2020年2月に初版が発行された本。
著者の一人、齋藤孝氏は教育学、身体論、コミュニケーション論を専門とする明治大学文学部の教授で、ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。
もう一人の著者、安住紳一郎氏は言わずとしれた日本を代表するアナウンサーの一人で、齋藤氏とは明治大学文学部時代に授業を受けていた関係。
本書では「話すチカラ」をテーマに、会話の技術や話題の選び方などについて、両著者の対談及び安住氏が明治大学の学生に向けて行った講演の内容を書き起こしたものである。
ページ数はあとがきまで含めて約240ページ。
対談や講演の書き起こしのため、文章は平易なものとなっており、比較的短時間で読むことができる。
わかりやすく話す
この章では、自らが伝えたい内容を相手に上手に伝えるための技術について書かれている。
15秒の話
人間の集中力は実は15秒程度しか持続しない。
CMが15秒を基本としているのはそのため。
話をするときは、同じ話を15秒以上続けないように気をつけ、それを上回るトーク時間が与えられた際には、15秒を1単位とした複数の話題を展開することを心がける。
逆に、時間が余りそうなときには、話の前か後に空白(沈黙や無言の動作)時間をつくるというテクニックもある。
声や話し方の使い分け
人前で話すときには、少し高めの声のほうが人に話を聞いてもらいやすくなる。
この傾向は、相手の人数が増えるほど強くなる。
また、話すスピードにメリハリをつけることも有効。
男性の場合は中性的な話し方のほうが聞き入れてもらえる傾向がある。
ムダなクセの除去
「えー」「あのー」「まあ」などの場つなぎの言葉の連発は、「思考がまとまっていない」という印象を相手に持たせる。
このクセを矯正する方法はただひとつ、「言わないように強く意識すること」のみ。
たとえるとき
たとえ話をするときは、イメージがわかりやすいようにできるだけ具体的にすべき。
普段から具体例を出す訓練をし、使えるエピソードはメモなどで記録しておく。
一方で、あえてわかりづらい表現で気を引くというテクニックもある。
ただし、基本はあくまでもわかりやすいたとえを使う。
語尾
語尾の使い方は話の印象を大きく左右する。
「~と思います」「~させていただきます」といった曖昧な語尾やまどろっこしい語尾の連発には特に注意する。
日本語の特性上、常に明確な言葉を使えばいいというわけでもないが、曖昧な語尾と明確な語尾はうまく使い分ける必要がある。
結論
一般的な傾向として、男性は結論を聞いて初めて納得する人が多く、女性は論理的なやりとりを求めることは少ない。
相手によって結論の有無や、結論に到達する早さを使い分ける。
結論が必要な会話の流れなのに、どうしても結論が出ないときは、情報を伝えることで会話を着地させたり、問いを提示して問題意識を確認することでまとめるという方法がある。
人間関係がうまくいく話し方
この章では、円滑なコミュニケーションを遂行するための話し方について書かれている。
お世辞
人とよりよいコミュニケーションをとるうえで、相手を気持ちよくさせる「サービス精神」は重要。
お世辞はそのための方法のひとつ。
相手のアイデンティティに関わることを褒めたり、共感するスタンスを取ると効果的。
心にもない嘘をつく必要はない。
大切なのは、自分の感情をきちんと言葉にして相手に伝えるということ。
楽しいとか、おいしいとか、ありがとうという気持ちは言葉にしなければ相手に伝わらない。
相づち
相づちは、相手に気持ちよく話してもらうための重要な手段。
「オウム返し」からの「なんで?」「どうして?」で、相手の会話を促すという方法は非常に強力なテクニック。
「えー!」という驚きや、「へぇー」という共感の言葉とともに、驚いたり共感したりしている具体的なポイントを伝えると、相手の心をつかみやすい。
いい相づちを打つために、普段の情報収集や基礎的な教養を身につけることが不可欠。
笑い
笑いやユーモアはコミュニケーションにおいてとても大切な要素。
一般人でも笑いをとりやすい方法のひとつは、モノマネ。
あるいは、みんなが漠然と感じていることをズバッと言葉にすることで、共感で笑わせるという方法もある。
初対面
初対面の人と話すときのコツは、とにかく相手に対して興味を持っている気持ちをアピールすること。
自分から近づいて声をかけたり、「お会いできてうれしいです」などと口に出して伝えたりしてみる。
趣味や関心事について、できるだけ早く共通点を見つけ出せれば、あとはその話題を続けるだけで盛り上がることができる。
相手のSNSなどがわかっているなら、事前に趣味や関心事を調べる手もある。
褒める
「お世辞」のところでも触れたが、相手の良いところに気がついたらその場で言及していくのは良いこと。
ただし、昨今はハラスメント関係などのリスクもあるため、そういう場合には相手に直接関わることは褒めずに、目に入ったモノ・気になったコトを褒めるのが最善。
話すためのインプット
この章では、話(アウトプット)の元となる情報や知識のインプットについて書かれている。
たくさんのインプット
どんな業界でも、仕事でいいアウトプットをしたかったら、その3倍くらいのインプットをしておく必要がある。
複数の媒体で複合的にさまざまな情報をインプットしておくと、たいていの雑談に対応できるようになる。
気をつけたいのは、インプットはアウトプットをするための手段にすぎないということ。
