2019年8月出版の本。
著者の藤田紘一郎氏は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学を専門としている方だが、本書は一般人向けに平易な言葉で書かれている。
文量は全体で200ページ弱。
免疫細胞や抗体の60~70%が存在し、脳に匹敵する1兆個以上もの神経細胞・ニューロンが存在する重要な臓器でありながら、あまり重要視されていない腸
本書は、そんな影の主役、腸にスポットを当て、「腸トレ(腸のトレーニング)」によって、人生をより良く変えていくためのメソッドについて述べている。
僕自身の話をすると、脂っこい/辛い物や睡眠不足等で簡単に腹を壊す上に、過敏性腸症候群まで患っているという、極度の腹弱族。
そんな僕なので、この本が書店に置いてあるのを見かけたら、手に取るのは必然である。
この手の本に書かれていることには諸説あるし、個人差もあるので必ずしもすべてが正しいとは言い切れないが、1939年生まれの著者がいまだに現役で働いていることを考えると、ある程度の真実味が感じられるので、以下にまとめることとする。
ちなみに、タイトルだけ見ると男性向けのようだが、内容のほとんどは男女問わず実践できるものである。
(おそらくマーケティング的観点からつけられたタイトルだろう。)
腸トレを取り入れるべき人
筆者によると、次に挙げることに当てはまるような人は、今すぐに腸トレを取り入れるべきであるという(詳細は後述)。
- うつうつとしてやる気が出ない、幸せを感じられない人
- 疲れやすく、風邪をひきやすい人
- 生活リズムが狂っている人
- 頭脳明晰になりたい人
- だんだん太り始めた人
- 老けたくない人
- 将来の健康や生活が心配な人
- 今までの自分を変えたい人
腸トレをおすすめする8つの理由
本書で紹介されている腸トレをおすすめする理由は次のとおり。
- ストレスに強くなれる
- 折れない心を養える
- 直感力を鍛える
- 頭脳明晰になれる
- 質の良い眠りを得られる
- 老けづらく、太りにくくなれる
- 過敏性腸症候群の解決
- 男性も女性レベルに長生きできる
腸トレでやってはいけない6つのNG
腸トレの効果を100%発揮するために避けるべき生活習慣がある。
過保護
「発酵食品は体に良い」というのは多くの人が聞いたことがある話だ。
これはもちろん正しい話なのだが、体に良いからといって過剰な摂取をすると逆効果となってしまうという。
腸内には約200種類、数にして100兆個もの細菌が存在し、それらが「腸内フローラ」と呼ばれるひとつの生態系のようなものを形成している。
偏った食物を多量に摂取すると、特定の腸内細菌のみが異常増殖し、腸内フローラは壊れてしまう。
その結果として腸が本来の機能を発揮することができず、便秘や下痢などを引き起こしてしまう。
清潔すぎ
人間の体には常在細菌が存在する。
常在細菌は、外からやってきた有害な細菌が増殖するのを防ぐ役割を持っている。
ところが、過剰な手洗いやみだりに抗生物質を投与することにより、常在細菌が除去されてしまうと、有害細菌に対する免疫が無くなってしまう。
早食い
早食いをすることで血糖値が急上昇し、それを抑えるためのインスリンがすい臓から大量に分泌される。
それが長く続くと体が抵抗性を持ってしまい、インスリンの効きが悪くなって血糖値が下がりにくくなる。
同時に頻繁に大量のインスリンを分泌したすい臓は疲弊し、インスリンの分泌が抑えられるようになる。
インスリンの効きが悪くなった上に分泌量も抑えられると、ますます血糖値は下がりにくくなり、肥満や糖尿病発症の危険性を高めてしまう。
パッケージ化された食事
工業化によって大量生産が実現し、巷にはパッケージ化された食事が溢れている。
例えばコンビニ弁当がその一例。
近年のフードロス意識の高まり等もあり、我々はパッケージ化された食事を何の疑問も抱かずに完食するのだが、よく考えるとこれは明らかにおかしい。
そもそも生活習慣や体型や年齢や性別や・・・が異なる人々が同じ食事を取ることなど本来ありえないのである。
自分が取るべき食事に関心を持ち、適切な量を適切なバランスで摂取することが大切。
思考停止の菜食主義や粗食
健康的な食事として、長い間「野菜中心の食事」「肉や油を減らす」「カロリーは極力控える」といった方法がもてはやされてきた。
しかし、実際は高齢になるほどタンパク質をとる必要があることがわかってきているし、目の敵にされてきたコレステロールですら、近年、日本脂質栄養学会が「コレステロール値は高めのほうが長生きする」との指針をまとめている。
若い頃の食生活の継続
50歳を過ぎたら炭水化物には気をつけなければならない。
実はエネルギーの生成方法は2種類あり、若い頃と歳を取ってからではメインの方法が変わる。
若くて活動的なときには、多量の糖質を利用した生成系がよく働くのだが、歳を取ると低糖質の環境でよく働く持続的な生成系がメインとなる。
