サブスクリプションシフト DX時代の最強のビジネス戦略

2020年1月に初版が発行された本。

著者の荻島浩司氏は、デザイナー、プログラマーなどの経歴を経て、1996年に有限会社デジタルコーストを設立し、「TeamSpirit」などのクラウドサービスを開発した。
現在は社名を株式会社チームスピリットへと改称し、東証マザーズに上場している。

本書は、チームスピリットの経営とそれ以前の筆者の経験を元に、DX(デジタルトランスフォーメーション)、SaaS(Software as a Service)/サブスクリプションのビジネスモデル、DX時代の生産性と創造性などについて解説した本である。

ページ数はあとがき等まで含めて約250ページ。
TeamSpirit(サービス)やチームスピリット(会社)にまつわるエピソード、サブスクリプションに関連するような用語が多く登場するため、これらについて予備知識を持っていた方が読みやすい。

なお、本記事では汎用性を重視し、チームスピリットや筆者に関する個別的エピソードについては割愛する。

DX(Digital Transformation)

経済産業省によればDXの定義は以下のとおり

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確保すること

ここで重要なのは、「DX」はアナログレコードがCD化されるといったような、単なる「デジタル化(デジタイズ)」ではないということ。

クラウド、モバイル、AI、IoTといったテクノロジーによって収集・蓄積されたデータが、ビジネスを変えるということがDXの本質である。

例えば、Amazonが運営するレジ無しのコンビニ「Amazon GO」は、単なるレジ人員の省力化という位置付けではなく、店舗での購入体験すらデータを蓄積する場所に変え、顧客に新たな提案や買い物体験の提供を行うための仕組みである。

日本でも、元々は仏事関連の専門雑誌の発行をしていた鎌倉新書が、自社のデータを活用して、葬儀関連、相続相談、生前整理といった終活全般の提供へとビジネスを拡張させた。

このように、本業と最新のITを組み合わせることで、まったく新しいサービスが登場する可能性がある。
そして、これからの時代は、すべての産業、企業がそのような変革を行う必要に迫られるだろう。

SaaS/サブスクリプション

サービス化の流れは、製造業など、実物を扱う産業だけではなく、IT産業にも及んでいる。

SaaSとは、従来、パッケージなどで提供することでユーザーのマシンにインストールしていたソフトウェアを、クラウドコンピューティングによるサービスとして提供する形態のこと。

つまり、SaaSは、ソフトウェア自体を販売するのではなく、ソフトウェアを利用することで得られるベネフィットをサービスとして提供している。

そして、SaaSの販売方法は、従来のような売り切り型ではなく、ユーザーの利用期間に応じて代金を回収するサブスクリプションというビジネスモデルが近年急速に普及した。

その大きな理由が、サブスクリプションモデルは従来の「パッケージ型」や「受注型」と異なり、販売企業に対して「収益の安定化をもたらす」という経営上の利点である。

では、なぜサブスクリプションビジネスが事業モデルとして強力なのか、それを以下の3つの公式を用いて考察する。

【公式①】

売上 = 単価 ✕ 数量 ✕ 購入回数

公式①は、マーケティングの教科書などにも書かれているビジネスの基本である。
サブスクリプションにおいては、「単価」は「月額利用料」、「数量」は「ユーザー数」、「購入回数」は「利用期間」と見なせば良い。

サブスクリプションでは一般に単価(利用料)は低く押さえられているので、売上を上げるためには、「いかに多くのユーザーに長く使ってもらうか」がポイントとなる。

そのために最も重要なのが「シングルソース・マルチテナント」の維持になる。
これは簡単に言えばひとつのソースプログラムをすべての顧客が利用するという意味。
ソースプログラムをひとつにすることで、法改正への対応やシステム上の改修が必要になったような場合でも、顧客に新しい費用を負担させることなく即座に変更を反映できる。

逆に言えば、シングルソース・マルチテナントを維持し、常にすべての顧客に最新の機能を提供することによって、少ない労力でユーザー数の維持を行うことができる。
そして、余剰のリソースを新たなサービス開発や営業に割くことができる。

これは、一度製品を売ってしまうと、またゼロから顧客の開拓、製品開発を行わなければならないパッケージ型や受託型にはない大きなメリットとなる。

【公式②】

年間売上 = 新規契約金額 ✕ 約1/2 + 前年度売上高

 公式②は決算書での数値の表れ方を端的に示したもの。

例として、月額100万円の年間契約サブスクリプションサービスに対して、ある年の1月から12月まで毎月1社ずつの新規契約があったと仮定する。

パッケージ型のサービスの場合、この年の売上は1,200万円/社 ✕ 12社 = 1億4,400万円となるが、サブスクリプションサービスではそのようにはならない。

実際のお金は契約時に1年分の1,200万円/社が動いているのだが、月ごとの利用に対して料金が発生しているので、会計上、初月の売上は100万円となり、残りの1,100万円については、「前受収益」として扱われ、「負債」として処理される。
そして、そこから毎月、前受収益100万円が売上に振り替わるという処理になる。

結局、その年の入金額はパッケージ型と同じ1億4,400万だが、会計上の売上は1,200万円 + 1,100万円 + ・・・+ 100万円 = 7,800万円となり、これが公式の「約1/2」が意味するところである。

あれ、これじゃ売上が大きくなるパッケージ型の方が良くない?と思った方はたくさんいるだろう。
実際、サブスクリプション黎明期はそのように考える株主も多く、投資家の理解を得るのは困難だったという。

