2019年8月に初版が発行された本。
著者の樺沢紫苑氏は精神科医として働く傍ら、これまでに30冊もの著書を執筆してきた作家としても知られている。
本書では質の高いアウトプットを出す前提としての、質の高いインプット方法について紹介されている。
ページ数は約270ページで、専門的な用語は少なく、図の掲載もあるため、読みやすい本となっている。
アウトプットとは
そもそもインプットをするのは、アウトプットをするためである。
ただインプットのみを行ってアウトプットしないのでは意味がない。
そこで、インプットの話が始まる前に、アウトプットについての説明がある。
アウトプットには4つの原則がある。
- 2週間に3回以上アウトプットすると長期記憶として残りやすい
- 自己成長するには、螺旋階段を上るようなインプットとアウトプットを繰り返す
- インプットとアウトプットの時間の割合は3:7が最適
- アウトプットのフィードバックを次のインプットに活かす
アウトプットについての4原則を徹底し、インプットの質も上げていけばどんどん自己成長が加速する。
インプットの基本原則
インプットにおいて大切なのは「量」よりも「質」である。
自分にとって本当に必要な情報・知識に狙いを定めて、ピンポイントで集めることで、時間を短縮でき、アウトプットも効率的に行えるようになる。
インプットをする際に陥りがちなのが「なんとなく」読む/聞く/見る、という行動。
これは見かけ上インプットしているようだが、実際のところ頭には何も入っていない。
大事なのは、目標と期限設定をし、「注意深く」読む/聞く/見ることである。
さらに、インプットの際には会話やメモなどのアウトプットを同時に行うと効率良く記憶に留めることができる。
アウトプット前提のインプット
2週間に3回以上のアウトプットを行うことは、長期記憶として定着させるために有効な方法だが、もっと簡単かつ時間がかからない方法もある。
それが「アウトプット前提でインプットを行う」という方法である。
アウトプット前提にすると、心理的プレッシャーがかかり、緊張状態に陥る。
すると、脳内物質ノルアドレナリンが分泌され、その結果、集中力、記憶力、思考力、判断力が高まる。
選択的注意
興味関心分野を意識すると、選択的注意という脳内フィルターが働き、必要な情報をピックアップしやすい。
その方法としては、目標設定やアウトプット前提の他に、興味・関心のあるキーワードを書き出す、自分で自分に質問する、といった方法がある。
喜怒哀楽
喜怒哀楽を伴う記憶は、脳内物質が分泌されるため、アウトプットをしなくても残りやすい。
具体的には次のとおり
脳内物質 | 感情 | 実例 |
アドレナリン | 恐怖、怒り | ホラー映画の恐怖が忘れられない |
ノルアドレナリン | 悲しい、緊張、不安 | 愛犬との死別の悲しみが1年経っても忘れられない |
ドーパミン | 楽しい、うれしい | 20年前の結婚式の詳細を覚えている |
エンドルフィン | 感謝、楽しい | 学生時代の県大会の優勝を覚えている |
オキシトシン | 愛、親切 | 昔の恋人のことを何年も忘れられない |
逆に、次のような方法によって、こういった脳の仕組みを活用することで記憶を増強することができる。
- 漫画化、小説化されたビジネス書を読む
- ワクワクすることを勉強する
- 本を買ったら読みたい気持ちが強いうちに読む
- わからないと思った瞬間に検索する
- 大舞台で講演する
- 映画、美術鑑賞など、「感動」「学び」と連動させる
- 旅行から学ぶ
科学的に記憶に残る本の読み方
何かを学ぶときは、ステップを順番に上がる方がコスパが良い。
例えば、英会話を勉強する場合に、「apple=りんご」を知らない人がいきなりマンツーマンの高額レッスンを受けたところで、初歩的なことしか教えてもらえず、結果的には無駄が多い。
そこで、学びの最初のステップとしておすすめされているのが「本を読む」ことである。
読む量
分量としては月3冊程度が目安。
もちろん、「気付き」や「TO DO」を書き、感想を書き、家族や知人に内容を話し、書かれていることを実践するまでのアウトプットまでセットで行うことが前提である。
深く読み込み、アウトプットまで行っても時間が余るようであれば、読む冊数を増やしてみると良い。
中立な立場
本を読む際にはニュートラルな立場で読むことが大切。
先入観があると確証バイアスが働き、偏った情報しか入ってこなくなってしまうからである。
情報を偏らせないためには、ある事象に対してそれぞれ賛成、反対、中立の立場で書かれた3冊を読む「3点読み」や賛成、反対の立場で書かれた2冊を読む「2点読み」も有効である。
感想を書く
感想を書く際には、SNSやブログなど、他人が読める媒体に書くべき。
そうすることでプレッシャーがかかり、ノルアドレナリンが分泌される。
感想前提読書術の具体的方法7つを紹介する。
