たった5分でわかる『ロスの精神科医が教える 科学的に正しい疲労回復 最強の教科書』

現代人にとって深刻な脳の疲労。
それを回復させ、パフォーマンスを上げる方法について書いた本。

全体で220ページほど。
さすがに医学博士が書いただけあって、その主張には論文等の裏付けがあり、説得力がある。
参考文献は100以上にも及び、様々な事例が紹介されている。

構成としてはシンプルに、脳に余裕(余白、スペースなどと本書では言っている)を生む方法→生まれたスペースを上手く使う方法、という流れ。

脳にスペースを作る

現代人はかつてないほど脳に負荷を負っている。
その原因は2つ。
1つはデジタル社会がもたらす情報過多、そしてもう1つは複雑化した社会がもたらすストレスである。

情報過多やストレスは、脳の様々な場所を稼働させ、疲弊させる。
使う場所を減らす(=脳にスペースを作る)ことによって、脳の疲労を回復させることが、脳全体のパフォーマンスを上げるための第一歩となる。

ネガティブ思考からの脱却

必要以上のネガティブ思考は過剰な不安感の原因となり、その不安が脳からスペースを奪い、疲弊させる。
それを防ぐためには、「モーター・イマジナリ」トレーニングが有効。
これは動きのイメージトレーニングで、スポーツでよく使われる楽観性のトレーニング。
もしくはスポーツ選手が試合に負けた後の楽観的で前向きなインタビュー映像を見るのも良い。

恐れは幻想

成熟した安全な社会においては恐れはむしろ不要なもの。
恐れを掌握することによって、脳のスペースを増やす。

カリフォルニア大学のダイアナ・ウィンストンによれば「私たちが心配していることの9割は起きない。そして残りの1割がもし起きても、これに対処できない確率はさらにその1割だ」

実際、かつて心配してきたことを乗り越えてきたから現在の自分があるわけで、ほとんどのことはどうにかなるのである。

笑顔による記憶や感情の操作

人は今の気分と同じ気分だったときの記憶を思い出す傾向がある。
これを心理学的には「ムード・コングルエント・メモリー」という。

これを利用すれば、今の気分を明るくすることによって、良い記憶を意識的に呼び起こすことができるというわけだ。

気分を明るくするには、単純に口角を上げるだけでも良いし、幸せだった瞬間を思い出すのも良い。
ちなみに僕個人は、SNSで見かけた笑える動画を保存しておいて、気分を上げたいときに見ることにしている。

不完全主義

完全主義ではなく、不完全主義を宣言すること。
完全主義は常に右肩上がりを求められた時代の社会の負の副産物であり、それを求めすぎると脳が全力稼働し、バーストしてしまう。
「まいっか」と言い聞かせて無理をしないことで脳を鎮める。

プライムタイムの把握

いくら不完全主義で行くとはいっても、社会の一員として生きている以上、ある程度の成果は求められるというもの。
ならば、せめて最小の努力で同じ成果を上げたい。

そこで、自分がベストを出せる時間帯(プライムタイム)を把握し、その時間帯に大事な予定をセットすることによって、最大限の成果を出すことを目指す。

複数の研究が示す一般論では、大体の人は午前中には気分が高まり、午後はネガティブになりやすいらしいが、個人差があるので、アプリ等を使って自分ならではのプライムタイムを把握しておく方が良い。

仕事から距離を取る

多くの人にとって、仕事は生活していくためにやらざるを得ないものであり、同時に莫大なストレスの温床でもある。
仕事中だけではなく、仕事が終わった後も仕事のことが頭から離れず、疲弊してしまう人もザラにいる。

生活の糧である以上、やめることはできないが、せめて距離をうまくとり、ワーク・ライフバランスに取り組むべきである。

サードプレイスを持つ

サードプレイスとは、家と仕事場以外の心を許せる場所のこと。
1980年代にアメリカ人レイ・オルデンバーグが提唱したとされている。

仕事や家以外のソーシャルコネクションは、長寿やメンタルヘルス、幸せに作用すると言われている。

サードプレイスの場所は、自分の心が自由になるのであればどこでもいい。
例えば、漫画喫茶、動物カフェ、タクシーの中など。

睡眠第一

睡眠不足は脳への負担となるだけでなく、死亡率上昇と関係するという研究結果がある。

仕事のストレスで睡眠が確保できないという人は、まず発想を転換し、1日のスケジュールの中で最初に7時間以上の睡眠時間を定めることが有効。
そして残りの時間の2割を空白にしておき、さらに残りの時間を仕事などに配分する。

空白の時間は実はとても大切で、この時間でしっかりと自分と仕事を切り離すことができる。

なお、ストレスで寝付きが悪い人のために、ボディ・スキャン、読み聞かせアプリを聞く、雨音を流すアプリを聞く、ラベンダーの香り付きアイマスクをする、といった方法が紹介されている。

疲労バロメーター

自分の中での疲労を示すサインを可視化しておき、それに当てはまるかどうかで自分の疲労の度合いを把握するという方法。

本書で紹介されている疲労バロメーターの例は「ケチな飲み屋」
これは、欠勤・遅刻・泣き言・能率低下・ミス・辞めたいと言い出す、の頭文字を取ったもの。
このサインが出ているときは明らかにオーバーワークな状態なので、対策を取らねばならないということになる。

適切な疲労の度合いは70%以下。
70%とは、家に帰ってから1つ以上の作業(皿洗いや洗濯)ができ、家族と笑顔で話せるくらいの仕事量による疲労と考えると良い。

上司との付き合い

上司といえどすべて正しいわけではない。
時には客観的になって疑うことも必要。

また、顔色をうかがいすぎるのは良くない。
人の心を読むときに活動する脳の部位は、未来や過去を思い煩い脳を疲れさせる部位と類似している。
つまり、顔色をうかがうと疲れるのである。
そんなことで疲れるくらいなら本人に直接聞いてしまえばいい。