インプットした情報は、誰かにしゃべったり、SNSで発信したりしてアウトプットする習慣を身につけておく。
新しい経験
人間、特に男性は、年齢とともに変化を恐れる気持ちが強くなり、新しいものが受け入れられない体質になっていく。
そうした習慣は捨て、意識的に新しいもの、違うものに目を向けるようにしたい。
新しい経験をすると、情報が増えるだけでなく、視野が広がる。
新しいことに挑戦して、必ずしも前よりも良くなるとは限らないが、少なくとも話のタネにはなる。
流行りと偏愛
流行に乗るのは恥ずかしいという価値観は、特に男性が抱きがちであるが、そうした意識は捨て、積極的に流行りものに触れておくべき。
流行っているものには、それなりの理由がある。
また、流行っているということは会話をする上で共通の話題になる可能性がそれだけ高いということであり、吸収した知識も相まって、雑談力は確実にアップする。
一方で、マニアックに偏愛する対象を持つことも重視すべき。
偏愛しているものについて語るとき、人は「その人らしさ」を出せるため、自分を知ってもらいたいときには好都合だし、好きなものについて語ることは単純にとても楽しい。
フレーズの蓄積
普段から、定番フレーズや使えそうなフレーズをノートなどに書き写しておき、場面に応じて使ってみることで表現の幅が広がる。
入念な準備
ぶっつけ本番で上手に話せる人は、ほんの一部の天才だけ。
スピーチが上手な人は必ず事前に入念に準備をしている。
賢いと思われるような話し方をするには、語彙力を身につけるのが有効。
読書、とりわけ文学作品を読むことは、語彙を増やすための近道である。
日本語の面白さにハマる
この章では、主に安住氏の日本語研究の成果が書かれている。
雑学的な部分については割愛するので、気になる方は本書を実際に手に取って見てほしい。
音読み、訓読み、カタカナ語のバランス
私たちが普段使っている日本語には、漢語、英語、その他の外国語(カタカナ語)が含まれている。
これら言葉のバランスをある程度意識して、心地よい話し方をすべき。
訓読みの大和言葉は、最近では使われることが少なくなっているが、だからこそ訓読みの形容詞を意識してあえて使ってみると全体の印象を変えることができる。
カタカナ語は便利なので、必要に応じてどんどん使うべきだが、連発すると話が胡散臭く感じられてしまうため、使いすぎないように注意。
場の制圧
相手にはっきりと意思を伝えたいなら、場を制することができるかどうかがカギとなる。
内容も重要だが、演説が上手な人は、見た目・服装・立ち振舞い・声など、場を制するための強みを持っていることが多い。
相手に話を聞いてもらいたいなら、相手の関心事に触れるのが一番。
年齢や性別、職業、発言などから、相手が食いつきそうな話題をセレクトする。
そのためには普段から幅広い知識をインプットしておくことが大切。
場のコントロール
複数人の会話において、場を良い雰囲気に保つためには、一部の参加者が不満を持たないように全体のバランスを取り持つことが必要。
発言していない人に話を振るなどし、バランスを保つように取り計らう。
発言させる機会がなかなかないときでも、目線を送るなど、フォローする方法はある。
上機嫌で話すマインドセット
この章では、上手な話をするために心を安定した状態に持っていく方法について書かれている。
失敗の克服
心の強さを得る1つの方法として、高い目標を持つという手段がある。
ただし、高い目標を設定すれば、失敗し、落胆する機会もそれだけ多くなる。
失敗については考えすぎず、次の機会に向けて気分を上げることを考える。
気分を上げられるような手段をいくつか持っておくのがおすすめ。
批判
表に出て話せば多かれ少なかれ批判は受けるもの。
自らが批判を受けたとき、建設的な意見には耳を傾けるべきだが、偏った感性を持つ一部の人々の言説に振り回されすぎないことは大切。
ネットで否定的なコメントを見かけたときは、その人のページをたどれば、すべての事象に対してとりあえず文句を付ける人なのか、真っ当なコメントをする人なのかがわかる。
ネガティブな発言
意見を求められたとき、あるいはSNSなどに自分の考えをアウトプットするとき、ネガティブなコメントをすることは避けたほうがいい。
ネガティブにけなすと、相手の反感を買うだけでなく、その人の友人や家族をも不愉快な気分にさせてしまう。
自分の意見と違うものは、受け入れるか、それが無理なら黙ってスルーするのが得策。
日常生活
そのときどきの機嫌や好不調に影響されてパフォーマンスが落ちることは、社会人の失敗パターンとしてありがちなこと。
そういった事態を避けるために、機嫌が悪くなる可能性があるようなことを仕事の前にしないように注意する。
また、普段の生活において、メンタルを絶好調の状態で安定させられるように訓練しておくのも大切。
おしゃべりがうまい人や、陽気なテンションを維持している人と過ごして気分を上げていくのも良い方法。
ただし、本当にどうしようもなく疲れているときは、一人で休養を取ることも大事。
まとめ
上手な会話をするための話し方や話題の選び方、気持ちの作り方について、わかりやすく解説された一冊だった。
アナウンサーという、自らについて語ることの少ない職業についている人の思考が見られるという点も面白かった。
国語や会話のプロの本というだけあって、全体的に読みやすく、内容も汎用性があるので、気軽に手に取れる一冊としておすすめしたい。
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