- 重要と思ったら、すぐにアンダーラインを引く
- 読み直したい、引用したいところに付箋紙を貼る
- 気付きや派生するアイデアなど、何でも書き込みをする
- その本の「ベスト名言」を選ぶ
- その本の「最大の気付き」を書く
- 今日から実践したい「最大のTO DO」を書く
- 短文でもいいので必ず感想を書く
失敗しにくい本の選び方
読む冊数が限られているので、できるだけハズレは引きたくないと誰もが考えるだろう。
その場合は、ネットではなく、書店で実物をパラパラと見て選ぶ、読書家や専門家が推薦する本を選ぶと、失敗しにくい。
学びの理解が深まる話の聞き方
「読む」が習慣化された人は、生で聞くというステップに進むと良い。
セミナーや講演など、直接人から話を聞くことは、言語的情報に加えて非言語的情報も得られるため、読書に比べて、圧倒的に情報量が多い。
また、感情を揺さぶるので、ドーパミンが分泌され、記憶に残りやすいというメリットもある。
講演、セミナーのコツ
講演を聞く際には、緊張状態に自らを置くため、最前列を陣取るのがおすすめ。
また、多少のメモは脳が活性化して集中力が高まる効果がある。
ただし、過剰なメモは逆効果であるだけでなく、非言語情報を受け取る機会が減少してしまうため避けるべき。
セミナーを受ける際には、目的意識を持つため、開始前の空き時間で、目的を3つほど箇条書きにしておく。
質問をすることは、理解を深めるのに役に立つ上、講師や周囲からも高い評価を得られるため、講演中に気になった疑問、質問はノートの余白にその都度書き留めておくと良い。
その他の聞き方
生で聞くという行為は、セミナーや講演に限ったものではない。
友人に教えを請いたり、耳学コンテンツを利用するのも効果がある。
耳学コンテンツは、移動中や作業中に聞ける、スマホとイヤホンだけで聞ける、無料コンテンツが充実しているなど、何かとメリットが大きい。
筆者おすすめの耳学コンテンツは次の5つ
YouTube | 世界最大の動画サイト。 音声だけ聞けば耳学コンテンツに。 音声専用コンテンツも多数。 |
オーディオブック | 活字が苦手でも、本から学びが得られる。 audiobook.jp、AmazonのAudibleなど。 |
Podcast | 歴史が長いのでコンテンツが充実している。 著名人のビジネスコンテンツも多数。 キーマンをフォローして継続的に学ぶのも良い。 |
ヒマラヤ | 中国発の音声プラットフォーム。 ビジネスコンテンツから芸人のお笑いコンテンツまで多彩。 5分ほどの短いコンテンツも多くスキマ時間に聞きやすい。 |
各種スマホアプリ | 英会話の音声を無料で聞けるアプリなど、様々な音声アプリが出ている。 |
すべてを自己成長に変えるものの見方
観察力を鍛えることには6つのメリットがある。
- コミュニケーション力がアップする
- 人間関係が良好になる
- 情報収集力が上がる
- 自己成長のスピードがアップする
- 変化に敏感になる
- ビジネスで成功する
観察時には、やはりアウトプットを前提とし、「なぜ?」を自らに投げかけて突き詰めて考えると良い。
観察対象は人間でも良いし、知らない街のお店や映画、絵画なども有効。
記憶定着にはアウトプットが一番良いが、できない場合には2週間で3回以上の繰り返しのインプットでもある程度の効果はある。
テレビを見る時間は人によって様々だが、総務省の情報通信白書(2017年)によれば全年代の平均テレビ視聴時間は159分/日
決して少なくはないテレビ視聴時間も、工夫次第でインプットの時間に変えることが可能である。
心がけるのは、アウトプット前提で見ること、面白いあるいは役に立つと思ったことは即座にメモすること。
その他、映画を観たり、ライブに行ったり、美術鑑賞をするのも良い。
いずれにせよ、必ずアウトプットを行うことが大切である。
最短で最大効率のインターネット活用術
適切なバランス
インターネットを駆使すれば、いつでもどこでも膨大な情報が手に入る。
しかしながら、情報ばかりを集めても意味はない。
情報というのは時間の経過とともに価値が落ちるからである。
それに対して、情報を分析、解釈して得られる「知識」は、時間が経過しても劣化が少ない。
情報よりも知識の方が長期的に役に立つ。
情報と知識の最適なバランスは3:7か、それよりも知識に寄っているくらいでいいということをあらかじめ頭に入れておく。
朝は貴重な時間
サラリーマンがやりがちな「朝の長時間のメールチェック」はNGである。
朝は「脳のゴールデンタイム」と呼ばれているほど、パフォーマンスが高い時間帯。
この時間で難しい作業をこなすためにも、朝のメールチェックは長くても10分以内にするべき。
また、メールはフォルダに自動振り分けされる設定にし、通知はオフにしておく。
嘘の見分け方
ネットは無料で膨大な情報が手に入る代わりに、嘘が紛れていることも多い。
ネット情報に接する際には次のことに気をつけたい。