後者の生成系は、若さを保ち、老化を抑え、活力ある生き方をするためのカギとなるのだが、糖質過多な食生活を続けていると生成系が上手く動作せず、肥満や細胞の老化を招いてしまう。
腸トレメソッド10種
発酵食品の賢い摂取
発酵食品のとり方のコツは2つある。
ひとつは多種類を毎日少しずつ食べること。
先述のとおり、1種類だけを大量に摂取するのは良くない。
そしてもうひとつは、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」をあわせて摂取すること。
それによって、腸内フローラの多様性と数が増し、効果が上がる。
プロバイオティクスとは、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が含まれる食品で、主なものとしては、ヨーグルト、ケフィア、味噌、酒粕、納豆、漬物、キムチ、テンペ、ザワークラウト、ピクルスなどがある。
プレバイオティクスとは、腸内細菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖が豊富な食品で、主なものとしては、タマネギ、キャベツ、ブロッコリー、オクラ、きのこ類、豆類、こんにゃく、海藻類、イモ類、果物などがある。
両者が入った特におすすめの発酵食品は「豆味噌」
原材料表示に「酒精」「だし」「調味料」などが書かれていない、自然発酵のものが良い。
活性酸素の回避
活性酸素は細胞を酸化させ、人体に悪影響を与える。
本来、人体には活性酸素を無害化するシステムが備わっているが、その働きは年齢とともに衰える。
そこで、日頃から活性酸素を発生させる生活習慣を避け、抗酸化物質の働きを促す生活習慣を行うことが大切。
活性酸素が発生する主な生活習慣は次のとおり。
- 長時間の紫外線暴露
- 大気汚染
- 喫煙、過剰な飲酒
- 暴食、脂質のとりすぎ
- 酸化された食物や食品添加物の摂取
- 虚血やストレス
- 激しい運動のしすぎ
抗酸化物質のとれる主な食品は次のとおり。
抗酸化酵素を作る良質なタンパク質食材 できるだけ新鮮な卵、肉類、魚類、豆類、乳製品 |
抗酸化酵素が働くときの補助物質を補ったり、細胞の新生を促す食材 牛肉、牛レバー、豚肉、ラム肉、牡蠣、ウナギ、イワシの丸干し、シラス干し、干しエビ、ホタルイカ、ホタテ、イイダコ、モロヘイヤ、春菊、ホウレンソウ、小松菜、ニンジン、カボチャ、ショウガ、ココア、カシューナッツ、栗、ヘーゼルナッツ、松の実、アーモンド、落花生、干し柿 |
過剰な活性酸素の発生を抑え、消去する食材 |
前述した味噌も抗酸化力が高いので、上記の食材を入れた味噌汁を作るのが手っ取り早い。
短鎖脂肪酸
食物繊維の分解過程で発生する短鎖脂肪酸は、腸のバリア機能を高めてがんなどの病気を防いだり、代謝を活発にして肥満を防いだりする働きを持つ(他にも様々な働きがある)。
効率よく短鎖脂肪酸を生成するためにおすすめの食べ物は「酢タマネギ」
作り方は、スライスorみじん切りにしたタマネギに軽く塩を振り、しんなりしたらひたひたの酢を加えて冷蔵庫へ入れて5日前後待つだけ。
(本書には記載されていないが、辛いのが苦手な人は酢に漬ける前にタマネギを軽く絞ると良い)
これを毎日50グラムほど、料理の付け合わせにして食べるのが良い。
油の取捨選択
ひとえに油と言っても、その種類は様々。
オメガ6系及びオメガ3系と呼ばれる必須脂肪酸は、体内では合成できないので、食品などから摂取することが必要。
オメガ3系はDHA、EPA、エゴマ油、亜麻仁油など、オメガ6系は市販の油に多く含まれており、ベニバナ油やコーン油など。
油をとるときの注意点は次のとおり。
- オメガ3系脂肪酸を積極的にとる
(新鮮な魚を使った和食や地中海料理などにエゴマ油や亜麻仁油をかけるのが効率的) - オメガ6系とオメガ3系は4対1の摂取バランスを目指す
- 加熱調理をする際はオメガ9系のエクストラヴァージンオリーブオイルを使う
(購入の際は低温圧搾で絞られた遮光瓶入りのものが良い) - サラダ油やゴマ油はできるだけ控える
- 古い酸化した油は摂取しない
(少量ずつ購入して冷暗所で保管) - ココナッツオイルやMCTオイルなどの中鎖脂肪酸の活用
(加熱調理には向かないので、コーヒーや紅茶に少量入れたり、ドレッシングや和え物に使う)
水の飲み方
こまめに1日1.5リットルの水を飲むことと、寝る前と起きぬけにコップ1杯の常温の水を飲むことが有効
さらに、料理に合う適切な硬度の水を使うとなお良い。
分類 | 軟水 | 中硬水 | 硬水 |
硬度(mg/L) | 0~100 | 100~300 | 300~ |
和食 | 和食全般・和風だし・緑茶・紅茶 | しゃぶしゃぶ・鍋物 | - |
洋食 | - | 洋食全般・コーヒー(深煎り豆)・アッサムティー | コーヒー(エスプレッソ)・パスタ(アルデンテ) |
ボーンブロス
