2020年9月に初版が発行された本。
著者のTestosterone(テストステロン)氏は、筋トレと正しい栄養学の知識を日本に普及させることをライフワークとしている、自称「筋トレ啓蒙活動をしている変なおじさん」
本書は、2019年に出版された『ストレスゼロの生き方』という本の続編であり、前作に引き続いて、ストレスがまったくない筆者の生き方や考え方を記したものである。
ページ数は全体で240ページ弱。
本作単体で内容は独立しているため、前作を読んでいないくても理解できる構成となっているが、後述の理由により、前作も併せて読むことで、より効果的な知見を得ることができる。
本書の構成について
構成がかなり特殊な本なため、内容の要約の前に触れておく。
本書は筆者の生き方・考え方のエッセンスを100項目記したものだが、そのトピックはすべて「○○ない」という否定形になっている。
これは、すべてのトピックが前作『ストレスゼロの生き方』で主張している内容と正反対のことを主張しているためである。
正反対のことを書くなんて主張がブレすぎて信用できない、というのがごく一般的な感想だろうが、筆者には内容の正誤を議論するつもりがそもそもない。
筆者が真に言いたいのは「考え方に正解も誤りもなく、その時々によって最適な考えや行動が変わるのも当たり前で、むしろひとつのトピックに対して正反対の2つの意見を出せるほどの柔軟な思考を持つことが、ストレス社会を生き抜く助けとなる」ということである。
そのため、あえて前作の主張を否定することにより、違った切り口での主張もできるのだということを筆者は示している。
以下、否定の種類ごとにトピックと解説を簡単にまとめている。
○○(の)を、やめない
〇〇 | 解説 |
社会の用意したモノサシを使う | 「高収入で幸せになれる」というモノサシはある程度の水準までは本当だから従う |
「コントロールできないこと」で悩む | どこまでコントロールできる(できない)のかを真剣に考えることで解決できる問題もある |
モチベーションを保とうとする | 費用対効果が高いことは、メリットを思い描いてモチベーションを保ち、絶対に頑張る |
心配 | ありとあらゆるトラブルを想定し、未然に防ぐ |
理不尽を受け入れる | 理不尽に抵抗して無駄な争いを生むのではなく、上手くいなす術を身につける |
夢を持つ | 夢(願望)を持つことで、そこに向かって最短距離で行動できる |
悲観する | 悲観して、最悪を想定しておけば予め対策が打てる |
うまくいって当然と思う | イケる気がするという気持ちで攻める |
すべての人とわかり合えると思う | 話の通じない相手に共感できなくても、理解さえできれば適当にいなせる |
嫌われたくないと思う | 行動の軸は自分に置くべきだが、嫌われないように配慮することも大切 |
ウソ | 相手のためになるウソは時として必要 |
全力投球 | 目標に向かって持続的かつ最高効率で努力するべき |
自分と他人を比べる | 能力の高低は相対評価で決まるのだから大いに比べるべき |
許可を求める | 何かに挑戦するとき、ごく身近な人たちの理解は得ておいた方がいい |
無駄な努力 | そもそも無駄な努力なんて見極められないし、成功しないとしても成長はできる |
お人好し | お人好しは「○○しておけばよかったな」という罪悪感と無縁 |
他人に期待する | 他人に期待することで深い人間関係が築ける |
深い人間関係を築く | 深い良質な人間関係は幸せに直結する |
見返りを求める | 返報性の原理を利用し、見返り目的で人助けをするのは正しい |
相手の期待に応える | 期待値以上の結果を出して尊敬を集めれば、その後の物事がスムーズに進む |
過去の自分に縛られる | 信念以外のこだわりは柔軟に変化させる |
欲望を抑え込む | 今サボりたいという欲望は将来の自分を苦しめるので徹底的に抑え込め |
ないものねだり | 現状に感謝はすべきだが、ないものを求める欲望は最高のモチベーションになる |
他人の評価を気にする | どうでもいい人以外の、大切な人たちからの評価は気にするべき |
苦しさが5割以上のこと | 成し遂げたいことがある場合は、そのための苦労がどれだけ大きくてもやめるべきではない |
