2017年2月に初版が発行された本。
著者の麻生けんたろう氏は、ラジオDJ、パーソナルモチベーターなど、多数の肩書を持つ。あがり症を克服した自身の経験や知識を活かし、個別指導なども行うほか、複数の本を出版し、作家としても活躍している。
本書は、あがらずに話せるようになる方法や、社内のコミュニケーションの円滑化、社外への営業力向上のためのトーク術などを盛り込んだ、ビジネスパーソン向けの書籍である。
ページ数はあとがきまで含めて約190ページ。文庫本サイズの本なので、外出時の空き時間などにサッと読むのに適している。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
あがらないで話すためには
友達とは気軽に話せるのに、上司や取引先の人と話すのは苦手という人は多い。理由は簡単、「話し方を習っていないから」である。国語の授業で、文章の書き方は学んでも、話し方を専門に学ぶことはまずない。
また、過去の失敗経験や、未知の経験に対する不安から、話すことを必要以上に恐れているケースも多い。
あがらないで、話すためには、以下の2つのことが大切。
- できる限りの準備をしておく
- 意識を自分の外側(聞いている人たち)に向ける
重要なのは、いきなり完璧を求めようとしないこと。少しずつでいいので、毎日進歩し続け、小さな成功体験を重ねることが自信へとつながる。
事前準備
上手な話をするためには、どういった要素を伸ばせばいいのか。それは大きく分けると5つある。
得意な分野をさらに磨くとしても、苦手な分野を鍛えるとしても、ひとつずつマスターしていくことが、挫折しないためのコツ。
話題選び
初対面の人との会話の話題がなくて困っている人は、日常生活で目にした、聞いた、触った物に対して五感を研ぎ澄ませ、話題として使えそうなものをストックしておくこと。五感を研ぎ澄ませるには、例えば「暑い」を「今すぐ海に飛び込みたい」といったような、直接的な表現を使わずに言い換える訓練をしておくといい。
最初の話題を決められるようになったら、次は連想力を身に着けて、次の話題へとスムーズに移行できるようにする。ちょっとした時間があるときに連想ゲーム(○○と言えば△△、△△と言えば××・・・)をしておくと、連想力は鍛えられる。
連想力と同時に必要になるのが、着地力。つまり、話をまとめて結論へと持っていく力である。はじめから伝えたい結論があり、そこに向かって話を進めるのがベストだが、なかった場合でも、冗長に話を続けるのは避け、連想中にすばやく着地点を見つけるようにする。
着地力を鍛えるには、話の中で「だからこそ」「ようするに」「つまり」「そんなことから」「さて」といったフレーズを意識的に使うようにすればいい。はじめのうちは言葉が続かなくても、繰り返していくうちに話をまとめられるようになる。
話の構成
ビジネストークにおいて、手軽な構成は次のとおり。通販番組で多用されている構成である。
- 問題の提起
- 解決策の提示
- メリット、効果の説明
- クロージング
- サプライズ
交渉事では6部構成もおすすめ。ポイントは、相手の本音を引き出してからこちらの条件をぶつけること。
- オープニング
- ヒアリング
- 確認作業
- 要望案の提示
- 妥協点の模索
- クロージング
会議の発言は、簡潔に要点を伝えるために、「アボヒナグホマ(アイコンタクト/ボディランゲージ/「ひとつ・・・」/「なぜなら」/「具体的には」/「他に」/「まとめると」)の構成がおすすめ。
なお、初対面の人との雑談では、「ドレミファソラシド・インタビューアー」という方法がある。
ド | 「どちらからいらっしゃった」「どのくらい時間がかかる」「どんなところ」といった質問で会話をつなげる |
レ | 相手の返答をきちんとレスキューする(救う)返事や質問を続ける |
ミ | 相手をよく見て、ほめポイントを探す |
ファ | ファッションや持ち物はほめやすい |
ソ | ドレミを唱えたときの「ソ」の高さの声で話す |
ラ | 打ち解けてきたら、ライフ(仕事や人生、プライベートなど)に関する話を振る |
シ | シンクロする部分(共通点)を見つけ出す |
リアクション
リアクションは、「あなたの話に興味があります」ということを相手に伝える効果がある。相手は、リアクションを返してくれる人に好意を抱くため、その後の関係性を良好に保ちやすい。
リアクションは言葉によるものと、しぐさによるものの2種類がある。
言葉によるリアクション(相づち)では、「ハ行の相づち(「ハァ~」「へえぇ~」など)」+「話のキーワード」を基本とする。ただし、同じ相づちを連続させないように注意。
時折、4W1H(When/Where/Who/What/How)のオープンクエスチョンを混ぜ込んだり、会話の序盤でテンポをつけるために、YESが返ってくるようなクローズドクエスチョンを4~5回続けるのも効果的。
