2023年7月に初版が発行された本。
著者の山本渉氏は、マーケティング会社の統括ディレクター。小さなプロジェクトから100億円を超える大型案件まで、年間100近いプロジェクトをメンバーに依頼している人物。
本書は、著者のこれまでの経験を元に「相手を成長させて感謝させる任せ方」について解説した本。
ページ数はあとがき等まで含めて270ページほど。特に専門用語は登場しない、誰にでも読みやすい本である。
本記事では重要な部分を抽出してまとめている。
頼み方のコツ
- 意欲創出
「感謝する」「褒める」「その人しかできない特別感」の3つの要素を入れて頼むようにする。 - 目的の明確化
何を目的とし、その仕事がどう役立つのかを伝えることで、単なる「作業」に意義と価値が加わり、「仕事」になる。 - 欲求充足
頼む相手の欲求を満たす、利他的依頼をする。 - 選択肢の提示
スケジュールや負担に配慮し、断る選択肢を残した頼み方をする。 - 好意の伝達
「自分のことをきちんと覚えている、よく理解してくれている」と感じてもらえるように頼む。 - タイミングへの配慮
褒めたタイミングで依頼をするのがベストタイミング。 - 威張らない/謝らない
感謝は必要だが、謝罪は不要。
頼む相手の選び方
頼んだ仕事で良い結果が出るか否かは、頼んだ相手に左右される。
頼む相手が「やりたいこと(意欲)」と「得意なこと(適正)」の両方にマッチングした仕事を与える。
不得意な分野に関する仕事を任せるのは得策ではないが、不得意なことが多いメンバーに仕事を任せないというわけにはいかない。その際のポイントは以下の3つ。
- すぐに直る短所は改善する
- 短所をポジティブに活用できる場所を模索する
- チームで補強し合う
チームを組む際、マネージャーは俯瞰で全体を見て、バランスを保つ。例えば全員が全員がガツガツ攻めるような、バランスを欠いたチームの仕事は成功しない。
日常のコミュニケーション
依頼をするときだけ気をつければ良い、ということではなく、依頼をする前後のコミュニケーションも重要。
依頼をする前に、メンバーの人となりを把握しておく必要がある。そのために、普段のコミュニケーションでは、徹底的に聞き手にまわるように心がける(2割話して8割聞くイメージ)。
日常会話以外に「1on1」も有効。話すべきは「重要度が高くて緊急度が低い話」
雑談や冗談を交えつつ、「重要度も緊急度も低い話」から始めて、徐々に「長期的な希望」や「悩みや不安」の話に持っていくのがコツ。
面談などで得たメンバーのプロフィールは忘れないように記録しておく。
時代に合った任せ方
多岐にわたるマネージャーの業務の中で、軽んじては行けないのが、メンバーの労務管理と健康管理。なるべく無理をさせない工夫と、負担軽減の配慮を忘れないようにする。
いわゆるZ世代は、昔の社員ほど昇給や出世への意欲はなく、代わりに成長欲求が強まり、パーパス(存在意義)を重視する傾向がある。正しく任せば成長が可能だし、仕事の意義や目的を明確化させることでパーパス重視の思考に答えることが可能。
Z世代に限らず、多様性を尊重したマネジメントスタイルが今後は不可欠となる。支配型ではなく、メンバーを主役と捉えて個々の力を強化する「サーバントリーダーシップ」、一人ひとりの自主性を重んじて、点ではなく面で拡大成長していく「インクルーシブリーダーシップ」を目指す。
正しい丸投げ
かつて優秀なプレーヤーだったマネージャーで、「任せられる優秀なメンバーがいない」という人が一定数存在する。しかし、任せないでいるといつまで経っても任せられるようにはならない。メンバーの力を信じ、多少の失敗は長い目で見れば成長のための投資だと考えて、見守ることが必要。致命的な失敗だけはしないように軌道修正だけして、あとはそっと見守る。
「自分でやったほうが早い」という人もいる。短期的にはそのとおりなのだが、長期的には、チーム全体の水準を引き上げたほうが良い。自分一人でできることには限界がある。育成にリソースを割くことによって、自分の成果が多少抑えられたとしても、複数のメンバーが成長し、成果を発揮できるようになった方が、組織としてのパフォーマンスは大きくなる。