しかし、サブスクリプション型のサービスが強みを発揮するのは2年目以降である。

2年目にすべての企業が契約を更新した場合、2年目単年の売上は1年目と同様に約1/2しか計上されないが、それに加えて、1年目に前受収益として計上されていた金額が売上に振り替わるため、合計すると年間契約金額と同額が売上として計上される。

そしてそれは、企業が契約を更新する限りは3年目以降も続き、さらにそこに新規の契約金額の約1/2が上乗せされるということになる。

つまるところ、パッケージ型のある年の売上はゼロからのスタートとなるのに対し、サブスクリプション型は前年度売上高からのスタートとなる。
年を追うごとにその差が開いていくのは明らかだろう。

【公式③】

LTV = 月額(年額)の利用料金 ✕ 1顧客の離脱までの平均継続期間

「LTV」は「Life Time Value」の略で、「1人の顧客が生涯にわたってどのくらいの価値を生み出すか」を示す指標である。

サブスクリプション型サービスにとっては、LTVをできる限り正確に計算することが、事業の成長を左右する。
LTVがわかれば将来的な売上の予測が可能になるので、売上予測が立ちにくいパッケージ型サービスと比べて、より大胆な投資をすることができる。

以上をまとめると、単年度の利益こそ小さくなるが、長期間使い続けてもらうことにより、その何倍もの収益が見込め、正確な売上予測とそれに基づく投資により、さらなる顧客獲得を効率的に行える、というのがサブスクリプション型サービスの利点となる。

DX時代の生産性と創造性

近年問題になっている日本の生産性の低さ。
時間当たりの労働生産性は、OECD加盟36ヵ国中20位、1人当たりの労働生産性は21位と、先進国の中では最低レベルの水準となっている。

そもそも生産性とは、シンプルにいえば、投入した材料や設備、人間の働きなどのすべての要素から、どれだけのアウトプットが得られたかを示す指標であり、式で表すと次のようになる。

生産性 = 付加価値/労働投入量

上記の式をさらに分解すると次の式になる。

生産性 = (ビジネスモデル ✕ 能力 ✕ 直接時間)/(直接時間 + 間接時間)

まず、分母の直接時間と間接時間だが、これらは、企業の利益や価値に直接貢献する「コア業務にかける時間」と、そのコア業務を支援するための間接的な「ノンコア業務にかける時間」と言い換えることができる。

直接時間を増やして、間接時間を減らすというのが、一般的な効率化のためのアプローチとなる。

間接時間を減らすためにはまず、間接時間にはどのようなものがあり、どのくらいの時間をかけているのかを把握する必要がある。

一般的には、間接時間に含まれる業務は次のようなものがある。

  • 経費精算
  • 労務管理
  • 請求書作成、発送準備
  • 各種稟議
  • 電話の取り次ぎ
  • 会議

これらの開始時間と終了時間を記録しておくことにより、業務にかかった時間を把握することができる。
(TeamSpiritをはじめとしたツールを使うことにより、これらの記録作業は自動化が可能)

間接時間を把握したら、同じ業務を行っているメンバーと比較し、より良い働き方を模索することで改善を図れる。

また、個人単位ではなく、組織単位でシステムを導入し、間接業務自体を自動化してしまう方法も効果が大きい。
この場合、システム導入のためのコストはかかるが、それによる業務削減の効果や、従業員の負担軽減を考えると、検討する価値は十分にある。

続いて、分子について考える。

分母が「効率」の追求であるとすれば、分子は「効果」の追求と言うことができるだろう。
これには、より創造的な活動が必要となる。

まず、創造的な仕事を3段階に分類してみる。

  1. 手作業:属人的な能力と作業により創造的なアウトプットを生み出す活動
  2. 仕組み化:創造的なアウトプットを生み出すための、仕組みを生み出す活動
  3. パラダイムチェンジ:仕事自体を再定義して、従来の作業を不要にする活動

筆者の考えでは、3を「ビジネスモデル」変革、2を「能力」の向上として捉え、1の「直接時間」をかけ合わせたものが付加価値の源泉になる。

これまでの日本企業は、ビジネスモデルや能力を改善することなしに、直接時間だけを増やしてアウトプットの量を増やそうとしてきた。
そして、それが長時間労働の蔓延、生産性の低下を招くこととなった。

能力の改良は比較的簡単で、最新のITを導入して仕組みを変えたり、教育、トレーニングによって個人のスキルをアップしたりするという方策がある。
対して、ビジネスモデルの改良は根本的な革新が伴うため、難易度は遥かに高い。
しかし、これからのDX時代を生き抜くには必須の要件となるだろう。

何かを「創造」するためには、様々な夢や可能性を「想像」する時間が必要となる。
そのためには、細切れではなく、まとまった時間を「考える時間」として取れるようなタイムマネジメントを行わなければならない。

ビジネスモデルを変革させるためのポイントは、仕事の上流に遡り、仕事を定義しなおすことである。
その際は、次の3つの原則を覚えておくと良い。

  1. 既存のカテゴリーを壊す
  2. トレードオフ思考をやめてクワドラント(4象限)で考える
  3. 高い目標を掲げギャップを埋めるために自律的に行動する

目標を実現するためには、目指す姿を明確に記述して、タスクに落とし込むのも良い。
ゴールとタスク、期間を設定したら、あとはそれをスケジュールに落とし込んでいく。

まとめ

サブスクリプションの飛躍的な成長の理由、これからのビジネスの変革と、新たな時代を生き抜くための進化についての内容が役立つと感じた。

本記事では割愛したが、TeamSpiritを使うことによりどのような恩恵が受けられるのか、筆者がどのような経歴を辿り、どのような思いでチームスピリットを経営しているのかも記載されているので、気になる方は手にとって見ると良いだろう。

 

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