ボーンブロスとは骨から煮出したスープのこと。
期待できる効果は次のとおり。
- 腸を修復して保護。炎症を抑える。
- 細胞を活性化し、若々しい肌、髪、爪に
- 無駄な食欲を抑え、インスリンの分泌を抑える
- 骨や関節を守る
鍋、味噌汁、雑炊、カレー、シチュー、中華スープなど、アレンジは自在なので活用すると良い。
糖質依存にサヨナラ
炭水化物に含まれる糖質のグルコースは消化吸収されやすく、素早く脳のエネルギー源となる。
グルコースよりもエネルギーが高い脂肪酸は、血液脳関門(脳にとって有害な物質が脳内に侵入するのを防ぐ機構)を通過できないので、脳はそれを利用できない。
そのため、糖質は脳が働くために一番大事だと考えられてきた。
しかし、近年、糖質以外でもエネルギー源となる物質があることが判明した。
それが「ケトン体」である。
ケトン体は肝細胞中のミトコンドリアで脂肪酸が燃焼して発生する。
このケトン体は、細胞膜や血液脳関門を通過し、脳やその他多くの臓器のエネルギー源となる。
ケトン体を利用してエネルギーを産生することには、以下のような利点がある。
- 肥満の解消
- 血中の中性脂肪の低下
- 炎症性疾患の予防
- 認知症などの神経変性疾患の予防
- 糖尿病の予防
- 動脈硬化の予防
- がん細胞の増殖の抑制
- 集中力の増加
したがって、エネルギーを必要としているときでも、過剰に炭水化物や砂糖・果糖まみれの食品を摂取する必要はない。
週末プチ断食
細胞には、細胞内で不要になったものを分解し、新しいものに作り替えるリサイクルシステムが存在する(オートファジー)。
通常、細胞内でオートファジーは少しずつ進む。
ところが、細胞が飢餓状態に陥ると、オートファジーは顕著に活性化される。
また、体内でインスリンが分泌されなくなるとオートファジーが起こることが知られている。
言い換えれば、すい臓から分泌されるインスリンがオートファジーの機能を弱めているということになる。
つまり、断食でインスリンの分泌を抑えることによって細胞のクリーニングを促進させることができる。
通常の断食はもちろん効果があるが、それを敢行するのは現代人にとっては困難。
そこでおすすめなのが「週末プチ断食」
やり方はシンプルで、夕食を寝る3時間以上前に済ませ、翌日の食事まで空腹時間を16時間空くように調節する。
そして翌日の復食時には、先に述べたような良質な食事でタンパク質、食物繊維、脂質を補う。
平均体温を上げる
人間の体をがん細胞や細菌、ウイルスなどの異物から守ってくれる白血球は、体温が1℃下がるだけで、その働きが30%以上も落ちると言われている。
それにともない、免疫に関わっている腸の働きが低下し、血管が収縮するために血液の流れが悪くなって代謝が落ち、生活習慣病やアレルギー、うつ、がんなど、様々な病気の引き金になるという悪循環に陥ってしまう。
そこで、体を温める食材を摂取することによって、体温を上げることを目標とする。
【体を温める食材】
- 野菜類:生姜、唐辛子、ニンニク、ニラ、ダイコン、長ネギ、ゴボウ、タマネギなど
- 果物・ナッツ類:栗、松の実、桃、ザクロなど
- 魚介類:サバ、アジ、イワシ、エビ、カツオなど
- 肉類:羊肉、鶏肉、鹿肉など
- その他:卵、みりん、味噌、ゴマ油など
- 飲み物:日本酒、梅酒、紅茶、ココアなど
逆に以下の食材は体を冷やす効果があるが、温める食材と一緒にとったり、加熱調理、香辛料の添加、発酵などの工夫によって体を冷やすことを回避できる。
【体を冷やす食材】
- 穀類:そば、小麦
- 果物・ナッツ類:バナナ、マンゴー、パイナップル、ナシ、柿など
- 魚介類:カニ、カキ、しじみなど
- 肉類:馬肉
- その他:こんにゃく、豆腐、バターなど
- 飲み物:牛乳、緑茶、コーヒーなど
また、入浴で体温を上げる方法もある。
その際には、高い温度のお湯ではなく、38~40℃のぬるめのお風呂にゆっくり浸かることが大切。
便の理解
便は腸内の環境を教えてくれる重要な情報源であり、便の状態をチェックすることで体の健康状態をチェックすることができる。
筆者が理想として示す指標は次のとおり。
- 量:150~200グラム(バナナ2個分)
- 回数:1~3回/日
- 臭い:きつくない程度。腐敗臭や酸性臭には注意。
- 色:黄褐色~茶色
- 硬さ:するりと出るソフトなもの
- お腹の調子:痛い、張っている、残っているような不快感がないか。
まとめ
腸環境を改善させるためのトレーニングと、その効果についてまとめられた1冊であった。
筆者も言っているように、体質というのはひとりひとり異なるものであり、本書に掲載されていることの実践によって必ずしも健康になるとは限らないが、少なくとも何もしなければ改善されないのは間違いない。
いろいろな方法を試してみて、自分に合っていると感じたものを習慣化するのが良いと思う。
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