- 信憑性の高いサイトか
- 誰が記事を書いているのか
- 個人の意見か
- 科学的根拠のある事実なのか
とはいえ、自分の専門外の分野に関して、情報の真偽について判断するのは困難だし、時間もかかる。
そんなときにはキュレーターをフォローするのが良い。
キュレーターを選ぶ際には、有名かどうかやフォロワーが多いかどうか以上に、「自分にとって重要な情報」を発信しているか、「この人とつながりたい」と直感的に思えるかが大切。
情報を自動で届けさせる
その他の時短方法として、次の3つを駆使すると良い。
- タイムラインに一元化
ex.Twitterでニュースやブログの更新情報を発信しているアカウントをフォローして、そこからすべて見られるようにする。 - Googleアラート
あらかじめ設定したキーワードに関する更新情報がメールで送られてくる。 - RSSリーダー
事前に登録しておいたURLのサイトの更新情報をまとめて教えてくれるサービス
検索のコツ
上記で対応できない情報に関しては、こちらから能動的に収集する、つまり検索するということになるが、その際にもいくつか気をつけることで効率的に目的の情報を得られるようになる。
いくつか有用なものをピックアップする。
- コマンド(演算子)の活用
AND検索 すべての語を含む検索 語と語の間にスペースを挟む OR検索 いずれかの語を含む検索 語と語の間にスペースを挟み、半角大文字「OR」を挿入 NOT検索 ある語を検索結果から除く 除きたい語の直前にマイナス記号「-」を置く ワイルドカード 不明な語句の代わりに使用 不明な語句をアスタリスク「*」で置き換える フレーズ検索 言葉やセリフ、タイトルの全文検索 キーワードを「””」で挟む
- Google検索なら、「動画」「画像」「ニュース」などを選択し、結果を絞る
- 期間検索で範囲を絞る
- 分野が分かっているなら最初からその分野の専門サイトで検索する
- 長文で検索する
- 音声で検索する
- サイト内検索をする
検索窓がなくても「site:(そのサイトのURL) キーワード」で検索できる。 - Google Scholar、Googleブックス等の利用
- 検索窓の電卓機能や通貨換算機能を利用
たどり着いたウェブページの情報はPDFで保存するのがおすすめ。
また、有用な情報はシェアすることで他の人の役に立つし、自分の記憶の定着にも寄与する。
あらゆる能力を引き出す最強の学び方
基礎的な事項が終わったところで、その他の事項について触れられている。
人と会う
「人と会う」ことは、自己成長の加速装置であり、究極のインプット術である。
ただし、「100人と1回」会うような会い方ではほとんど意味がない。
人と会うというのは何回も会うことを前提としており、そのためには初対面ですぐに次のアポを入れることが非常に重要。
また、相手から貰うだけではなく、自分も相手に何らかの価値を与えることも大切。
また、できれば1対1で会うのが望ましく、有用でない人(特に何かを要求してくるばかりでこちらには何のメリットも与えない人)の誘いは断るべき。
そして、そのつながりを継続し、一緒に成長していくことができればベストである。
コミュニティ
新しい人と会う場としては、コミュニティ(ビジネス勉強会、趣味サークル、スポーツ同好会、オンラインサロンなど)がおすすめである。
選び方のコツは次のとおり
- 主催者がリスペクトできる人である
- 目的、得られるものが明確で、それが自分の目的と一致している
- ある程度継続していて、実績も出ている
- (ネットコミュニティだとしても)定期的にリアルの例会が開催されている
- 参加者の評判が良い
- 安価なコミュニティならとりあえず入ってみるのも手
その他
- 自分と向き合い自己洞察力を高めるのが自己成長への近道
- 病気は自己洞察の機会や学びを与えてくれる
- 歴史はビジネス力、人間力を高め、失敗や成功の法則を教えてくれる
- 検定は勉強の目的ができるし、興味、好奇心、自信、ブランディングなど、メリットが大きい
- 語学学習は語学力以上に外国人とのコミュニケーション能力の向上のために必要
- 大学院は膨大なお金と時間が奪われるので特に社会人は慎重に検討すべき
- 旅は成長の機会が多い
- 食への探究心は持っておくべき
- 料理を習うのは脳の活性化と段取り力のトレーニングに役立つ
まとめ
インプットの効率を高める方法に特化して解説がなされている本だった。
インプットは(もちろんアウトプットも)社会で生きている限りはほぼ必要不可欠なものなので、そういった意味では万人に役立つ書籍と言えるだろう。
個人的に、インプットの効率の悪さで悩むことがしばしばあり、本書で初めて知ったこともいくつかあったので、今後活用していこうと思う。
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