○○(を)、捨てない
〇〇 | 解説 |
安いプライド | 他人が安いと言おうと、本人の信念なら譲るべきではない |
「でも」と「だって」 | 否定は最高のリスク管理。「じゃあ」と「だから」も付け加えて思考をポジティブに持っていく |
「私なんて・・・」 | 謙虚な心で努力を続けられる |
「時間がない」 | 時間がないからこそ、限られた大切なことに集中する |
悪い人間関係 | 人の悪い一面だけを見て関係を断つのはもったいない |
偽りの自分 | 自分を変えたい・変わりたいという方向に偽りの自分を演じるのが成長である |
後悔 | 後悔は同じ過ちを繰り返さないための自戒として利用する |
我慢 | 夢や目標を叶えるための我慢は大切 |
不幸 | 過去の不幸を乗り越えた記憶は自分を強くするし、現在の幸せを実感できる |
愚痴 | 愚痴はストレス解消の手法であると同時に問題認識と言語化ができているという証拠である |
他力本願 | 自分もベストを尽くした上で他人の力も借りる |
成功も失敗も3日で | 成功の記憶は自信を、失敗の記憶は用心を与えてくれる |
自己犠牲の精神 | 自分の幸福の最大化につながる自己犠牲はどんどんやっていくべき |
怒りの感情 | 怒りは溜め込まず、小出しに伝えていく |
「正しさ」 | 己の正義を貫けば後悔の少ない人生が送れる |
デカすぎる目標 | 目標は人生の道標であり、大きなモチベーションになる |
恨み | 忘れられないほどの恨みはプラスのモチベーションに変換する |
ストレスの要因 | 悪いストレスは排除すべきだが、勉強や自己投資などの良いストレスは大事にする |
○○(は/に/から/へ)、逃げない
〇〇 | 解説 |
本当に辛いとき | 逃げなかった者のみが到達できる圧倒的な成功を目指すのもあり |
余力があるうち | 大きな成功を収めたい場合に限り、多少の無理は我慢しなければならない |
不機嫌な相手 | 不機嫌な相手に対しては感情は捨て、手懐ける練習をするチャンスだと心得る |
元気がないときはひとりの世界 | 自力でどうしようもないときは他人や猫や犬に助けてもらう |
趣味の世界 | 趣味に逃げている間に時間が解決してくれる問題以外は立ち向かうしかない |
人格を否定してくる人間 | そんな人間の言うことを真剣に聞く必要はないので、聞き流して鋼の心を身につける訓練とする |
うまくいかなかったら | どうしても叶えたい野望のときは諦めない |
○○を、受け入れない
〇〇 | 解説 |
全力を尽くした自分 | 自己肯定をした後は、しっかりと失敗の原因を分析する |
失敗 | 失敗して諦めるのではなく、成功するまで失敗を重ねればいいだけ |
矛盾 | ある時点で「言っていること」と「やっていること」が矛盾するのはダメ |
不安定 | 不安定に甘んじずに、未来を予測し、行動することで安定を目指し続ける |
困難 | 自分の成長につながらない困難は徹底的に避けるべき |
絶不調 | 絶不調は仕方がないことではなく、身体からの危険信号なので素直に休む |
過小評価 | 他人を見下さない限りは、圧倒的な自信を持って調子に乗るのは良いこと |
自分の欠点 | 欠点なんてほっといて長所を伸ばすべき |
嫉妬の感情 | 有名人など、生活圏外の相手にまで嫉妬していたら確実に惨めな思いをする |
裏切り | 裏切られるということは舐められているので、絶対に許してはならない |
友人を失うこと | 思い出を共有できる友人は貴重なので、馬が合わなくなっても積極的に突き放したりしてはならない |
孤独 | 一部の天才以外は、仲間と努力するほうが良い結果を出せる |
反対意見 | 耳を貸すとしても、自分のことは最終的には反対意見を押しのけてでも意思決定をする必要がある |
○○を貫かない
〇〇 | 解説 |
己の美学 | 真の美学は貫くべきだが、1億円貰ったらあっさり揺らぐような美学モドキはさっさと捨てる |
高い意識 | 現実的な計画を持つべき |
理想の自分像 | 理想の自分像に固執するとそうではない時に失望してしまうのでゆるくやる |
人への親切 | 身近な人に親切にすると依存してくる可能性があるので気をつける |