会社=アイデンティティは危険

日本人の遺伝子にある「公意識」は、古く戦国時代にルーツがあると司馬遼太郎は言っている。
地方を開墾した農民が中央に駆り出され「公」への忠誠を誓ったと。

その公意識が会社への忠誠心という形でいまだに残っているわけだが、そもそも終身雇用制度が崩壊しつつあり、退職後の人生も数十年ある現代において、この思想はアイデンティティ・クライシスを引き起こしかねない。

それよりも、いつ辞めてもいいんだぞという心持ちで常にデスク周りを整理しておくくらいの方が良い。

自尊心を改善する

仕事と並んで、私たちのスペースを奪う元凶に自尊心の低さがある。
一部アジア人、特に日本人は自尊心が低い傾向が強い。
そこで、自尊心の改善というアプローチから、脳にスペースを作ることを考える。

脱コンフォーミティ

コンフォーミティとは同調性(周囲に合わせる)のこと。
千葉大学の黒沢らの研究によると、コンフォーミティと個人の自己評価は反比例するという。

そこで、脱コンフォーミティ的に振る舞うことによって、自己評価を上げることを考える。
方法のひとつは「猫を飼ってみる」こと。

反コンフォーミティの象徴である猫を飼うことにより、ミラーニューロンが活躍し、私たちの脳も脱コンフォーミティ的に振る舞おうとする(オブザベーショナル・ラーニング)。

SNSの「いいね」はもういいね

私たちは自分の幸せを他者との比較で判断しがち。
そして、その最たるものがSNSの「いいね」である。
トレド大学のボーゲルらによると、ソーシャル・メディアをよく使う人ほど自尊心が低い。

「いいね」を欲しいという気持ちを捨てることが幸せへの近道

アサーティブのスキル

アサーティブネス、つまり自己主張することだが、これは自尊心を上げ、ストレスを下げ、さらに他者からより敬意を払われるようになる効果があるという。
平たく言えば、常にイエスマンであることはやめ、時にはノーとはっきり言うことが大切。

例えば、仕事で無茶な依頼をされたときでも、日本人はついつい承諾してしまいがちだが、無条件に受け入れることだけが誠実なことではない。
理由を伝えて断る、代替案を提示するなど、攻撃的になることなくアサーティブに振る舞う術はある。

打たれ強くなる

当たり前だが、人は嫌われると心が痛む。
つまり自尊心は拒絶により傷がつく。

拒絶に強くなる方法のひとつは「慣れ」

とは言っても、慣れるためにあえて拒絶されるような行動を取る必要はない。

人は拒絶による痛みを、脳(背側前帯状皮質)で感じているのだが、実はこの部位は身体の痛みを感じるときに反応する場所でもある。
これを利用し、マラソンなどの耐久系のスポーツをすることによって拒絶への耐性をつけることができる。
実際、耐久型競技のアスリートは、前帯状皮質の活動が優れていることがわかっている。

スペースを味わう

これまでに書かれたことを実践することによって、脳にはスペースが生まれているはず。
本書の最終章では、生まれたスペースを使ってさらなる深い疲労回復と幸福感を得るための科学的なスキルが記載されている。

何もしない

「スキル」と言っておきながらこんなことを書くのはいかがなものかと思われそうだが、空白の時間を手に入れたときにそれを慌てて埋める必要はない。
というより、むしろ時間のゆとりを楽しむくらいの方が幸福度が高い。

時間ができたら何かをしなければいけないという固定観念をまずは捨てるべき。

「現在」に向き合う

人は過去と未来に心を奪われると、心がさまようとき同様の脳の回路(デフォルト・モード・ネットワーク)がヒートアップし、不幸に繋がりやすくなることがわかっている。

今の自分を客観的に見るイメージを持ったり、五感を研ぎ澄ませることによって「今」に心をとどめるスキルを身につける。

幸せを長持ちさせる

残念なことに、幸せは長続きしにくい性質を持っている(ヘドニック・アダプテーション)。

これに抗う方法としては、幸せを反芻するというのがある。
例えば楽しかったことを人に話したり、撮った写真を見返したりすることによって幸せを二度三度と味わう作業が、幸せを2倍3倍と長持ちさせる効果を持つ。

自然と触れ合う

スタンフォード大学の研究により、自然に触れながらキャンパスを歩いた人の脳では喜びを感じる部位が活動していることが明らかになった。
原理については実はまだよくわかっていないのだが、とりあえず事実として、人は自然に触れると幸せになるようである。

森林浴をして自然とのつながりを感じるのも良いし、そこまでの時間が取れない人でも部屋に檜の一片を置いて、ときどき手に取るだけでも効果はあるようだ。

「足らないを知る」

人の欲は天井を知らないものだが、これは自らを不幸にする要素である。
トルストイも「不幸を感じるのは何かが足りないからではない。今より求めるからだ」と言っている。

物事にはすべて限界、最後があるという事実を受け入れ、今をしっかりと生きることが幸せにつながる。

まとめ

余裕の持ち方から始まり、最終的には幸せを得る方法へと発展した内容だった。
幸せの追求は一見、疲労回復とは直結していないように感じられるが、結局のところ幸福感を感じることが疲労の回復に最も効果を持つし、クリエイティブな発想や効率的な仕事へとつながるのだろう。

猫を飼うなどの大掛かりな行動はともかく、日常の心がけやちょっとした行動は簡単に実践できるものなので、意識して取り入れていきたいと思う。

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