しぐさによるリアクションでは、「手を叩く」「前にのめる」「後ろにのけぞる」といったことを心がける。
表現方法
声は印象を大きく左右する。
響く声、よく通る声、明るくやわらかい声を出せるように、声をみがく訓練をすることが大切。
口の柔軟性を鍛える、声量を増やす、抑揚をつける、無声音をしっかり出す、「ヒ」「シ」「サ行」「ラ行」「ダ行」の滑舌を鍛えるといったことに注力する。なお、発声練習の方法については、『人前であがらずに3分間堂々と話ができる本』でも詳しく解説されている。
心がまえ
相手をほめることを心がければ、気持ちは自然と自分の外側に向かうようになる。1日3人はほめることを習慣づけるといい。
相手の外見や持ち物、行動、能力、信念、相手そのものの中から、お世辞ではなく本心でほめられるところを見つけ、それを口に出すことが大切。
社内向けのトーク
社内で使えるトーク術について、場面ごとにご紹介。
企画会議
- 会議に目的を把握し、しっかりと事前準備をする
- 自分の意見の前にクッションフレーズを入れると、相手の否定的リアクションを抑えてくれる
- 「アボヒナグホマ」で訴える
- いつもの105%くらいの大きさの声で話す
プレゼンテーション
- 台本の丸暗記や読み上げはしない
- 紙1枚のマインドマップを事前作成し、自分で見たり、資料として配布するといい
- 参加者一人ひとりに目を向け、よく観察する
- 冒頭の「ツカミ」は「誰もがうなずいてしまうようなこと」「自分の目標の宣言」「今の気持ちの素直な表現」のどれかがおすすめ
- 「皆さん」は使わず、「あなた」や「私たち」といったフレーズで置き換える
苦手な上司
- 手のかかる赤ちゃんや幼児だと思って接する
- 嫌な態度を取られたら「何がこの人をこんな風にさせたのだろう」と、意識魂的な考え方でとらえる
- 結論は先に言う
- 怒られたときは、言い回しを次々と変えて謝る
同僚や部下
- 基本は相手と同じテンションで話をする
- 同じテンションで接すると収拾がつかなくなりそうなときは、論理的、理性的、客観的な受け答えに徹する
社外向けのトーク
社外で使えるトーク術について、場面ごとにご紹介。
ルートセールス
- ファーストコンタクトで相手に好印象を与えることが重要
- 挨拶は、ドレミを唱えたときの「ソ」の高さの声で行う
- オフビート話法(雑談の中に伝えたいことを入れてしまう話法)を用いる
- 訪問のたびに有益な情報を持参する
プレゼンテーション
- 本番前に、挨拶や名刺交換を兼ねてできるだけ多くの参加者に声をかけておく
- 本番では、事前に話して仲良くなった人に向かって話す
- 前日の夜など、プレゼンの前に参加者全員の名前を声に出して読み上げる
- メタファーを使い、話に説得力を持たせる(普段からストックしておくこと)
- プレゼンに物語を織り込む
飛び込み営業
- 自分が何者で、どんな用件で来たかを20秒以内にわかりやすく伝えられるようにしておく
- 「専門」「限定」「お試し」といったフレーズや、具体的な数字を織り込む
- 「ご興味ありますか」という質問で、現在/未来の需要の有無を見極める
電話営業
- 周りの雑音(他担当のテレアポなど)が入らない状況でかける
- 表情が声に反映されるので、家族の写真などを目の前に置き、穏やかな顔でかける
- 変に繕ってもバレるので、正直かつわかりやすく目的を伝える
- 「今電話してもいいのか」「興味があるのか」をすばやく見極め、該当しないならさっさと切り上げる
- 確度の判断には、「ご興味ありますか」に加え、「今の製品(状況)に120%満足されていますか」といった質問も有効
接客
- 売りたいという焦りが伝わると相手は引くので、最初からゴリ押しはしない
- ソムリエになった気持ちで、相手の好みやニーズを聞き出していく
- 相手をよく観察し、趣味や価値観に触れる言葉をさり気なく使うと、好意を持たれる
- おすすめを提示した後は「どちらになさいますか」で締める
交渉
- 条件は相手より後に提示する
- メリットを与える
- 不安にさせる
- 情に訴える
なお、交渉についての詳細なテクニックは、以前ご紹介した『交渉力』に詳しく記載されているので、そちらも参考にされたい。
まとめ
あがり症の対策から、初対面の相手との雑談、社内外の人とのトークまで、具体的な技術、練習法が解説された1冊だった。
コミュニケーション全般ではなく、焦点をビジネスに絞っている点が特徴的だが、通常のコミュニケーションにも適用可能な内容もあり、広く役立つと言える。
本記事では割愛したが、書籍内には、実際の会話例なども詳しく載っているため、そのあたりが気になる方には手にとってみることをおすすめしたい。
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