不屈の精神 | 対して好きでもないこと、得意でもないことには不屈の精神は貫くべきではない |
好きなことのためにする苦労 | 好きなことに対しても効率の良い苦労だけを選び抜くべき |
自分のルール | 親や教師、世間から押し付けられた価値観が本当に役に立つものなのか見直すべき |
努力 | 努力を目的化せず、あくまでも結果にこだわる |
成長 | 常に成長しなくてはならないという強迫観念にとらわれるとストレスになる |
攻めの姿勢 | あまり攻めすぎると思わぬ反撃を受けるのでほどほどにしておく |
感謝の姿勢 | 感謝は大事だが、自分を犠牲にしてまで恩返しする必要はない |
ワクワク | ワクワクの裏にはたいてい大きな罠がある |
笑顔 | 泣きたいとき、怒りたいとき、愚痴りたいときは無理せず発散する |
学ぶ姿勢 | 情報ばかり仕入れて学んだ気になるのではなく、長く役に立つ知識を身につけるべき |
健康的な生活リズム | この否定は無理があるので、8時間睡眠、整った食生活、週3日の運動だけは絶対に貫く |
当たり前 | 人生一度きりなんだから嫌な「当たり前」に従う必要はない |
我が道 | 上達したいなら上手くやっている人の真似をするのが一番である |
○○(と)、決めない
〇〇 | 解説 |
根拠のない自信を持つ | 手に入れるべきは成功体験や努力によって育てられた「根拠のある自信」 |
才能をフル活用する | 才能があることでも社会的ニーズがなければ収入や社会的地位にはつながらない |
健康を守り抜く | この否定は無理だし、健康管理こそもっとも資産形成につながる行動である |
目標達成のためにはなんでもやる | 目標を達成したから幸せになれるとは限らないし、その過程で大切なものを失うかもしれない |
人を褒めまくる | ときには叱ることも必要 |
他人はみな教師 | 尊敬できない人間は極力避けて、尊敬できる人間から学べる環境に身を置くべき |
気乗りしない誘いは断る | 可能性を広げるために、一度は応じてみてもいい |
やりたいことはすぐにやる | 情報化社会なんだから先にリサーチしてからやるかやらないか決めたほうがいい |
運は自力で引き寄せる | 努力しても引き寄せられない運もたくさんある |
先に謝罪する | ビジネスや交渉事においては、自分に非がない場合は先に謝ると不利な立場に追い込まれる |
運命には従わない | 運命を言い訳にして大胆な行動に出てみるのもいい |
自分の機嫌は自分で | 感情はこまめに発散させる |
仏の顔は二度まで | 本当に嫌なことは一度目で言わないと相手が調子に乗ってエスカレートする |
自分の可能性は自分で | 自分以上に自分を評価してくれる他人の言うことに乗っかってみる |
仕事は「好き」か「得意」かで選ぶ | 選択の可能性を絞らずにもっと広く考える |
過去の自分と決別する | 決別せずに、理解した上で計画を練ることで自分を変えることができる |
「なんとかする」 | どう頑張ってもなんとかならないこともある |
悪口陰口嫌がらせは気にしない | 悪口は自分の欠点の把握、陰口は裏切り者の特定、嫌がらせは感情のコントロールに役立つ |
自分の気持ちに素直になる | 気持ちに従って決断を下した後は、怠惰な気持ちではなく、一度決めた決断に素直になるべき |
筋トレしない
それだけはありえない。
このことだけに1章丸々使うのが実に筆者らしい。
筋トレ、それとセットとなる睡眠管理と食事管理、大前提となる規則正しい生活と適度な運動は、人生のありとあらゆる点で役に立つ。
他のすべての項を無視しても、筋トレだけは徹底してほしい、というのが筆者の切なる願いである。
まとめ
自らの以前の著作に対して正反対の主張をすることによって、同じ物事に対しても柔軟な思考ができるということを実際に示し、ストレス解消の一助となることを狙うという、極めて異色な一冊だった。
100個ものテーマがあるので、大抵の読者にとっては「そういう考え方もあるのか」という気付きのある項目が存在するはずである。
本記事では主張の裏付けとなるような具体例は割愛しているため、その部分を知りたい方は手にとってみることをおすすめしたい。
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