足と片腕を片手でしっかりロックする。
まとめ
日常生活のあらゆる場面で想定される疲れを最小限にする方法について、余すことなく解説された1冊だった。健康関連の説は書籍や専門家によって内容に多少のばらつきがあることが多いので、自分で実際に試してみて、合うと思ったものを採用すると良いだろう。
本記事では割愛したが、書籍では、イラスト付きで100個ものメソッドが解説されているので、すべてを把握したい方には、手にとってみることをおすすめしたい。
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