「任せる」と決めたら、細かい口出しをしないように注意。多少自分の考えと違っているくらいでいちいち口出しをすると、メンバーの主体性は失われ、成長しない指示待ち人間になってしまう。過度なプレッシャーや期待がない、適度なチャレンジであれば、頼み方のコツさえおさえておけば、丸投げは悪いことではない。
育成
相手のレベルによって、育成方法を変えることが重要。
まだ右も左もわからない新人に対しては、答えを教える「ティーチング」が有効だが、ある程度経験を積んだメンバーに対しては、直接的に答えを知らせるのではなく、質問を重ねて答えに導く「コーチング」がおすすめ。その中間である「ディレクション(=大きな方針だけ伝える)」を行うことも多い。
自信が持てないメンバーには、「リミッターを外す」という、マインド部分での処置が必要。次の3ステップを行う。
- 成功体験を見る
先輩のサポートにより、本人の能力以上の結果を出して、成功を目撃させる。 - 成功体験をつくる
スムーズにサポートの手を離して、本人の力で成功体験を作らせる。 - 成功体験を教える
本人が後輩に教えることで(=アウトプット)、完全に習得できた状態になる。
若手が急激に成長するのは、次の4要素が揃ったとき(新4P理論)。
- Person:適した人材であること
- Place:経験に応じた舞台であること
- Prepare:メンタル部分も含め準備ができていること
- Pressure:大きすぎない、適度な期待と挑戦があること
褒め方
「褒める」とは、「良いところを見つけ出す」ということ。ぱっと見つからない場合でも、「リフレーミング」を使えば短所を長所と捉えられる(例:仕事が遅い→丁寧で慎重)
リフレーミングは、短所をポジティブに活用できる場所を模索するのにも役立つ。
リフレーミングをしても、誰に効いても褒める箇所が見当たらない、というケースでは「伸びしろがある」という魔法のワードがある(最終手段)。
本人に対して褒める際には、対象の「過去」と比べて褒めるようにする。ビジネスにおいて褒めるべきは、どちらかと言えば「結果」だが、経験が浅いメンバーは「プロセス」を褒めることも大切。
褒めるタイミングでもっとも効果的なのは、メンバーを取引先や社内の他部署に紹介するとき。ただし、オープンな場では、はっきりとした基準を設けて褒めることには注意。曖昧な基準で褒めると、褒められなかったメンバーのモチベーション低下につながる。同様の理由で、「他人と比べて褒める」ことはしてはならない。
叱り方
「叱る」とは言っても、子どもに対して「コラッ!」というような叱り方はビジネスではNG。
叱ることはあくまでも手段であって、目的ではない。
冷静に問題を「指摘」し、どうすべきか「指導」し、改善できるように一緒に考えて「誘導」をするというのが、ビジネスでの正しい叱り方。相手がミスを認識しているなら「指摘」はカットしていいし、すでに反省もしているのなら、「誘導」に注力すればいい。
モチベーション低下の対策
モチベーションが低下する主な要因は以下だが、これまでに解説してきた内容によって対策できる。
- やりたい仕事ではない→意欲・適正を考える
- 向いている仕事ではない→意欲・適正を考える
- 仕事に意義を感じない→目的を伝え、共に目指す
- 将来性がない→目的を伝え、共に目指す
- 仕事にプライドが持てない→目的を伝え、共に目指す
- 上司が見てくれていない→褒める
- 評価されない→褒める
- 期待されていない→任せる
- 仕事に達成感がない→任せる
- 成長を感じない→任せる
まとめ
仕事を「丸投げ」することのメリットと、丸投げする際のコツについて詳細に解説された1冊だった。筆者も言及しているように、記載されているすべての事項がすべての企業・組織に当てはまるわけではないが、どんなマネージャーにも、参考になる部分があると感じる。部下や後輩などがいる方にぜひおすすめしたい。
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